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神法使いの薬大師 異界を往く  作者: 抹茶くず餅
異邦人~捨てる神在れば拾う神在りき~
12/49

12話


「よ。んしょ」


 草木も虫すら存在しない、山の頂。所々雪さえ残ってはいるが、ここは寒くもなければ暑いわけでもなく至って適温で、空気が薄いということもない。

 ただ、ナルの目の前には石で組んだだけの簡素で小ぶりな祠があるのみ。


「ウ・ナ様。今日も参りましたよ」


 こうして毎日、出来る限りここに参拝をする。

 そして声を掛ければ微かに大気が振動し、私の周りは暖かくなる。

 もう、彼此200数年は経っているだろうか。

 この祠に下に眠る大切な我師匠であり養い親、そして最後の神代エルフであった『浮邉衣良比彌』さまの墓所。


「それにしても。前に森の中で拾った若者がまさかの『天上に住まう神人』とは。これもウ・ナさまの神力で?

 本当に驚きましたよ。ですが、そうやって不意打ちで驚かすのはやめていただきたいものですね。私だってそろそろ貴女さまのお傍に行く日が近いのですから」


 まぁ、確かに普通はこんな場所に人は訪れないし、来ることも出来ない。

 そこらへんをうろついている低能な魔獣達ならウ・ナ様の神気にも鈍感だが、人族は知恵ある魔獣だ。凡そこの近辺には近づこうともしないだろう。

 まぁ、おいそれと来れる場所でもないのだが・・。


 しかし、何故、今。天上に住まう神人をこんな穢れた大地に引き下ろしたのだろうか。


「今更ですが、ウ・ナ様の真意が計りかねます。何を考えておいでなのか。ただ。私はあの若者をなんとか導いてやろうと思っております。あまり時間が残されてはおりませんが、ね」


 あれは。あれと言ってはまずいか。少々頼りないが神人なのだから。でも、本当、思わず『あれ』扱いしたくなるほどの阿呆でヘタレだ。

 何より神人の代名詞ともいえる「神気」が全く使えていない。


「はぁ・・気が重い。本気でやる気が出ない。なんだってあんな半端な状態でしか蘇らなかったのか。ねぇ・・ウ・ナ様。少しぐらい力添えしてくださってもよろしいじゃないですか?」


 いくら問いかけても、目の前の祠からは何の返答も来ない。


「・・そりゃ、死人に口無しだわなぁ・・意味が違うけど」


 それでも105200年余、古・神代エルフ『大地に降り立ちし神人』でこの世界の行く末を見守り、邪神の対立者であった神々の中で、唯一最後までこの地に留まり続けてくれた稀有な存在であった。

 俗名をウ・ナ。真なる神名は『浮邉衣良比彌』。

 今でこそ、その御霊は天上に帰られてしまったが、ナルにとって約束された楽園とも呼べるこの地を守る神。


「ウ・ナ様。聞いてくださいましな。あれは神人のくせになかなか欲が深くて、ですねぇ~。肉が食いたいだの、靴が欲しいだ服が欲しいだ下着が欲しいだと煩くてかないませぬ。その、余りの俗物っぷりにこっちは泣きそうですよ」


 その点。ウ・ナ様の神々しさは今でも脳裏に焼き付いたまま、忘れることなどできるはずもない。

 せめてウ・ナ様の一欠片でも神らしいところがあれば、鈍いナルでも「あ、神人様だ」と気づけたはずなのに。

 まぁ。黙っていれば確かに神人らしき容姿ではあるのだが。何せ今お召しになっている神器が奇怪で実にふざけた品物だし。

 思い出しては深くため息をつく。


「何の目的で、ここに引き寄せたのですか?」


 それすらわからない。

 

