第8話 せっかく異世界転生して勇者になったのに、魔王城に辿り着けない
人生やり直しには、保険が必要です。
夢見る異世界転生者には、「大当たり」と呼ばれる職がある。
勇者。大賢者。聖女。竜騎士など。
その中でも勇者は別格だ。
勇者の一挙一投足、何を食べた、どんな発言をしたなどの噂はたちまち世界中を駆け巡り、名前が付いたグッズは売り切れ。自分から発信しないトップインフルエンサーだ。王国からの金銭支援も惜しみなく与えられる。
ただし。
「三枝!! 大変でございます!」
朝っぱらから受付嬢(猫科二足歩行・身長2メートル)が俺の部屋に飛び込んできた。
最初はちゃんと「三枝さん」と呼んでくれていたのだが、上司のアカリが徹頭徹尾呼び捨てを貫いたせいで、いつの間にかそれに染まってしまった。
しかし言葉遣いは丁寧なままなので、妙なことになっている。
ちなみに彼女の本名は猫族固有の発音で、人間には再現不能だ。
なので申し訳ないが、俺は「にゃあさん」と呼ばせてもらっている。
ふざけているわけではない。ちゃんと名前の一部だ。パブロ・ピカソみたいなものである。
ともかく、にゃあさんは大慌て。
「セージくんが! 勇者様が消えました!」
「またか」
「またです」
俺は眉間を揉みながら書類を閉じた。
最近この世界では、勇者が魔王討伐ツアーの度に消息不明になっている。
勇者の前世の名前は、西田智行。
こちらに来た時、彼は名前の智の意味を英訳してSageと名乗ることにした。
お爺さんが付けてくれた大事な名前を、間違った発音とイントネーションで呼ばれ続けることに耐えられなくなったらしい。
多感な17歳だ。
転生後は金の筋が入った黒髪。瞳は綺麗に透き通った水色。派手だが爽やか。顔面偏差値が高い。ついでに身長も190センチと高い。
『絵画から抜け出してきたような見た目』って、これか。
聖剣所持。魔力適性S。万能だ。
そして性格も良い。男も女も惚れる。
前世だったら神の恩寵全フリと称されただろう。うらやましい。
ただし。
「どうしましょう、三枝さん」
転生直後の3日間講習を終えて、追加の勇者用フィールドワーク中のはずのセージが、義理堅く俺を訪ねて来てくれた。
茶を飲みながら物思わしげにまつ毛を伏せる。不必要に色っぽい。
「俺、ものすごい方向音痴なんです」
「どれくらい?」
「魔王城へ向かったはずが、ここに来てました」
「なんでだよ」
「なんででしょう」
王都。
王城の会議室。
国王が机に突っ伏していた。
「……勇者が、またやりおった」
「今回はどこへ?」
「『三度目の正直、行くぞ、北の魔王討伐パーティー』のはずが、現在『東方砂漠に勇者降臨』との報告が来ておる」
「何一つ合ってないじゃないか」
俺は、にゃあさんから捜索用の水晶玉を受け取った。
勇者の現在地が映るらしい。
覗き込む。
砂漠の真ん中のオアシスで、セージはラクダに水を飲ませていた。
「セージ。なにしてんの」
『あっ! 三枝さん!?』
水晶越しに元気よく手を振ってきた。
『ご無沙汰してすみません! 魔王城に行こうとしてるんですけど、途中でオアシス作ってました!』
「意味がわからん」
『困ってる人がいたので、つい!』
「勇者適性は高いな……」
3日後。
ようやく本人が帰還した。
「すみませんでした!」
セージは土下座した。
爽やかイケメンは土下座しても妙に絵になる。まっ平らなのに跪いているみたいな気品がある。
俺のスキルとは大違いだ、うらやましい。
「いや、謝られる前に聞きたい。なんでそこまで迷う? 角を曲がり損ねたレベルじゃないぞ。大陸が違うじゃないか」
「前世からなんです……」
「スマホの地図アプリ使え」
「異世界なので圏外です」
「そうだった」
俺は、転生ケア事務所の1番デカい会議室で対策会議を開くことにした。
映像と音声は王宮にも送られている、はずだ。
こっちのテクノロジーとか、知らんがな。
勇者の魔王打倒の旅には国家予算がついている。
このままでは詐欺になりかねない。
「始めます」
俺は黒板に書いた。
『勇者を魔王城まで送り届ける方法。案と結果報告』
案1:護衛付きで同行する。
→ 勇者が護衛を先導して、その後ぶっちぎったため、全員が砂漠で迷子になる。
案2:飛竜で運ぶ。
→ 「景色が似ててわからない」と長時間飛行を続けため、飛竜がバテて南洋に墜落。
案3:地図を持たせる。
→ 地図の向きが分からず適当に進む。上下が逆であったため、結果として魔の森に到着。
案4:魔法陣で転送する
→ 魔王城のジャミングで全く違う場所に送られた。さらに三半規管に異常をきたし2週間寝込んだ。体質的に転送が合わない事が判明。
「……」
「これって、もうダメでは?」
「いや待て」
俺は勇者を見た。
「セージ。お前、迷ってる最中に何してた?」
「え?」
「砂漠では?」
「オアシス3箇所作って、井戸12個掘りました。交易路も作りました」
「南洋では?」
「海賊とクラーケンとリヴァイアサンを退治しました」
「魔の森は?」
「トレントの群れを討伐して、跡地を薬草園にして療養院を建てました」
「……」
全員が黙る。
俺はゆっくり言った。
「魔王を倒さなくても、もう世界救ってないか?」
全員がうなずいた。
その日から、方針は変更された。
『勇者の世界救済ぶらり旅』
迷ったまま好きな方向に進めるところまで進み、辿り着いた先で困っている人々を助けてもらう。
すると。
飢饉地帯には食料供給街道ができた。
盗賊団は捕らえられ、裁かれた。
勇者グッズの製造販売などで、多くの村々に産業が生まれた。
過疎に悩んでいた教会領で、究極のヒール効果がある泉を発見。人気の巡礼路になった。
その結果。
「国王の支持率まで上がっております」
「なぜ余が評価されるのだ」
知らんがな
「もう誰も文句はないのでは?」
「結果オーライだな」
数か月後。
転生者ケア事務所に王宮からの報告が届いた。
『勇者様、ついに魔王城へ到着』
「おお!」
『ただし魔王不在』
「は?」
『現世へ転移した模様』
「なんでそうなる」
頭を抱える俺の後ろで受付嬢にゃあさんが言った。
「とりあえず一件落着、ですよね?」
「うん、まあ、そういうことにしておくか」
俺は茶をすすった。
「放し飼い勇者にマクロの問題解決は任せて、俺は地道に書類仕事に勤しむことにするさ」
完全にフラグだった。
事務所の床に巨大な魔法陣が浮かび上がったのだ。
どうなる、俺、三枝正樹27歳。
【第8話・完】
《参考資料》
『異世界転生保険株式会社』第一営業部 新人研修資料
営業マニュアル & 苦情文テンプレート集
社外秘資料
無断転載、異世界持込、勇者への開示禁止。
法務部回答テンプレート
回答A(冷静)
平素よりご利用ありがとうございます。
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今後とも第二の人生をお楽しみください。
回答B(柔らかい)
ご不便をおかけしております。
なお、努力により改善可能な範囲につきましては、ご本人様対応となります。
回答C(強い)
再三のご連絡ありがとうございます。
同内容のご申告につき、本件は回答済みといたします。
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