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黒鬼火の子  作者: ツナクラ
10/11

聖夜の闇

聖夜の雪がしんしんと降り注ぐ石狩平野を縦断する中南鉄道。

ガタンゴトン・・・ガタンゴトン・・・と、アルゴリズムされたかのように同じ響きが耳に入る。

天気予報では晴れと言っていたにもかかわらず、この天候だ・・・この北海道の変わりやすい、気まぐれな雲行きは人の予測に左右されない、自由な身なのだ。

迫害される獣人とは違って・・・


ハンナと買い物をしに、電車で街に向かっている行夫の手にはしっかりと掴まれた切符とカイロがある。

21世紀頃の電車で運用しているせいか、何か不愉快さを感じる。ただの電車酔いのせいではないだろう・・・

電車の中は比較的ガラガラだった。寄り掛かるところもあれば座る空席もそこら中にある。

窓を見ると、そこは辺り一面の雪化粧を施した乾田が広がっていた。線路脇に定間隔に設置されている街灯が走馬灯のように消え、現れてはまた消え・・・

時たま、クリスマスツリーが飾られている家も見えた。

何か喋らないと酔ってしまうと悟った行夫は、無理やり話題を持ち込んできた。

「ねぇ、ハンナ・・・」

「何?」

「いや・・・マフラー、似合ってるね、て。」

「あら、有り難う。これ、子供の頃にママに編んで貰ったものなの。」

「ハンナのお母さんが・・・?」

照れ臭そうにマフラーの尾を指にねじらせて頷いた。

桃色のハンナに少し紅色の頬やけが出た。

「ねぇ、行夫君・・・」

「ん?」

「私たち・・・これからも一緒だよね・・・?」

「ど、どうしたの急に?」

「なんか・・・行夫君、いつも苦しんでいるんじゃないかと思って・・・夜だって、結構魘されているし・・・」

「いやいや・・・寝言が悪いのはいつものことじゃないか。」

「そうじゃなくて・・・この前も唸っていたけど、普通の悪夢じゃなかった気がするのよ・・・私、見たのよ。行夫君、脂汗をかきながら魘されていたのよ。大丈夫なの・・・?」

彼女の意図が読み取れない行夫は、遂に痺れを切らして聞いてみた。

「ハンナ・・・何が言いたいの・・・?」

「行夫君・・・何か悪いものを隠しているでしょ・・・」

ゾクッときた。どうやらあの「契約」を勘づかれたようだ。

いや、まだ気付いてはないが、それに近いものを察知したのだろう。

契約事項により、正直に話せば命はない。かと言って、何も話さずに「気のせいだと思うよ。」と紛らわそうとすると、余計にハンナが心配し、さらなるお世話を食らう。

何より具体例を知ってしまっている事が痛い。


何か言わなけねば・・・


少しの沈黙が続き、ハンナの顔は心配の感情で蒼白になっていた。


長く待たせる訳にもいかない・・・


少し悩んだ末、行夫は返答を出した。

「・・・ハンナには隠していたんだけど、やっぱり話さなきゃいけないか・・・実は・・・」

答を言おうとした時だった。車掌のアナウンスが返答を遮るように車内放送のラジオから流れてきた。

「次は〜『石狩獣府』〜『石狩獣府』〜。終点です。」

「あら、もう着いちゃった。やっぱり今度にしましょう。買い物を楽しまなくちゃ!」

ハンナの出す笑顔は、明らかに無理に出したものだ。

桃色の毛皮の下には、おそらく深蒼色の心配の思いで浸かっているのだろう・・・

「うん・・・」

苦笑いを浮かべながら行夫は、両目を窓に向けた。

さっきまで広がっていた雪景色は途切れ、代わりにコンクリート造りの基礎の上に聳え立つ巨大な「光の壁」を抜け、高層ビルの群島が現れた。

「フォーゲル」共和国の首都『石狩獣府』だ。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「石狩獣府」

フォーゲル建国前の北海道中部は、かつては迫害から逃れてきた獣人が、バラバラに集まり、まとまりのない都市郡が点在していた。

その中の一つ、石狩獣市の三代目総統「アルウス・バウンズ」は、獣人による国の成立を提唱、各都市郡に呼び掛けた。

各都市も、人間に対抗する為の軍力は有しておらず、この提案を投げ込まれた途端に、殆どの獣都市が賛成の意を出した。

全30都市。石狩平野から南の苫小牧、北東の旭川までが同盟を結成。国名を「フォーゲル」に命名し、初代大総統としてアルウスが選ばれた。首都は石狩獣市に指定され、名前も石狩獣府に改名された。

