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突発回1 講習同期の男3人組、猫カフェへ行く件

人生やり直しにもゴールデンウィークがありました

 そう。異世界にも週休みがあった。


 心身ともにリフレッシュして、また元気に働こうね! となるはずの、きらきらしい制度である。


 だがしかし。

 連休明け初日。


 再び転生者ケア事務所へ出勤した俺、三枝正樹27歳は、自分が落武者みたいな顔をしているのを自覚していた。


 まあ、周囲も似たようなものだ。

 8日間の休みが終わったばかりだが。

 机に突っ伏して真理を探る者。

 窓の外を見つめ、夢を紡ぐ者。

 書類を開いたまま、魂だけが宇宙へ回帰している者。

 受付嬢にゃあさんは、彼女専用の椅子の上で香箱座りで眠っていた。

 出来るんだ、始祖型サーベルタイガーの香箱。手の収納スペース、謎すぎるけど。

 

 そして俺は、彼らの仲間だった。

『いいなあ、こういう職場の連帯感』

 美化が無理やりすぎる。

 まだ前世の社畜体質が抜けきっていないらしい。


「社会って、休ませたあと本気出してくるよな」

「どこも同じかあ〜」

「休み、なにしてた?」

「掃除、片付け、洗濯、掃除、片付け、洗濯、衣替え、片付け」

 指折って並べるなよ。悲しくなるだろう。


「お前は? 三枝、こっちの週休みは初めてだったろ?」

 わあ。

 同僚にプライベートを聞かれたぞ。

 斬新! 嬉しい!

 職場でこんな何気ない会話があるなんて。


 俺の社畜トラウマは深い。舐めるなよ。


「えらく疲れて見えるぞ」

「やっぱそうか」

 俺はため息を漏らした。


「馬鹿なことをやっちまってな」


 事務所中の注目が集まった。

 にゃあさんですら耳をぴくりとこちらへ向けた。愛らしい。


「レジャーランドに行ったんだ」


 ざわり。


「週休みに?」

「え、馬鹿なの? それとも勇者?」

「命知らずだな」


『だよなあ』


 今なら俺にも分かる。

 だけど、働き始めて2年目に大学時代からの彼女に振られて、そこから3年ずっとボッチで、2トントラック居眠り運転の事故(自己)都合退職で転生してきて。

 そこにレジャーランドがあったら。

 しかも転生者ケア事務所の割引券もあるんだぜ。


 行くだろ?

 お前なら行かないのか?


 で、行きましたよ。俺は。

 ひとりで。はっはっはっ


 この世界には、俺がいた前世からの転生者も多い。

 だから園内は版権ぶっちぎりの和洋中ごった煮に異世界風味まで加わっている。

 おまけにちょっと命懸けだ。

 アトラクションは追加で保険加入が必要だったり、着ぐるみかと思ったら本物の魔物だったり。 

 わあ、スリリング〜

 うっかり尻尾を踏んだサラマンダーに火を吹かれて、眉毛が焦げた。

 ありがとう、傷害保険。

 ついでに落ちた尻尾は貰えた。

 キーホルダーにした。


 楽しかったさ。もちろん。


 だが、異世界の芋洗い状態は怖い。

 人間(+何か)の満員電車レベル混雑のレジャーランドへ2泊3日。

 大きな間違いだった。

 少なくとも初日に行って、あとは5日寝ておくべきだった。


 帰ってきたの、昨日の夜中です、はい。

 俺、三枝正樹。落武者です。



 その時だった。


 事務所の表扉が、みしり、と悲鳴を上げながら開いた。

「おはようございます!!」

 全員がMVのゾンビみたいに顔を上げた。

 元気な挨拶と共に入ってきたのは、巨人族の青年ガロンだった。

 身長2.5メートル。

 肩幅は扉枠ぎりぎり。

 声はやたら爽やか。

「すみません! ちょっと肩が張ってて通りづらくて!」

「扉側の意見も聞きたい」


 俺と一緒に『異世界転生者初期適応プログラム講習』を受けた同期だ。


 前世の彼は極度に病弱だった。

 病院の外に出られず食事も満足に出来ず、希望も夢もなかったらしい。将来も。

 そして転生した結果。

 これだ。

 巨人だ。

 元気で頑丈すぎる。

 良いことだけれども。


「事務所が開くまで山を5往復してきました!!」

「何時起きだよ」

「4時です!!」

「化け物」

 にゃあさんがぼそりと呟いた。

 ガロンは真っ赤になった。

「可憐だ!!!」

 にゃあさんはちらりと視線を向けただけで奥へ引っ込んだ。

 口説き文句を騒音規制法無視の音量で叫ぶな。

 そんなとこだぞ。


 ガロンの後ろから、ひょいと顔を出したのは同じく同期の七三分けアキラだった。

 前方障害物がでかくてうるさくて、気づかなかった。

「三枝さん、元気ないですね」

「人生が曇天」

 魔術学院へ編入した若者には悪いが、こっちは修業苦行荒業限界突破している。

 だが七三は気にしなかった。

「では昼休みに猫カフェ行きましょう!」


 え?



