表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

自切①

「子供は――時に残酷なものです。私にもそんな一面がありました」

 間山泉(まやまいずみ)は深く息を吐いた。

「近所の公園で遊んでいたときです。よく一緒に遊んでくれた男の子が、草むらから飛び出したカナヘビをみつけました」

 そう、これくらいだったかしら、と泉は親指と人差し指で寸法を示した。

「私が怖がると、男の子は『平気だよ』と、カナヘビの尻尾を掴みました。男の子は怖がる私を面白がって、逆さまになったカナヘビを私の顔に近づけました。カナヘビは逃げようと必死に手足をバタつかせ、頭を左右に激しく振ってました。男の子が更にカナヘビを近づけたので、私は必死にその手を払いました」

 泉は顔にかかる髪の毛を耳に掛けた。

「私の手が男の子のカナヘビを持つ手の手首あたりに当たると、カナヘビは大きくカラダを振られて、その勢いで飛んで行きました。私は男の子が手を放したのだと思いましたが、男の子の手にはしっかりと尻尾が残っていました。尻尾の切れたカナヘビを目で追うと、草むらに一目散に逃げていきました。そのときはかわいそうなことをした――と思いました。でも……」

 泉は言葉を探す。

「男の子が言ったンです。『尻尾が切れても大丈夫だよ』って。男の子はそう言って、切れた尻尾を地面に落としました。私はそれを見て驚きました。切れた尻尾が動くなンて、そのときの私には想像もつかないことでした」

 泉は視線を宙に彷徨わす。

「でも、男の子は、『面白いだろ』って笑ってました。私は――どうしたと思います? 尻尾が切れても大丈夫だと知り、安心して笑ったンです。尻尾のない不恰好な姿で逃げたカナヘビを思い出しながら、くねくねと動く尻尾を見て笑ったンです」

 残酷ですよね、と泉は微笑んだ。

「後に、カナヘビのその行為は、生命を守るために備わった能力だと知りました。『自切(じせつ)』というンですってね。ご存知でした? 凄い能力ですよね。身を守るためにカラダの一部を切り離すことができるなんて……」

 泉は肩で大きく息をして一点を見つめた。

「私も尻尾を掴まれたカナヘビと同じだったンです。もちろん尻尾を掴んでいたのは夫です。だから、自分を夫から守るために切り離したンです。私の場合、尻尾は心でしたが――」

 泉は机の向かい側にすわる大羽刑事に、夫殺害について語りだした。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