(当時は自衛隊である)国防軍の襲撃を想定して街近郊に粒子壁や防衛要塞、防衛塹壕などを構築、首都防衛の基礎を築いた。

現在、粒子壁は5重に増築されており、壁内には多くの住民が住んでいる。

完璧な要塞都市として機能させるために鉄道も敷設し、輸送手段の拡大も図った。

なお、首都中心街は若者文化で賑わい、多くの若獣人が営み、生活をしている。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

電車を降りてからは色々と忙しかった。他のホームから流れ出てくる群衆の河に流され、改札口までノロノロと歩いた。帰省ラッシュのせいか、駅内は廊下が見えないくらいの人で埋め尽くされていた。

改札機を通り、やっと解放されたと思いきや、今度はハンナに引っ張られて移動された。

「遅いよ行夫君!迷子になっちゃうよ!」

迷子だけは御免だ、とボソッと呟いた行夫だが、やっぱりハンナに腕を引っ張られるのは続行された。

(まったく・・・誰が迷子になるかい。幼稚園児じゃあるまいし・・・・。)

心中でずっと文句を繰り返し、経典を黙読するように呟いていた。しかめっ面の、ふてくされている子供のような顔をしていた。

ハンナは別段、気にしていなかったが・・・・



ハンナに引っ張られてること5分。駅から出て、巨大なビル群の聳え立つオフィス街に着いた。

オフィス街と言っても、正式には軍事オフィスと呼ばれる、軍事施設が密集するエリアだ。見渡す限り、街を歩く多くの獣人は軍関係者だった。

私服姿でワイワイやっている下士官もいれば、軍服をまとって同僚と話歩きをしている将校、特別仕様のライトパレットを携えている治安部隊や憲兵もいると言う、お好み焼きのようにごちゃ混ぜに人が入りくんでいた。

「さ、行きましょ!」

腕を離し、今度は地図を頼りに行夫を誘導する形で着いていかせていた。


「あら?こっちだったかしら・・・?あれ?違うなぁ・・・。何処を曲がるのかしら・・・?」

最近話題の「地図が読めない女」なのか、方向音痴で、曲がるはずの交差点などを度々間違えていた。

迷っているのを悟られているのか、時々他の士官からナンパもされていたし・・・

ウロウロし過ぎて、徒歩移動だけで疲れた。

役立たずの地図とハンナの右往左往に振り回される事20分。やっと大通りに着いた。

クリスマスのイルミネーションで彩られている表大通りは鮮やかで、また道を埋め尽くすほどの沢山の人が通行していた。

「やっと着いた・・・」

「さっき『大丈夫。迷ってないから。』って言ってたけど、結局迷ってたじゃん。」

「迷ってないわよ。色々散策してただけよ!」

「嘘つけぇ。さっき『何処に行けばいいのかしら〜。』って言ってたじゃんか。」

「言ってないもん!」

着いたと思ったら今度は長い口論で足止めを食らった。

意固地になるハンナには手を焼く行夫。

側を通り過ぎる他人からチラ見される程だ。


暫くしてから騒々しい口論も静まった。

これから目的地に向かう。

その気で二人は横一列に歩いていた。

無口で・・・


しかし、思いもよらない事が起きた。

「・・・!?〜〜!!」

突然、背後から何者かに襲われ、羽交い締めで拘束された。

口は何かで濡れたタオルで押さえられ、上手くしゃべられなかった。

だが、そうだと思ったのもつかの間。

押さえ込まれてい口元がヒリヒリしたかと思うと眠気がいきなり襲ってきて、警戒心溢れる彼らの瞳は閉じてしまった。


クリスマスの聖夜にあった行夫らの誘拐事件。

一体、誰の仕業か?

果たして、その目的とは?

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