四
「待てよ」
男の手を止めたのは、聞きおぼえのある声だった。
新しくやってきた柄の悪そうな数人の男達。
その先頭に立つのは、因縁浅からぬ仲の金髪の男。
「金髪男、じゃなくて。紅蓮……」
「久しぶりだな、犬女」
確かに久しぶりだけど……最初に会う相手が紅蓮なんて、ちょっと残念な感じだ。
なんて、私が失礼な事を考えている間に、ナンパしてきたプレイヤーは紅蓮達に取り囲まれていた。
「な、なんだよ、おまえら」
「ああ? てめえらこそなんだよ」
「俺達と遊ぶ? 暇だし、いいよーん」
「い、いや。俺達は、そっちの子達と……」
「……ああ?」
「や、なんでもないです……」
最初は威勢がよかったナンパプレイヤーも、紅蓮達の柄の悪さに負けたのか、すごすごと去っていった。
お礼を言わなくちゃ。
でも、私より先にキサラが前に出てお礼を口にした。
「あの! 助けてもらってありがとうございます!」
「あ? ……犬女のつれか」
「犬女って、お姉ちゃんのことですよね? はい、キサラって言います!」
「……犬女の妹か」
「はい! あの、名前はなんとおっしゃっるんですか?」
おお? なんだかキサラがやけに積極的だぞ?
紅蓮は面倒そうな顔を隠しもしないで、金髪をかきあげる。
「……知りたかったら、お前の姉に聞け。じゃあな、犬女」
「あ、金髪男。じゃなくて紅蓮、ありがとうね!」
紅蓮は振り返らずに、そのまま歩き去っていった。
うーん。まあ、いいか。
助けてもらったし。
私がなんとなく紅蓮達を見送っていると、隣からうっとりとした溜め息が聞こえてきた。
「紅蓮さん、って言うんだね、あの人。……格好良いね」
「はあ!?」
思わず奈緒をーーいや、キサラを凝視してしまう。
今、なんて!?
紅蓮が、格好良い!?
奈緒は頬を赤く染め、瞳を潤ませて紅蓮の背中を見つめている。
うわー……、え、どうしよう。これ……。
私は急に頭痛に襲われて頭を抱え込む。
「ピィ?」
うっとりするキサラに、頭を抱えている私。
そんな私達姉妹を、レヴィが不思議そうに見比べていたのだった。
その後、街に戻る道すがら、私はキサラにねだられるままに紅蓮とのことを話した。
悪意は込めず、出来るだけ客観的に話したつもりだけど、「あんまり仲良くないんだね」と言われてしまった。
うーん。言葉の端から何かが滲み出ていたかな?
「お姉ちゃんには悪いけど、あたしは紅蓮さんと仲良くなりたいなあ」
上目遣いで言われて、私は肩を落とす。
キサラがそうしたいなら、別にいいけど。いいんだけど。
「……ねえ、キサラ」
「ん? なに、お姉ちゃん」
「紅蓮のこと……ううん、なんでもない」
聞けない。聞けないよ。
紅蓮に惚れちゃったのかなんて。
私は首を振って溜め息を落とした。
今回のオンラインは、いろんな面で前途多難のようだった。
とりあえず奈緒編はここまでです。
続きは希望する方がいれば考えます。
お読みいただき、ありがとうございました!