第14話:聖域を脅かす、足音
お読みいただきありがとうございます。
第14話は、甘い時間の強制終了。
大人の恋には、常に仕事や周囲の視線という「現実」が付きまといます。
不穏な影の正体とは……?
触れ合う直前の熱が、あまりにも心地よくて。
このまま世界が止まればいいと、本気で願った。
けれど、私のバッグの中で、無機質なバイブレーション音が震えだした。
一度、二度。
夜の静寂を切り裂くその振動は、私を「一ノ瀬ディレクター」という現実に引き戻すには十分すぎるほど残酷だった。
「……志保さん、電話」
「……ええ。ごめんなさい」
瀬尾さんがゆっくりと手を離す。その名残惜しそうな指先が離れた瞬間、急に夜風が冷たく感じられた。
画面に表示されたのは、部下の宇佐美君の名前。時刻は深夜一時。
この時間に彼から連絡があるということは、尋常な事態ではない。
「……はい、一ノ瀬です。……ええ、落ち着いて。今からそっちのデータを確認するわ」
電話を切った時、私の顔はすでに「鉄の女」に戻っていた。
瀬尾さんはそれを見て、寂しげに、けれど深く納得したように微笑んだ。
「仕事、ですね」
「……ええ。トラブルよ。……ごめんなさい、瀬尾さん。私、行かなきゃ」
慌ててバッグを掴み、逃げるように店を出る。
追いかけてこない彼の優しさが、今は逆に痛かった。
マンションのエントランスへ向かう足元。
ふと、背後に視線を感じて振り返る。
そこには、街灯の影に隠れるようにして立つ、人影があった。
(……宇佐美君?)
一瞬、そう思った。
けれど、その人影は私と目が合う前に、素早く闇の中へと消えていった。
ただの気のせいかもしれない。けれど、私の「聖域」であるこの場所が、誰かに覗き見られたような、得体の知れない不快感が胸に広がった。
エレベーターに乗り込み、数字が上がっていくのを見つめながら、私は自分の唇に触れた。
熱はまだ残っている。
けれど、私たちの恋を阻む現実の足音は、すぐそこまで迫ってきているようだった。
第14話、いかがでしたでしょうか。
いいところでの電話……!そして怪しい人影。
第1部の終わりに向けて、物語が大きく動き出します。
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