鬼教官とパートナー
入籍を済ませ、帰宅した二人。帰る途中、市場で買い物をしてきたが、見える人という人はみんな獣人ばっかりだった。比較的多かったのは狼であるが・・・・
「じゃ、夕飯作っちゃいましょ。お腹空いたでしょ?」
買い物籠を置いた彼女は言った。大量の買い物を運んでた彼は答えた。
「う、うん。」
重すぎるのか、少し震えていた。
「な、何を買ったの?けっこう重いんだけど・・・」
何を買ったのか、彼も分からないらしい。
「え?お魚とレタス、トマトよ。」
「じゃあ、何でこんなに多いの!?それ以外のも入っているでしょ。」
困り顔で喋る彼に、涼しい表情で返答する彼女。
「あ〜、それね。おやつに食べるお菓子よ。今日は大安売りだったからけっこう買っちゃったわ。」
夕飯の支度をしながらそう言う彼女。テーブルに置いたお菓子は全て甘い物ばっかりだった。モナカにミニパイにチョコ、キャラメル、ビスケット・・・・。スナック菓子系は一切無い。もちろん、煎餅も・・・。
せめて煎餅があれば我慢出来るんだけどなぁ・・・・
心の中でそう嘆く彼であった。彼の食欲と嗅覚が研ぎ澄まされるのは、彼女が作っている夕飯の香りのせいばかりではなかった。
(20分後)
外で星を眺めて寝っ転がっていた正夫を彼女が呼んだ。
「夕飯できたよ〜!」
彼女の呼び声と共に、いい香りが漂って来た。
食卓を見ると、夕飯がもう並べられていた。今日は白身魚のムニエルとレタスのサラダ、ご飯、味噌汁だった。全て彼女の手作りだ。
「いただきます!」
二人揃って言い、食べはじめた。
「どう?慣れそう、ここでの生活は?」
「どうかなぁ〜?周りに人間は一人もいないし、知ってる人は君だけだし・・・」
つまみかけていた魚の身を口に入れながら彼は答えた。
「でも意地悪な人はいなかったかも。少なくとも、引きこもることは無いかもね。」
それを聞いて彼女は静かに笑った。
彼女の料理は旨かった。ただ、味噌汁が少し濃かったかな・・・?
そんな感想を心の中で言いながら、彼女と笑って食事をしていた。
食べ終わった後の皿洗いは正夫がやっていた。彼女はというと、先に風呂に入っている。
皿洗いが終わる頃には出るから
とハンナは言っていたが、洗い終わってもまだ入っていた。気持ち良さそうに鼻歌を歌いながら湯につかっていた。
「まだぁ〜?」
彼が言うと、
「あと10分〜」
と返す。
結局出てきたのは、洗い終わってから20分くらい経ってからだった。退屈だったのか、持ってきてたゲームで遊んでいた。
出てきた彼女が聞いて来た。
「私もそれやっていい?お風呂に入っている間だけいい??」
大きな瞳でせがんでくる彼女にNOと言える訳がない。
「い、いいよ・・。」
そう答えてコントローラーを彼女に渡す。
入る前に彼女の操作を見ていたが、かなり上手かった。あまりにも凄いプレーだった為、ずーっとタヲルを担いだまま見ていた。
きりのいいところでやっと彼は入った。
風呂は以外と大きかった。女性の特徴なのか、色々な種類のシャンプーやリンス、ボディソープなどがあった。中には不思議な物も・・・
「尻尾用保湿ソープ?ナニコレ?」
人間界にいた時とはあまりにも違う種類の多さに、まだ理解出来ていないようだ。
試しに色々使ってみたものの変化をよくわかってない彼。なにも分からないまま、彼は風呂を出た。出た時に、湯船に入るのを忘れたことを思い出したが、そのままにした。
居間に戻ると、もう彼女は部屋に戻っていた。ゲームはちゃんとしまってあり、こんな手紙も置いていた。
『使わせてくれてありがとう。凄いハマっちゃったわ。またやらせてね。おやすみなさい。』
手紙をテーブルに置いて彼女の部屋に行った。
もうぐっすり寝ていた。ただ、凄い寝相が悪く、鼾も大きくかいていた。起きている時の可愛らしい顔からは想像もつかなかった。
「おやすみ。」
小声でそう言って、彼も部屋に行った。
(午前7時頃)
彼はいつもの様に早起きをした。人間界にいた時は、朝は必ず牛乳が来ていたが、ここではオレンジジュースらしい。何故かは分からないが・・・
玄関の前に届けられて置いてあったジュースをとろうとしたとき、一緒に手紙も入っていた。
青い封筒だった。
開いて見ると、こんな事が書かれていた。
「同盟陸軍本部からの発表
12月17日、貴官ら陸軍兵は第一ニセコ基地での正午の訓練に参加する事になった。忘れるべからず。」
短い内容であったが、重みは感じた。
正午30分前、ハンナと正夫は支度を済ませ、基地に向かった。
(ニセコ第一基地)
「整列!!」