 転生者ケア事務所の全職員にとって幸いなことに、その午前中は普通の事務仕事で終わった。


 そして俺は《月見しっぽ亭》にいる。

 木と石で出来た落ち着いた店内に猫(型魔物)が20匹以上、好き勝手に寝転がっていた。

 短毛種。長毛種。黒。白。茶。三毛。

 やる気のない独裁者たちである。

 天国かな。


 七三アキラは入口で固まっていた。

 ほら、早く入ってワンオーダーを通しなさい。

「……かわいい……」

 声が少し幼い。

「猫、初めてか?」

「……飼いたかった……」

「前世で?」

「……うん。でも賛成してもらえなかった……」

 アキラは小さく笑う。

「……母が……服とか家具とか傷つけるからって……」

 フリルたっぷりの色々な物が溢れた家だったらしい。

 俺は何も返さなかった。

 そういう独り言には、返事がいらない時もある。


 ここのランチセットのお握り、美味いな。

 おかか最高。


 一方、ガロンは。


「ふわああ……!」


 床に横たわり、猫に支配されていた。

 肩、腹、膝に二匹ずつ載ってくつろいでいる。

「完全に大型クッション認定だな」

「幸せだ……転生に悔いなし……でも動けない……」

 さすがのガロンも声量を極限まで落としている。内心の叫びが空中にスパークしているが。

「それは代償だ。甘んじて受けろ」


 店員が震えていた。

「ベイグル様とトリエグル様が、あんなに懐くなんて……」


 七三アキラの足元へ、小さな黒猫がやって来た。

 じっと見上げている。

 手を伸ばしかけて、止めた。

「どうした、七三」

「……嫌われたら嫌なんです……」

 視線を伏せる。

『それ、猫に、じゃないよな』

「近づきたい時ほど拒絶は怖いよな」

「……うん……」

「でも、まずはこっちの好意を知ってもらうことだ」

「……届かなかったら……?」

「何度でもやる。それでも駄目だったら」

「……駄目だったら……?」

「諦めて、次にいく」

「雑」

 アキラは笑った。

 その時、黒猫がそっと彼の膝へ乗った。

「……あ……」

「通じたな、アキラ」

 アキラは震える手でその背中を撫でた。

 泣きそうな顔で、また笑った。


 俺は味噌汁を飲み干した。

 美味い。


 俺の足は、メインクーンっぽい子に踏まれている。

 温かい。



「さてと。俺は事務所に戻るけど、お前らはゆっくりしてけよ」

「……あ、僕も学院戻ります……」

「俺はギルドに新しい仕事のオファーが来てるらしいんで、三枝と一緒に戻るぜ!」

 

 事務所1階には異世界全ギルドの窓口がある。

 転生者の求めるロマンを裏切る、という投書が来ていたが。

 利便性はロマンを駆逐するのさ by 社畜。


「お客さま!!」


 外へ出た俺たちを、泡を食った声が追いかけてきた。

「困ります!! お客さま!!」

《月見しっぽ亭》の店員だった。


 ん? どうした?


 店員はガロンの手を掴んだ。

「お猫さまの連れ帰りはお断りしております!!」


 え?


 ガロンの背中に、2匹の猫がしがみついていた。

 名前、ベイグルとトリエグルだったっけ。

 これは持ち帰りというより、勝手について来ちゃったやつでは?


 破顔したガロンへ、俺は告げる。


「返してきなさい」

「ええええーーーっ! ついてきたいって言ってるよおーーー!」

 オカンと幼稚園児か。


 俺はきっぱり言い切った。

 ガロンの抵抗を全て砕く、必殺の言葉だ。

「うちにはもう、にゃあさんがいるんだから、駄目です」

 ガロンは崩れ落ちた。


『それにそいつら、たぶん北欧の女神のフレイヤ様の猫だから。たぶん』



 異世界猫カフェ、さすがである。



 癒やされたわー。

 緑茶が美味い。


【突発回・終】


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皆さま、素敵なGWを過ごされましたか?

私は三枝でした。

また頑張っていきましょう!

自話、5月14日になります。



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