第49話:現実の重さは、愛だけじゃ測れない
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第49話。ついに訪れた、人生最大の分岐点。
キャリアの絶頂か、愛する人との日常か。
大人の女性に突きつけられる、非情な選択を描きます。
急ぎ足で向かった役員会議室。重厚な扉を開けると、そこには会社の命運を握る上層部が揃っていた。
私の席に用意されていたのは、極秘と印字された一冊のファイル。
「一ノ瀬君。君のこれまでの功績、そして先日のトラブルを逆転させた手腕を高く評価した結果だ。……来月から三年間、ニューヨーク支社の統括責任者として赴任してほしい」
心臓が、一度止まったかのような衝撃に襲われた。
ニューヨーク。広告マンにとって、そこは聖地であり、キャリアの最終到達点だ。三年前の私なら、迷わずその場で快諾し、シャンパンで祝杯を挙げていただろう。
「これは打診ではない。会社としての総意だ。君なら、向こうの気難しいクライアントも手懐けられると信じている」
上司の期待に満ちた目。同僚たちの嫉妬混じりの羨望。
完璧なキャリア、完璧な昇進。三十八歳にして手にした、これ以上ない「成功」。
けれど、私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、病院の廊下で「一生隣を離れない」と誓ってくれた、瀬尾さんの穏やかな微笑みだった。
(……三年間。海を隔てた、途方もない距離)
ルミエールの上階に住み、毎日彼の淹れるコーヒーの香りで目を覚ます。そんな当たり前で、かけがえのない日常が、音を立てて崩れていく。
愛している。離れたくない。
けれど、私は「一ノ瀬統括部長」でもある。このチャンスを捨てれば、これまでの努力の全てを否定することになる。
「……少しだけ、お時間をいただけますか。大切な人に、話をしたいので」
絞り出した声は、自分でも驚くほど震えていた。
会社を出ると、夜の東京の街は、いつもよりずっと無機質で冷たく見えた。
愛の重さは知っている。けれど、積み上げてきた現実の重さは、それだけでは測りきれない。
私は重い足取りで、光の漏れるルミエールの扉へと向かった。
第49話、いかがでしたでしょうか。
ニューヨークへの赴任……。あまりにも大きすぎるチャンスが、皮肉にも二人の絆を試すことになりました。
志保は瀬尾に、この事実をどう伝えるのか。
物語はいよいよ、第3部クライマックスへと突入します。
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