怒鳴り声に等しい掛け声に皆反応し、バラバラになっていた列がすぐに整った。
「え〜、コホン。貴官らに集まってもらったのは言うまでもないだろう。今日、正午から班ごとに分かれ、与えられた訓練をやってもらうことになってる。まだ見知らぬ者も多いだろうが、共同で任務にあたらねば命を落としかねんぞ。言っとくが、訓練とはいえ俺が与えるものはそんなに甘くないぞ。心してかかれ!解散!」
知らせを終えた教官は段上から下りて行った。
『マルクス中尉』
今回、我々第3師団第2軍の訓練担当をやることになった赤狼の軍人。噂によると、今まで我が軍が挙げた戦果のほとんどが、彼が指揮していた時期に出したらしい。エリート軍人であるが、さらに、この基地とっておきの鬼教官らしい。彼の指導を求めて志願してきた者たちが多く来たが、ほとんどが脱落したようだ。
こんな鬼教官とやらなきゃいけないのか・・・
緊張しながらも、期待と不安が入り交じる正夫。解散の令が出されたので、駆け足で自分の所属する部隊の待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所である集会所の入り口前に着いた時には、もうほかの隊員が集まっていた。もちろん、そこにはハンナもいた。
「遅いよ、正夫君!早く来ないと、教官に干されるよ。」
地味に恐い事を言いながらも、笑顔で迎える彼女。正夫の気配に気付いたのか、お喋りをしていたほかの隊員たちも、彼の方を向いた。ハンナを入れて全部で5人いた。狼、山猫、鼬、犬で構成されていた。どれもみんな戦闘意識が高そうな雄・雌ばかりだった。ハンナを除いては・・・・
「おう、君か、今度うちらの部隊に入る狼ってのは。」
がっちりした体型の蒼い狼が話し掛けてきた。身長の違いのせいか、眼力から感じる威圧感が半端なかった。
「すまんな、馴れ馴れしく話し掛けちまって。名はブラウだ。宜しくな。」
「はい・・・此方こそ、宜しくお願いします・・。」
緊張し過ぎて握手する時も震えていた。
「そんな堅い挨拶はしなくていいよ。ここにいる皆がまだ新入りなんだから。」
山猫が優しくそう言ってきた。黒い長髪が美しかった。
「私は紅。本名は太田 薫。あなたと同じ、人間界出身よ。宜しくね。」
彼女の微笑みは綺麗であったが、眼鏡をかけているのでハンナよりはインパクトは強くなかった。
「はい!」
同じ人間界出身がいて安心したのか、挨拶の声のトーンが少し上がった。
「へぇ〜。君も人間界から来たんだ〜。」
白黒の斑の犬が興味津々に正夫を見始めた。顔を見たり臭いを嗅いだり尻尾を触ってみたり・・・
「こら!新入りさんに失礼でしょ!」
知りたがりの犬をハンナが止めた。
「ごめんね。この子まだ10歳だから人間界からくる獣人を珍しがるの。この子の名前はクラウス。宜しくね。ほら、ちゃんと挨拶しなさい!」
まるで母親に仕付けられる子どもみたいに、言われるがままに挨拶した。
ふと、正夫は疑問に思い、質問した。
「軍に入れるのは15歳からでしょ?10歳で入隊できるの?」
聞いた紅は微笑んで答えた。
「この子は軍からのスカウトで入って来た凄い子なの。確かに軍に入るのは15歳からだけれど、それは義務だから、いつ入ってもいいのよ。まあ、最低年齢はちゃんと定められているけどね。」
彼女の詳しい説明を聞いて納得した正夫。
鼬はというと、少し離れた木陰に一人で座っていた。
「あ〜、気にしないでいいよ。いつもああいう感じなの。名前は晴斗。ここでも珍しい白蒼鼬なの。部隊に入ってからもあんまり誰かと話そうとしないの・・・」
ハンナがそう言い終わったら、蒼い鼬は起き上がり、正夫に近づいて行った。そしてこう言った。
「・・・お前、人間の血が混ざってるな・・・」
「え・・・?」
突然の言葉に、動揺する正夫。青い瞳をギラギラさせながら彼は続ける。
「・・お前はただの人間界からの獣人じゃない、という事だ・・・」
なにも言い返せない正夫。何を言っているのか、さっぱりなのだ。
「・・君、面白いな・・・」
そう言うと、晴斗は木陰の方に戻って行った。
「珍しい事もあるのね。あれだけ無関心だった彼が正夫君に興味を示すなんて。」
首を傾げてそう言うハンナ。
「あ、そうそう!部隊の中でも班で分けられる事になってるの。私はあなたと一緒の班よ。」
うきうきした声で教える彼女の顔は可愛かった。
「ええっと、ほかに人は・・・」
彼女が言おうとした瞬間、横から別の声が差した。
「俺が入る。」
声の主は晴斗だった。
「俺もお前らの班に入る。」




