4 一通のメッセージ
パーティーはまだお預けです。
買い出しがもう少し続きます。
美花は、レジで、食材が入ったカゴを出す。食材と言っても、ほとんどがお菓子だった。
財布を出そうとバッグに手を入れると、スマホのバイブ音が鳴った。振動で思わずビクッとすると、美穂に財布を託してスマホを開いてみる。
「⋯⋯」
美花はじーっとスマホの画面を見つめている。 そのまま動かないので、美穂がとりあえず会計をした。
会計を終えた美穂は、美花に声をかけようとした。そして、とりあえず横から美花のスマホを覗き込んでみる。
「えっ⋯⋯?」
美花のスマホにはメッセージ画面が表示されていた。
『美花、こんばんは!みなちゃんだよー!中学離れてしばらく会えなくて寂しいよ〜!あと、美花、入学式にいたよね?美花も星山高校なの?やったー!集まってみんなで女子会して以来会えてないよね?あ、明日の朝、星山小の前で集合しよ〜!じゃあまた明日!』
その文を読み終えると、美穂は首を傾げた。
「そんなにメッセージ見つめてどうしたの、みはなちゃん。何かおかしな点でも―」
「へぇ、あみなちゃんも星山高校なんだ」
低い声で言う。普段と雰囲気が違う。これは本当に美花なのかと思ってくる。
その表情を見て、美穂はビクッとした。そのまま固まって、美花の表情を窺う。
だが美花はにこっと笑うと、スマホをしまい、くるりと背を向けた。
「じゃあ、行こっか」
美花はずんずん進んでいく。どんどんその背中が人に紛れて見えなくなる。ざわざわとした中で、足音が響く。
「ど、どうしたんだろ⋯⋯」
夕方なので、スーパーは夕飯の食材を買いに来た人たちがたくさんいた。時計は五時を指している。その喧騒に、足音が紛れて聞こえなくなった。
そんな中、美穂は不思議そうにその背中を見つめていた。
朝になった。
と言っても、まだ五時だった。白咲家では基本的に六時くらいに起きるので、これは早い時間だ。
美花は目をぱちりと開けると、ベッドから起き上がった。部屋がしーんと静まり返っている。美穂がまだ起きていないので、なんだか寂しいと、美花は思った。
部屋を出て、リビングに向かう。
目が覚めてしまったので、二度寝はできないと思う。だが、いつも準備は時間通りにちゃんと終わるので、早く起きても一時間分やることがない。色々と考えたが、導き出された結論は結局これだった。
「準備するか」
バッグを引っ張り出し、必要なものを詰めていく。初日なので持ち物があまりない。やっぱり二度寝をしたほうが良かったかもしれない。でも、それが出来ない理由があるから仕方ないだろう。
もう目が覚めてしまったのが一つ。そして―
(昨日お姉ちゃんと変な雰囲気になっちゃったから会うの気まずいんだよなぁ⋯⋯)
それが一番の理由だった。
とはいえそんな雰囲気にしたのは自分なので、責任は取らなければならない。昨日の夕食ほど気まずさはないはずだが。そう思っても、何となく部屋に戻りたくなくて、戻らない理由を作りたくて、ペンケースの中身をしきりに確認してしまう。隣の部屋から寝息が聞こえる。
「あ、あれやっとかないと」
スマホを取り出す。画面を開いて、文字を打つ。
「⋯⋯」
目をぎゅっと瞑る。震える指で、ぽちっとボタンを押した。その行動がどう影響してくるのか、今は考えたくなかった。これからのことを決めるのは、「あの人」次第。
「みなちゃん、少しは付き合いやすい人になってるといいなぁ」
昔のことを思い出し、思わず声に出して言ってしまった。勿論、美穂は気づかなかったが。
「あっ、みはなちゃん! 学校行こ―」
美穂は元気よく声を出した。そのまま美花に駆け寄る。
「ごめんお姉ちゃん。あみなちゃんと約束があるから」
「あ⋯⋯」
友達と行くのは良いことだ。美穂もなんだか嬉しくなる。なのに美花はなんだか乗り気ではないような顔をして、俯いていた。
「あみなちゃんってお友達だよね? この間五年三組のクラスを覗いたとき話してた子」
「お友達⋯⋯そうだね」
美花が顔を上げる。ふっと笑っていた。いつもの優しい笑顔ではなく、苦笑いでもなく、 なんだか雰囲気の違う笑いだった。
「お友達との約束は、守らないと」
「あっ⋯⋯」
ぱちりと目を開ける。さっきのは夢だと気付いた。
「今何時―」
時計を見る。針が指している数字は―。
「⋯⋯五時半だ」
いつもよりもだいぶ早く起きてしまった。しかも自分の力で。いつもは美花に六時に起こしてもらう。でもそれでも二度寝してしまうので、結局起きるのは六時十五分とか三十分だ。
「⋯⋯気まずいなぁ」
基本鈍感な美穂でもそう感じた。
でもせっかくなら早起きを褒めてもらいたい。そう思って部屋を出た。
しーん、としている。なんでかな、と思ったが、すぐどうでも良くなった。
それはいつも美穂が大声を出しているからで、今日、美穂が静かな証拠でもある。だが、美穂はやはり気づかなかった。
やはり、美穂も緊張しているのだ。昨日は少し遅れて帰って、もう美花は夜ご飯を作ってお風呂に入っていた。すれ違ったまま寝るまでの時間を過ごしたので、今はよく分からない気まずさがある。
「あ、お菓子パーティーもしなかったな⋯⋯」
ただ、部屋を出たのに美花が見つからなかった。そこまでリビングは広くないはずだ。思わず緊張も忘れてきょろきょろしてしまう。
(みはなちゃんどこだろう⋯⋯)
きょろきょろして、ある場所に目がいった。
「あ⋯⋯!」
思わず声が出てしまう。
キッチンで、美花が料理をしていた。二人とも低身長なので、その前に置いてあるプリントの山のせいで姿が見えなかった。だがいい匂いがするので、なんとか気づけたのである。
「み、みはなちゃん、」
「あ、お姉ちゃん、おはよー」
なんだか少しぽやぽやした言い方で、美花が言った。寝癖がついた姿は、なんだか立場が逆転したみたいで面白い。心配していたのに思わず顔が笑ってしまった。
美花もまた笑っていた。そして、指を立てて、口元に当てると言った。
「お姉ちゃん、昨日のお菓子でお菓子パーティーしよ?」
いつも以上に、やけに可愛らしいと、美穂は思った。
お読みいただきありがとうございます。




