10 ただのクラスメイト
今から学校に行く。
それ自体は普通のことだが、美花にとっては重要なことだった。
亜美菜との関係をはっきりさせる。そのための行為だ。
亜美菜は気にしていなかった。その事実にもやもやする。自分はずっと気にして、悩み続けたことなのに。
だから今から行くのは、もやもやを晴らして、もう悩まないようにするためだ。
朝起きると、美穂がぐてーっとしていた。
「学校めんどいー」
「どうしたの、お姉ちゃん」
「だって学校って授業あるでしょ? めんどくさくない?」
「当たり前じゃないの? なんで今更?」
だらだらしている美穂を見ながら、美花は思った。
(そういえばお姉ちゃんが学校を嫌がってるの初めて見たな)
今までは楽しく学校に通っていたから、なんだか意外だった。
「まあ行こうよ?」
「やだよ⋯⋯ハンバーグ食べたい⋯⋯」
(食い意地張ってる?)
はあ、と息を吐くと、仕方なく口を開いた。
「朝ご飯ハンバーグにするから行こ?」
「やったぁ!」
(そういえばレストランに行ってからずっとハンバーグって言ってるなぁ⋯⋯)
美花はキッチンに向かいながら、なるべく美味しく作れるハンバーグの作り方を調べようと、スマホを取り出した。
「⋯⋯」
メッセージが五件。全て亜美菜からだった。
『美花、この間のどういうこと?とっさに言っちゃっただけだよね?』
『美花、みなちゃんのこと嫌いになった? なんで?』
『みなちゃんは美花が大好きなのにひどいよ』
『返事くれないなんてひどーい。美花なんてきらーい』
『さっきのは嘘だよ! ねえ、返事して?』
「⋯⋯もう、直接会って話すしかないか」
美花のつぶやきは、外の音にかき消された。
学校に行くと、亜美菜はもう着いていて、席に座って本を読んでいた。その本の背表紙を見ると、小学生の頃も亜美菜が読んでいた本だった。
この本は、美花も読んだことがある。それだけでなく、二人が小学生の頃仲良くなったきっかけだった。
「あみなちゃん」
「⋯⋯美花?」
亜美菜が、ぱっと顔を上げる。学校では無表情か弾けるような笑顔をしていることが多いが、美花にはいつもふにゃんとした笑顔を見せる。今日もそんな顔だった。
「ちょっと、あっち言って話さない?」
まだ早い時間なので、トイレには誰もいなかった。なので、トイレで話すことにした。
「美花、何で呼んだのー?」
「⋯⋯あみなちゃんは、気にしてないんだよね」
「えー、何がー?」
「小学生の頃、私を無視したり、『きらい』とか言ってきたよね? 私、その時すごく傷ついたよ」
そう言いながら、あの頃のことを思い出した。
その頃の美花は引っ込み思案で、皆の影にいることだけを考えていた。
だが、それも終わりになる。亜美菜が美花の読んだことのある本を読んでいるのを見て、思わず声をかけてしまった。
「それ、私も読んだことあるよ」
もともと何かで班が一緒になったことがあったからか、二人はすぐに仲良くなった。しばらく、二人で楽しく過ごす時間が続いた。
楽しく話しているのを見たようで、だんだんクラスの人が美花と仲良くしてくれて、友だちが増えた。だからか、亜美菜は急に言ったのだ。
「ねえ、私ともう仲良くしなくてもいいの?」
亜美菜は、「嫌だ」と言ってほしかったのだと思う。美花もそう言いたかった。だが、友達がやってきて、
「何の話?」
と割り込んできた。深刻な感じがして、駆けつけたようだった。
亜美菜は、まだ返事をしてもらっていないのに「仲良くしなくてもいいんだ」と解釈したのか、その場から去っていった。
その次の日から、亜美菜は美花を無視するようになった。美花は、理由がわからず何度か声をかけた。
「ねえ、今日ね―」
話し始めた途端、亜美菜はどこかへ行ってしまった。
お母さんに泣きながらそれを相談したところ、「とりあえずそっとしておいたら?」と言われた。美花はそっとしておくことにした。
亜美菜は声をかけられなくなったことに焦ったのか、
「もう話さないからね」
と言ってきたこともあった。
「え?」と聞き返すと、亜美菜はいつもののんびりとした口調で言った。
「美花きらーい」
その日から、もうどうでも良くなった。嫌いなんていくらでも言えばいい、そう思うようになった。
しばらくすると、亜美菜が皆から無視されるようになった。それは、だれかが、「きらーい」という言葉を聞き、広めたからだ、と友達に教えてもらった。美花は、皆で無視するのはよくないと思ったが、誰に言っても「美花ちゃんにそんなこといったの許せない」と言われ、無視を止めることは出来なかった。
亜美菜は、まずいと思ったらしい。美花に声をかけてきた。美花は、亜美菜が変わっただろうかと、仲良くすることにした。
亜美菜は変わっていなかった。その後も何度かそういった事が起こった。そのたびに、美花は友達をやめようかと考えた。だが、美花の性格では何も出来なかった。
中学からは、亜美菜と違う中学になった。その時、全てから解放されたような気持ちになった。
「亜美菜ちゃん、一回ただのクラスメイトに戻らない?」
「え、どういう意味?」
「そのままだよ。一回、関係を戻そうよ」
「え、友達じゃなくなるってこと?」
亜美菜は戸惑った様子で美花を見つめる。
「うん、そうなる。でも、高校でたくさん友達を作ればいいし、関係を戻してから、もしかしたら私とまた仲良くなれるかもしれない」
「⋯⋯」
亜美菜は黙っている。そして、顔を上げた。
「⋯⋯分かった。でも、連絡は取れるままでもいい?」
「まあ、そのくらいなら」
「⋯⋯ありがとう」
そう言い、亜美菜はトイレから出ていく。そろそろ教室に戻らないといけない。
「美花ちゃん」
教室に戻ろうとしている美花に、美穂は声を掛ける。
「何?」
「や、やっぱりなんでもない!」
美穂は、ササッと帰っていく。
(みはなちゃんの秘密、知っちゃった⋯⋯)
教室に戻りながら走る。途中で、思いっきり転んでしまった。
まだ終わりません。
しばらく投稿をお休みします。再開する日が決まったらここに書きます。
ぜひ次に投稿するときも見ていってください。
新しい話を書き始めました。詳しいことは活動報告に書いてあります。




