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神の国  作者: 五十鈴


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悪い予感

あの日の出来事をきっかけに、ウィータは自らの回復の力を確かめようとする。

試行錯誤の末にその力を引き出すことに成功するが、その代償や制限にも気づき始めた。

やがて訓練場での鍛錬に没頭し、ムラクニとの模擬戦を重ねながら実力を磨いていく。

危険を承知で踏み込んだ実戦さながらの勝負の中、ウィータは一つの手応えを掴む。

――しかしその裏で、静かだった日常に再び不穏な気配が差し込み始めていた。

 久々の緊張が走り、ウィータは身構える。


「ヤバいことって、そんないきなり…」


ジュールさんはいつにも増して思い顔で、机に肘を置き、顔を俯けて、ウィータに目線を向ける。ウィータはその顔に息をのむ。


「最近な…ビール樽にヒビが入ったり、皿にヒビが入ったり、扉にヒビが入ったり…」


ウィータは口を閉じてその声を聞こうと前に乗り出す。


「エルフィナが久々にオネショしたり、エルフィナが好き嫌いをしたり、エルフィナが夜更かしするようになったり……、お前、絶対今バカバカしく思っただろ」


その通り、いきなり娘の不満を漏らし始めたと感じて、若干冷めた目で見始めていたところだ。


「まぁ分かるさ。こんな小さいことで、真剣な顔して「ヤバいことが~」とか言うのは拍子抜けになるよな」

「でもな、俺は“悪いこと”に関する勘は昔っから当たりやすいんだ」


「昔っからって、そんな経験があったりするんですか?」


ウィータはあまり信じず、崩したた口調でジュールに聞く。


「えっとなぁ…大体十年前にとんでもない大事件があってな。俺達が命からがら逃げようとして、色々どうしようか迷った末に、結局上手くいかなくて…結果、妻が消えてはぐれたっきりだ。そん時も今みたいな悪い予感を感じていた。」

「そう…なんですね」


深く聞き過ぎた余り今なことを思い出させてしまったと、とてもいたたまれない気持ちになった。そしてそれが顔に出ていたらしく、すぐにジュールさんが気づいてくれた。


「過ぎたことなんだ、本題に戻そう。お前が気負うことは無い」


ジュールさんは、自室から武器を取るから先に行って欲しいと、僕を訓練場で待っているように言った。

結局ジュールさんの言いたいことは、「悪い予感のその時まで、一緒に訓練をして備えたい」との事だった。





訓練場で待っていると、指に武器を取り付けたジュールさんが鉄同士が当たるガシャガシャという音を鳴らし、やってきた。

武器として特化した籠手…というより少し肥大化したメリケンサックだ。思っていたより物騒な武器が出てきて、冷や汗をかき始めていた。


「よしッ!コッチは準備オーケーだ」


ジュールさんはろくな構えもとらずに正面に立ち、少し重くたたずむだけだった。


「いつでも来い、なんなら斬りかかっても良いぞぉ」


僕は大分ためらった。本当にこの優しいおじさんが剣を受け止められるだろうかと疑っていた。さしてさらに、先日のムラクニとの模擬戦での上達により、剣における自信が有り余っていた。しかしそこまで言うならと、僕は体を前に進め、間合いに持ち込む。

横に…と見せかけて、体を捻ってからの縦。

当たったと確信したのもつかの間、自信に満ちた剣筋は、断ち切られ、止められ、固められた。


「おぉ!案外衰えないもんだな、年食っても」


剣はしっかりまっすぐ振り下ろされた。しかし一瞬でジュールさんは首を曲げ、剣は顔の横を通り過ぎていき、籠手へ向かう。勢いを失いつつある刃に動きを合わせて受け止め、あれよあれよという間に両手と腹部の間に納められた。流れ作業のようだった。まさに受け流し。

止まった剣と動きの中、ジュールさんは僕の困惑する顔を見て、笑い飛ばした。


「そんなにおかしいか?俺が強いのは」

「恥ずかしいことなんですが、以外でしたね」


そんな言葉を交わしながら、挑み掴まれ倒され。たまに打たれる。何度も何度も一連の流れを繰り返し、夕日を迎えた頃、ジュールさんは疲れで今にも倒れそうだった。


「ゼェ…ハァ…、若いって…良いな」


夕日が沈む頃には家の中へ戻り、汚れをお湯で洗い流した。

そして今日途中からジュールさんとずっと一緒に訓練場にいた結果、仕事もエルフィナも全てムラクニに丸投げしていたことを思い出し、夜は二人で彼を労った。


次の日も、またその次の日も、ジュールさんとムラクニと共に特訓に励み、徐々に確実な力を身につけていった。

楽しい日々だったせいか、空の色のなんともいえぬ怪しさに、誰一人気づけていなかった。

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