第61話:敗者の矜持、勝者の慈悲
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第61話。因縁の相手、宇佐美との対峙です。
かつての自分を投影し、復讐ではなく「救済」を選ぶ。
志保の精神的な成長を描きました。
プロジェクトの本格始動に沸く社内で、ある噂を耳にした。
他部署へ異動した宇佐美君が、担当案件で再びトラブルを起こし、今度は休職に追い込まれたという。
かつての私なら「自業自得」と一蹴しただろう。
けれど、ルミエールで瀬尾さんに「半分僕にください」と言われ、自分の傷を癒やしてもらった今の私は、ただ彼の歪んだ焦燥が他人事とは思えなかった。
私は退社後、彼が一人で飲んでいるという駅裏のうらぶれた居酒屋を訪ねた。
カウンターの隅で、昼間から飲んでいたのか、目の焦点が合っていない宇佐美君がいた。
「……何しに来たんですか。勝ち誇りに来たなら、他を当たってくださいよ」
私を見た瞬間、彼は毒を吐いた。けれど、その声は以前の鋭さを失い、ひどく掠れていた。
「勝ち誇る暇なんてないわ。……宇佐美君、あなたは有能よ。でも、自分の『有能さ』で自分を殺そうとしている」
私は彼の隣に座り、冷めた烏龍茶を注文した。
「私を追い越そうとして、無理に背伸びして……。今のあなたは、数年前の私を見ているみたいで、放っておけなかったの」
宇佐美君の喉が、ひきつるように動いた。
「……あなたの何がわかるんですか。三十八にもなって、若い男にうつつを抜かして、結局仕事も成功させて……。僕は、全部失ったんだ」
「失っていないわ。……あなたが必死に積み上げてきたスキルは、あなたが否定しても消えない。一度、休みなさい。……そして、もしまた戦いたくなったら、私のプロジェクトに来なさい」
宇佐美君が、信じられないという顔で私を見た。
「……本気ですか? 僕を、あんなに追い詰めた僕を、呼び戻すって言うんですか」
「私のプロジェクトには、敗北を知っている人間が必要なの。……ルミエールは、そういう人のための場所だから。瀬尾さんも、きっと同じことを言うわ」
私は名刺を一枚置き、席を立った。
敗者の矜持を傷つけず、けれど一人のプロとして再起の道を示す。
それが、今の私が彼にできる、最大の「慈悲」だった。
店を出ると、冷たい夜風が心地よかった。
かつての敵さえも、未来のピースに変えていく。
私は、自分の内側に生まれた、これまで知らなかった「本当の強さ」を感じていた。
第61話、いかがでしたでしょうか。
宇佐美くん、完全に毒気が抜けてしまいましたね。
志保の「私のプロジェクトに来なさい」という言葉は、かつての鉄の女では絶対に出なかった台詞です。
誰かの居場所を作る仕事をする彼女が、まず身近な迷い人の居場所を作った。
そんな優しさを感じていただければ幸いです。
最終回まであと9話。最後まで応援よろしくお願いいたします!