「はぁ。仕方がない。取り合えずあの煩い口を閉じさせないとね」


 セイランの欲しがるものの大半は人間の住む場所でしか売ってはいない。そうなると最初に必要になるのはお金である。

 そして、こんな山奥で金になりそうなもの。

 山を下りながら、ぼんやりと頭の片隅で考えている。



 まず、あの阿呆が欲しいモノ。


1.肉

  これは自分たちでなんとかしろ!野生動物なら、魔獣の数より多くこの辺に存在しているのだ。勝手に何とかしやがれ。


2.衣服に靴

  困ったなぁ。こればっかりは下の街に行かなくては手に入らないし、そのためにはまず元手となる素材やら薬やらが必要で。

 季節的にまず高価な薬類の素材がなく、今あると言えば魔獣の毛皮や牙などの素材ぐらいだ。

 本当はあまり人間の住むところなんぞに出かけたくもないのだが。


「はぁ・・。やっぱり、狩りをするしかないのかねぇ・・」


 森の中で出会った魔獣を倒しては、ナイフで皮をはぎ取り、牙や爪など売り物になりそうなものを回収していく。


「ん?」


 強い気配が下方斜めから感じ、思わず巨木の陰に隠れて相手を探すと、藪の向こうに白く輝く個体を発見した。


「まずいなぁ・・銀灰大熊か」


 まさに歴戦の猛者というべきその姿に眉を顰める。

 かなりでかい個体だ。

 あれは無理だと身を隠し、息を潜めた。

 まず対峙しても、全力でかかって互角。当然、素材だのを気にして手を抜いて戦える相手ではない。それこそ持てる力をすべて出し切って消し炭にする覚悟がなければ、こちらの命が危ない。

 そう考えれば、相手にするだけ無駄というもの。


 どうやら今は谷からの吹き上げがる風のようで、こちらの存在も気づかず、銀灰はもっそりとさらに奥へと消えて行った。


「やれやれ・・。出来る事ならもっと若い個体がいいよのぉ」


 それこそ、この春にやっと独り立ちしたような、戦いに不慣れな個体。そいつなら多分、得意の火炎神法を封じてもいい勝負ができる気がする。


「一応・・確認しておくか」


 懐から大事にしまっておいた魂石で作られたナイフを取り出し、久しぶりに自分の能力を確かめる。



レ・ナル  483歳

種族  真・エルフ

職   神法使い 薬大師


Lv146


生命力  220

神力   880


体力    185

理力    680

気力    115

跳力    120

反射    160

運気     65



スキル:火炎神法Ⅲ 旋風神法Ⅰ 水流神法Ⅱ 治癒神法Ⅲ 杖殴打Ⅰ 薬物学Ⅲ

称号:霊山の守人 浮邉衣良比彌の守り子

   闇に染まりし森人 リブ・レの生き残り


 


「はぁ・・。代り映えのしない事。それも仕方がないか」


 すでに、レベルはなかなか上がらない領域にきている。後上がっていくとしたらスキルの方だろうか。

 しかし能力値が全てではない。

 余りこれに頼りすぎると自分の可能性を押しつぶしてしまう危険性があると、昔、ウ・ナ様がおっしゃっていた。


『何故エルフや他の亜人達に〈能力の視覚化〉という現象がないと思う?

 そして何故に魔族や魔獣、人族にこれがあると思う?』


 その時、自らの能力を数値化するなど、初めて知った。

 そんなものはエルフには存在していなかったから、当然知りようもない。

 今まで分かっているのはスキルのことだけ、だった。


『それはね。

 能力の数値化というものは・・・魔族の始祖である『邪神』が創造した〈システム〉なのよ』


 思わずあの時は「はぁ???」と呆けてしまった。


『邪神の魔気によって変質していく魔獣達や魔族にそれを適用したわけです。それらを倒せば『経験値』というモノに変換し、能力を高めていけるように。邪神の考え付いた弱肉強食の理。

