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「待てよ」


 男の手を止めたのは、聞きおぼえのある声だった。

 新しくやってきた柄の悪そうな数人の男達。

 その先頭に立つのは、因縁浅からぬ仲の金髪の男。


「金髪男、じゃなくて。紅蓮……」

「久しぶりだな、犬女」


 確かに久しぶりだけど……最初に会う相手が紅蓮なんて、ちょっと残念な感じだ。

 なんて、私が失礼な事を考えている間に、ナンパしてきたプレイヤーは紅蓮達に取り囲まれていた。


「な、なんだよ、おまえら」

「ああ? てめえらこそなんだよ」

「俺達と遊ぶ? 暇だし、いいよーん」

「い、いや。俺達は、そっちの子達と……」

「……ああ?」

「や、なんでもないです……」


 最初は威勢がよかったナンパプレイヤーも、紅蓮達の柄の悪さに負けたのか、すごすごと去っていった。

 お礼を言わなくちゃ。

 でも、私より先にキサラが前に出てお礼を口にした。


「あの! 助けてもらってありがとうございます!」

「あ? ……犬女のつれか」

「犬女って、お姉ちゃんのことですよね? はい、キサラって言います!」

「……犬女の妹か」

「はい! あの、名前はなんとおっしゃっるんですか?」


 おお? なんだかキサラがやけに積極的だぞ?

 紅蓮は面倒そうな顔を隠しもしないで、金髪をかきあげる。


「……知りたかったら、お前の姉に聞け。じゃあな、犬女」

「あ、金髪男。じゃなくて紅蓮、ありがとうね!」


 紅蓮は振り返らずに、そのまま歩き去っていった。

 うーん。まあ、いいか。

 助けてもらったし。

 私がなんとなく紅蓮達を見送っていると、隣からうっとりとした溜め息が聞こえてきた。


「紅蓮さん、って言うんだね、あの人。……格好良いね」

「はあ!?」


 思わず奈緒をーーいや、キサラを凝視してしまう。

 今、なんて!?

 紅蓮が、格好良い!?

 奈緒は頬を赤く染め、瞳を潤ませて紅蓮の背中を見つめている。

 うわー……、え、どうしよう。これ……。


 私は急に頭痛に襲われて頭を抱え込む。


「ピィ?」


 うっとりするキサラに、頭を抱えている私。

 そんな私達姉妹を、レヴィが不思議そうに見比べていたのだった。


 

 その後、街に戻る道すがら、私はキサラにねだられるままに紅蓮とのことを話した。

 悪意は込めず、出来るだけ客観的に話したつもりだけど、「あんまり仲良くないんだね」と言われてしまった。

 うーん。言葉の端から何かが滲み出ていたかな?


「お姉ちゃんには悪いけど、あたしは紅蓮さんと仲良くなりたいなあ」


 上目遣いで言われて、私は肩を落とす。

 キサラがそうしたいなら、別にいいけど。いいんだけど。


「……ねえ、キサラ」

「ん? なに、お姉ちゃん」

「紅蓮のこと……ううん、なんでもない」


 聞けない。聞けないよ。

 紅蓮に惚れちゃったのかなんて。


 私は首を振って溜め息を落とした。

 今回のオンラインは、いろんな面で前途多難のようだった。



とりあえず奈緒編はここまでです。

続きは希望する方がいれば考えます。

お読みいただき、ありがとうございました!

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