5:忌笛
■忌笛
口笛を吹くことが禁忌とされるときがある。
不謹慎である場合のほかに、峠道や夜などではタブーとされてきた。
峠はこちらとあちらの世界の境目であり、一説によれば口から息を吐くという行為が、何かしら魂を持たぬものに「息を吹き込む」ことにつながるからだという。
それも、本来であれば天から与えられるべき「天命」ではなく、土に属する人間の息のおこぼれにあずかるのだから、そのいわば魂もどきである「仮初の息」は、天命を授かれなかったものたち、妬みや憎しみといった情念が形(存在)をもつための手段となり得るそうだ。
夜のほうは、夜に口笛を吹くと蛇が出るという言い伝えであり、こちらは一般的だろう。
通信手段のなかった時代、強盗や人さらいが合図に口笛を使っていたため、不吉なものとしてタブーとした説が知られているが、俗説にはこんなものもある。
蛇、つまり邪なるもの来るというのだ。
口笛は古来「ウソ」と言う。
漢字では使い分けられているが、嘘を「吐く」と吐の字を用いることからも、嘘と口笛のウソは本来どちらも「息を吐くこと」を表す言葉だった。
口笛を吹くことを「ウソぶく」と言い、このことから「嘘ぶく」は口笛を吹いてごまかす様子からきていると考える人もいる。
嘘と蛇。 どこか創世記を連想させる言葉の組み合わせであるが、これに先の仮初の息を併せて考えたとき、ひとつの疑問に突き当たる。
心霊的エネルギーとされるエクトプラズムなどは口や鼻から出現するし、口笛の息も口から生じる。 魂の出入口を口だとする考え方は、おそらく多くが共感できるものだろう。
だが、創世記において人が神から息、すなわち魂を吹き込まれたのは「鼻」なのである。
では人がウソを吐くとき、口から生じたその言霊は何に息を吹き込んでいるのだろうか。
≪出典≫ オカルト投稿板「ウサンク」 投稿者: ないとメア より転載