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美花と美穂の双子ダイアリー  作者: 宝石 モモカ


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2 今日から高校生

五日前、父は二人に突然こう言った。


「美花、美穂、父さんはしばらく仕事の関係でイギリスに行くことになったんだけど」

「えぇっ!? イギリス!? 聞いてないよーっ」


美穂は予想通りの反応をする。

それに対して、美花は割と落ち着いていた。


「そっか。ロンドンとか? 準備は早めにしたほうがいいと思うけど、もうやった?」


涼しい顔の美花を、美穂が目を見開いて食い入るように見つめる。そして、ありえないとでも言いたげな顔で叫ぶようにして言った。


「みはなちゃんはなんでそんなに落ち着いていられるの!? 遠くに行っちゃうんだよ!? しばらく会えなくなるんだよ!?」

(逆にお姉ちゃんはなんでそんなに慌てられる?)

「なんでって、お父さんしょっちゅう仕事で遠くに行くし、昨日まで札幌に行ってたし」


二週間前は青森、一ヶ月前は熊本だった。

いないのは同じことだからか、近くでも遠くでも美花の中では大して変わらないのである。

料理は一週間分は作り置きしてもらえるし、それ以降の分もレトルトなどを用意してもらえる。家の中はしばらく広く感じるかもしれないが、三人が二人になるだけだ、別にそこまで大変なことにはならないだろう。


なのに、父は信じられないようなことを言って、さっきまでの平穏な空気をぶち壊してしまった。


「でも、今回は長い期間滞在することになるんだよ。三年くらいかな」

「「長っ!」」


思わず二人で突っ込んでしまった。


「あの、お父さん。それを早く言って? 私達の入学式どころか、卒業式も見られないかもしれないってことでしょ⋯⋯?」


さっきまでいつも通りだから大丈夫と油断していた美花が一番最初に声を上げる。


「いや、でも二人なら大丈夫でしょ、家事も慣れれば簡単だよ」

「⋯⋯」


子供二人での生活を簡単だとか言わないでほしい。


(三年間レトルト生活は無理がありすぎるよ⋯⋯!)


だからといって美花が毎日料理も家事もするのは大変なのだから、解決できない問題と言っていいだろう。

いつも二人で過ごしていても、まだ高校生にすらなっていない二人には家事と勉強とを両立するのは難しい。


(あれ? だったら―)


美花と美穂が交代で料理をするのが良いかもしれない、と美花は考えた。


普段から、美穂には料理をさせず、作り置きを食べるとき以外は美花が料理をしていた。今回も、美穂にやらせるという選択肢なんて考えず、自分が毎日作ることを前提に想像している。それはきっと今まで家事でやらかしているから、今回もそうだろうという美花の考え。要は決めつけだ。


それに、美穂は思うよりも料理が出来るかもしれない。上手いとまではいかなかったとしても、小学生のときから家庭科でやっているはずなので、少しは出来るかもしれない。


(思い込むのは良くないからね!)


「分かった。準備頑張って」


美花は、父がイギリスに行ったとしても問題ないと判断した。


「みはなちゃんまで何言うの?」


今にも泣きそうな顔の美穂は、美花の顔を覗き込んだ。


(ちゃんと生活の心配もできるのか、とか言ったら大げさかな―)

「私パパと一緒がいいよー! 3年も離れたくないよー!」

(⋯⋯あれ、心配してたんじゃなかったの?)

「パパもだよ、美穂! でも大丈夫、いっぱい電話するからな!」

「うん、ぜったいしてね! パパ大好き!」

(⋯⋯何なの? このドラマとかの感動シーンみたいな会話は)


美花は二人の子供みたいな会話に、呆れて物も言えなかった。その会話を聞きながらも呟いた。


「まあ、家事とかも大丈夫だよね」




(完全に油断してたよ)


美花は、目の前にあるきゅうりの山と、慌てて火を止めたにも関わらず真っ黒に焦げたカレールーを見て思った。焦げの匂いが嫌と言うほどする。このきゅうりはサラダに入れるしかない。でもサラダに入れる割には大きく、形もばらばらだった。カレールーに関しては、もうどうにもできない。


(もう料理と勉強の両立とか考えずに全部自分でやればよかったな⋯⋯)


美花はきゅうりを小さく刻みながらそう後悔した。


美穂の料理の腕はある意味天才的だった。

オムライスを作ると言ってできたのは潰したゆで卵をご飯にぶっかけたような謎の料理。

ケーキを焼くとか言い出して、そんな美穂を少し放っておいたら生焼けのスポンジにしょっぱい生クリームを付けたものができた。しかも生クリームはスポンジには塗らずにまとめてスポンジの上に盛ってあった。


(⋯⋯あれはちょっと無理があったなぁ)


思い出すだけであの塩辛い生クリームの味が蘇ってくる。

それなのに、最近やらせていなかったから失敗しただけ、そろそろ慣れただろうし出来るはずと考えて今日も夕食を任せたのが間違いだった。それは目の前の悲惨な光景が語っていた。


(とりあえずきゅうりはもっと小さくして、カレールーは⋯⋯捨てる? うーん、でも無駄になるし⋯⋯)


これからどうなるのか、ちゃんと生活できるのか、美花は心配でならなかった。




「今日から高校生になるねぇ」


そんなことを美穂が突然言ったので、美花は手に持っていた歯ブラシを落としかけた。

そして、その言葉で、美花は今日がなんの日か思い出した。


(星山高校の入学式!)


何で忘れていたのだろう。やはりドタバタしていたからだろうか。

せめてもう少し前から準備をしておくべきだった。美花はそう思った。


(学校の準備何もしてないから⋯⋯!)


早くしないとなーと思いながら、美花はシュコシュコと歯をみがいた。


「昨日はごめん。ねえ、早く準備して高校行こっ」

(昨日? ああ⋯⋯)


あのあとは結局、黒いカレーライスを食べることになってしまった。

きゅうりはサラダに入れたから良いけれど、ルーの焦げはどうしようもなかったのだ。

意外と美花の好みと合っている味のような気もしたが、やっぱり見栄えはあまり良くなかったので食欲が湧かず、無理して食べた。

美穂はと言うと、普通にばくばくと食べておかわりもしていた。


(お姉ちゃんの舌と目は腐っているの?)


まあ、一応料理になっていたし、ある意味料理は出来るほうなのだろう。だが、それでもうまくいかないのは、きっと美穂が美花の想像以上にドジだからだ。

そのドジっぷりは生まれつきと言ってもいいくらいなので、美穂を責めることはできない。


(それに―)


それに何より、美花は気にしていなかった。


「大丈夫だよ、あれくらい誰にだってあるよ」


そう言うと、美穂の顔がぱあっと明るくなった。


「ありがとっ! みはなちゃん大好き!」


満面の笑みを浮かべた美穂が、美花に飛びついた。


「うわっ!」

(あぶないなぁ⋯⋯)


そう思いつつも、美花の頬は自然と緩んでいた。



お読みいただきありがとうございます。

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