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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第六章
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第74話 愉悦のモノカミ

「またピアス?他の方法はないの!?」


モノカミに霊力を渡すために、一晩中、モノカミの片耳から外したピアスを飴のように舐めていたことを文乃は思い出すと、恥ずかしくて赤面どころか、つい喧嘩腰になってしまった。だが、モノカミには、それこそ愉悦を感じ、むしろ面白いと思い始めている。


(あるんだな〜、もっとライトな方法がね。でも面白いから言わなくていいや)


「あるけど、僕が受け取るには唾液が必要なんだ。ピアスより直接がいい?」


文乃の頬はモノカミの手が触れたら火傷しそうなほど火照っていた。真っ赤な顔で文乃は正座したまま一歩後退。羞恥心を気づかれたら、面白がられることは目に見えている。モノカミの手のひらに文乃はいるのだが。


「そんなの・・・嫌に決まってるでしょ!もういいです」


文乃は座ったままのモノカミを置いて、部屋を立ち去ろうとした。ふすまに手をかけたところで、モノカミが余裕たっぷりに意地悪発動。


「じゃあー、仕方ないね。でもさ、そのままじゃ、爆発しちゃうでしょ。僕で抜いておいたら?その力」


「・・・・・」


モノカミの言い方はともかく、それは正しい。文乃は積もった自分の力が最後にどうなるのかは分からない。


モノカミに取っては利点しかない。定期的に十分な霊力をどこにいても自動的に摂取できること。クニヌシと一緒であれば、モノカミは必要な時に自宅へ戻り英気を養うことも可能だが、クニヌシが戻ってくるまで待つしかない現在は、特に文乃はありがたい存在。今もこうして仕方なく、興味もない淳之介のラノベを読んで過ごしているわけだ。


文乃は開けかけたふすまから手を離し、またモノカミの対面に座り直した。モノカミも文乃の行動を察して胡座に座り直すと、右耳につけていた華奢な銀の細工が施された小さなピアスを取り外した。


「あやのん、どうぞ。僕はどっちでもいいよ。ピアスでも。口でも。好きな方を選んで」


15歳の乙女にはどちらも嫌な選択。文乃には黒ビキニを着用するくらい大胆な思考もあるが、それはまだ女としての自覚が足りず警戒心のない幼さからだろう。


「じゃあ・・・ピアスで」


「はい、どうぞ」


モノカミは勝ち誇った顔で、文乃の前にピアスを手のひらに乗せて出して見せた。文乃は差し出されたモノカミの手からピアスをつまみ上げようとした時。モノカミは文乃の指先をピアスごと掴んだ。


「このピアス、凄く大切なものなんだ。無くさないように首からかけておいて」


文乃は掴まれた手の中からピアスを握るとモノカミから手をサッと引いた。ピアスには装飾として小さな輪になっている部分がある。文乃はそこに細い紐を通すことにした。


「首にかけていれば霊力を渡せるんじゃない?」


「渡せない。朝7時、昼12時、夕方の5時になったらピアスをしばらく口に入れててよ。こないだみたいにさ」


文乃は思ったより多い回数に辟易したが食事のたびに思い出せばいいので、なるほど簡単だとモノカミに同意もした。日に三度も口移しで霊力を渡すことに比べれば、なんてことはない。


「注意して欲しいんだけど、紐はみそぎを済ませた清らかなものを使ってね。そこんとこよろしく、あやのん」


「分かったわ。気をつけます」


これで契約は完了。


文乃には面倒な日課が出来たが、これで夜も眠れることだろう。そう思うと安堵した文乃だが、彼女は一つ忘れていることがある。それはモノカミがピアスから文乃の霊力を吸い取る時、日常では絶対に感じることのない、あの感覚をその身で受けることを。


部屋に来た時より軽い足取りで文乃は去っていった。モノカミはピアスに紐が通され文乃がそれを口にするまで、淳之介の部屋で寝転がっていることに。また一人になった淳之介の部屋の中で、モノカミは可愛い顔を綻ばせて屈託なく笑った。


(本当は手でも握れば済むことなんだけどね)

読んでいただきありがとうございます。意地悪なモノカミですが、これで以前より自由に動き回れるはずです。

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