 強きモノはより強くなるように、ね。

 それは私たちが作り出したエルフや他の亜人と呼ばれる者たちへの、対抗手段』


 何とも。恐ろしいことだ。


『それだけに囚われてしまい、自らの可能性を捨ててしまうのは愚かな行為。ですが、自分の能力が目に見える形は確かに便利であり、あらゆる場面で有効ですよね。

 そうですね。

 貴方の懐にあるその魂石を貸してください。私がそれに『能力の視覚化』を施して差し上げましょう。さすれば貴方も又、彼の者たち同様に経験値を入手し、能力を伸ばすことができるようになります。それがあなたの励みになれば良いのですが』


 それを聞いたとき嬉しいのと同時に、おかしな点に気が付いた。

 だってそうだろう。魔族が魔獣を倒して経験値を得られて能力が向上するのに、何故そこに人族が加わっているのか。

 何故わざわざ人族まで強化するようなことを魔族が行うのか。


『ああ・・本当に何もかも、失われてしまったのですね』


 長い時の中で失ってしまったものは文明だけではなく、口伝も伝承も又消えて行ったのだ。


『いいですか、よくお聞きなさい。

 人族には、個々に能力の最大値というものが決まっているのです。それを突破しようとすれば・・』


 すれば?


『魔人という上位魔族になるのですよ。〈真なる覚醒〉と呼ばれる限界突破です。

 それが生殖能力を持たない上級魔族のために、邪神が作り出した【上位魔族の増殖方法】なのです』


 瞼を閉じると、まるで昨日のことのように思い出される。

 あの、衝撃の事実。


「人族とは・・邪神によって作り出された〈魔族培養生体〉・・」


 人が牛や馬を飼うように、魔族は人を飼っている。そのほとんどが餌であるが、淘汰されていく中で強い個体が現れ、選ばれたそれはやがて魔族になる。

 故に人の本質は邪悪なのだと。


 ああ。

 嫌なこと思い出したものだ。

 私は懐にナイフを戻すと、明日こそは若い個体を探してみようと決心する。


「魔法は魔族が使うスキルであって、私らが使うのは神法。あのバカは『魔法魔法』と煩いが、神の眷属や神人が使うのは聖なる力である、神法だっちゅ~の」


 もしかしら基本中の基本である、そこから教えないとならないのか。

 ナルのため息はさらに深くなる。


「本当。下界に全く興味のない神人が大地に降りてくると、こんなものなのかねぇ~・・」


 確かにそんなものかと思い、何やら少し面白くなって笑い出す。


「もし自分が下界に興味のない神人だったら、やっぱセイランみたいになっちまってるよね、ははは」


 それにしても、この私に弟子ができるとはねぇ。

 ただ。

 もし、セイランが人族であったとしたら、いくら可愛い弟子であろうとも、ナルはいつか己が手で彼を殺していたであろう。

 憎き魔族の同胞として。

 ナルの全てを奪い取った同族の片割れとして。

 仄暗い闇の思考が過り、軽く頭を振る。

 大丈夫。彼は、セイランは神人だ。

 

「よし。もう少し魔獣の間引きでもしとくかね」


 売り物はたくさんあった方がよい。

 何より神人に借りを作るっておくというのも、只のエルフにしてみたら果報だろうし。でも、セイランではあまりご利益がありそうには思えないが。


「まぁそれでも神様だしねぇ~」


 ホクホクしながら見つけた魔獣に風の刃をぶつける。

 今日は結構な数を狩った。持ちきれなくなりそうなので一旦家に戻るとするか。


 明日からの狙い目は「銀灰の若い個体」で。


「余ったお金で冬の保存食でも買っておけるね」


 ナルの目的はどちらかと言えばこっちが本命。さすがに2人と1匹分は、相当な出費になると見込んでいたからだ。





いつも読んで下さり感謝です。


 それにしても、好きなように適当に書いているだけなので、1話ごとの長さとか全然考慮してないところが、ミソですよね・・・。

 本当に読みにくくて、すみません。

 



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