森羅万象の王
王国への街道が地震で寸断され、進む手段を失ったウィータとムラクニ。二人は、街道復旧の調査任務に就いていた王国騎士・ケルシアと利害が一致し、共に問題の解決へ乗り出すことにした。だが任務の内容を整理していくうちに、ムラクニはケルシアの調査に決定的な見落としがあることへ気付く。三人の共同作業は、思わぬ問題から幕を開けようとしていた。
ケルシアが明らかな調査不足を起こしていたことが判明し、事の順序がより明確になった。
「そりゃぁ、それだけじゃ説得できなかったろうな…。 村長にはどんな事を言ってたんだ?」
「み…道が無くなったからこの村の一部を切り崩したいって…。 すいません、焦ってたんだと思うッス…」
「でもそれなら、まだやりようはあるって分かるね」
二人はさっそく立ち上がり、荷物片手に小屋を出る。しかし、モヤモヤしているケルシアが二人を引き留めた。
「ちょっと待ってくださいッス!」
「こんな私にも騎士の誇りって物があるんス。 村長のとこへ…また行かせてくださいッス」
彼女はとても真剣に、澄んだ目でウィータを見つめ、そう言った。彼女に対して騎士らしさを感じたのはこれが初めてだったが、これから協力する仲として尊重することにした。というか、どうせこの村の調査が必要なら、住んでる人から情報を得る方が手っ取り早い。そうなると余計に話の分かる村長だといいと思うのだが…
少し歩き、村でひときわ大きな屋根を持つ家の前に立って扉を叩いた。「はーい」と返事が来た後、先ほどケルシアと言い争っていた、顔全体に髭を生やしているおじさん、もとい村長が中から出てきた。
「あ、お前…」
「すいませんでした!!」
ケルシアが、村長の顔が見えるなり、すぐさま、勢いよく謝った。弾かれたように背筋を伸ばしたかと思えば、次の瞬間には地面へ突き刺さる勢いで頭を下げた。そのキレの良さは、もはや謝罪というよりある種の技である。
「恐ろしい潔さ…! おそらくワシがあの域に達したのは二十代の後半……いや、違う違う…」
村長はコホンと咳を一つして、ケルシアの方へ向き直した。
「勘違いしてたッス、自分がやるべきことを厳かにしてたんス」
自分の勘違い、失礼な態度、一連の失態を、恥じながらも丁寧に、こちらに非があることを全面に認めながら説明した。村長も目をそらさずに聞き入れ、最後に頷いて「なるほどな」と一言出した。
「まぁ、こっちもどういうことだと突き放して、ろくに問い詰めたりしなかったのは悪いと思う。ただ現場をそのまま見ただけとは...」
「滅相もないッス...」
「でもこう言いに来てくれたってことは、これから本当の調査に取り掛かってくれるってことだろう?」
「そうッス。 それで、良ければ周辺を調査する許可が欲しいんスけど...」
村長はケルシアに頭を上げさせ、肩に手を優しく置いた。そしてニカッと笑顔で顔を見た。
「ワシたちも別に外とのつながりを断ちたいわけじゃあない。その行動が、この村のためになるのなら、ワシも村のみんなも、何でも構いやしないさ」
「ハァ...! ありがとうございますッス!」
ケルシアはもう一度深く頭を下げた。
村長はもう一度ケルシアに頭を上げさせた。
「騎士様が軽々しく頭を下になさるな。この調査、ワシたちも手伝うつもりだ。感謝するなら、終わったあとにしなさい」
「あ、ありがとうございますッス!」
ケルシアはもう一度深く頭を下げた。
村長は微妙な顔でそれを見ながら、諦めたように中に入っていった。
小一時間後、ケルシアとウィータ、ムラクニが森の入口で待っていた所に、村長と村長が連れてきた何人かの青年たちが集合し、道を作れそうな場所を探し始めた。
ルワン村は、周りを長い川で囲まれている孤島である。いくつか川の流れがほとんど泣く、歩いて通れるところもあるが、そういう場所に限って高低差が激しくなっている。さらに、ルワン村を囲む2つの大きな山を沿う形で通るとしても、2つの山の間の渓谷を通る以外はとてつもない遠回りになってしまう。比較的平坦な場所も、川が深く、橋が砕け、地盤もゆるくなっているためしばらくは橋をかけられないだろう。いずれも道にするには適していない。
「こうまで孤立しているとはな」
「我が故郷ながら住みにくいところだ」
「くっちゃべってないで調査だ調査!」
疲れ始めている青年達に村長が渇をいれている。身内には逆に厳しい人らしい。しかし、そんなことより気になるのは、先頭で僕たちを導いている村長が、頑なに二つの山の間の渓谷へ行こうとしないことだ。正直、位置関係を見たところ、前よりは長くなるが、簡単に通れる立派な街道になり得る所だと思うのだが。別に一人で抱えることでもない。直接聞いた方がいいだろう。
「村長さんは何で二つの山の山間へ行かないんですか?」
「ん? あぁ、そういえばそうだな。完全に選択肢から外れていた」
そこにケルシアがひょこっと顔を出す。
「行けない理由があるんスかね? 危険な奴がいたり、暗黙に禁止されてたり、そう言う都市伝説的な」
「いやまったくその通りでね、アソコには昔から不思議な力があるのさ」
「不思議な力?」
それを聞いたムラクニも寄ってきた。
村長によると、この辺は比較的他の森より安全で、獰猛な奴もいないし、変なことをしなければ帰れなくなることもない。だがその法則がアソコだけ狂う。誰も見てない場所を見てやろうと少しでも踏み込めば、そいつはほとんどの確率で帰ってこなくなる。それで何も起きずに帰ってこれたとしても、そいつは山の山間に辿り着くことはなく、気付いたら森を出ているのだ。まるで何者かがそこへの侵入を意図的に阻止してるように。
「へ~、そんな変なことがあるんスね。それでもそこへ行ってみるってのはどうなんスか?」
「現にワシも行こうとした事があるんだがな…まぁたぶん森から追い返されるだけだと思うぞ」
「都市伝説は都市伝説です。やってみる価値はあります」
全員で山の間から入るために少し山を下りた。少し霧が濃いという問題もあったが、いち早く計画を進めたい今、待つよりは進むが得策だった。しかし、二つの丘陵が急になり始めたところで霧がさらに濃くなり、村の青年の一人がいなくなってしまった。
「ロデオ? おいロデオ!!」
叫んでも返事すら帰ってこない。不穏な空気の中、どうにか霧をはけようと手を仰ぎながら進む。人の背を見ながら進めるように一直線になってみたりした。だが、安心した瞬間に一つ、足音が消えた。
「ムラクニ?」
ムラクニが消えた。ケルシアとウィータはムラクニのいたはずの方向に視線を向ける。ハッと気付いたときには、村長ともう一人の青年の姿が跡形もなくなっていた。
「なるほど、こういうことだったのか…」
「不気味ッスね。やな感じッス」
ケルシアと二人で歩きだす。少し行った所で、隣の茂みで物音がした。何事かと少し覗いてみると、そこには小さな小さなリスがいた。
「なんだ…ただのリス…ッ!」
嵌められた。少し気をそらした隙に一人になっていた。立ち往生してもどうしようもない。一人だけでも進んでいく。
また少しすると、1カ所だけポカンと霧が晴れている場所へ来た。周りの森は緑と日光による黄と霧の白がいり混ざる景色なのに、ここの空だけ青々と輝いている。ただ変な場所だと思い、通り過ぎようとしたその時、ふと森にたたずむ大きな鹿と目が合った。なぜか、ウィータは謎の鹿のその目に、たたずまいに、所作に恐怖を感じた。
「貴様はどこから来た?」
空間の中に重い艶声が響いた。その森の不気味な囁きは、胸の奥をざわつかせるほど異様だった。
――それなのに、なぜか遠い記憶を揺り起こすような、拭いきれない郷愁を宿していた。
高評価お願いします。ブックマークしていただけると幸いです。続読お願いします。
投稿頻度が遅くなっていますが、ここから先はさらに盛り上がっていきますので、引き続きご愛読いただけると嬉しいです。




