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此の掌に貴方を。  作者: 桜惡夢
第四章 光射す彼方に描く夢想
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   22話


 無事、華佗を迎え入れる事に成功した圭森。

その後、華佗が圭森の立場を知って驚いた顔を見て「その顔が見たかった」と笑っていたりする。

そんな男同士特有の馬鹿なノリをする圭森の姿に、曹操達は華佗の存在が圭森の精神的な“抜き処”に為る可能性を見出だし、良かったと安堵した。

尤も、男同士で馬鹿ばかり遣っている様なら二人を厳しく躾るつもりではあるのだが。

まあ、暫くは大丈夫だろうと考えている。


穏やかとも呼べる日々が日常となってゆく。

それは決して、悪い事ではないのだが。

脅かす外敵が居なくなると内側が腐り始めるもの。

そうさせない為には、携わる者に責任と自覚を持つ事を徹底して理解させ、意識させなくてはならず、その為には教育が必要となる。

その教育を出来る者が少ないと腐敗は進む。

知識を教えるのではなく、人としての在り方を。

自らが背負う物が、どういう物なのかを。

それを教え、人間性を育む事こそが教育である。

知識だけなら遣る気さえ有れば学べるのだから。



「────え?、俺が“国営塾”の塾長に?」


「ええ、そうです、一刀

貴男は総合警備部・総隊長という事で、民の日常にとても近い立場で接して来ていますよね?」


「それはまあ…そういう仕事だから…」


「それはつまり、民の生活や教養等の現状・程度を理解しているという事にも繋がります」


「いや、ちょっと待ってくれ、晶さん!

その……うん、言いたい事は俺にも解ったよ

けど、晶さんと違って俺は指導経験とか無いよ?

それなのに塾長って…」


「一刀、総隊長を始める時も貴男は嫌がりましたが今でも嫌な仕事だと思っていますか?」


「……それは狡い言い方だなぁ…」


「施政者としては最高の誉め言葉です」



そう言って笑う圭森に対し北郷は苦笑を浮かべる。

「向き不向きは遣ってみたければ判りませんよ」と曾て圭森の後任として総隊長に就いた際に言われ、その通りだったと北郷は今なら判る。

実際には、遣り始めれば一生懸命になる北郷だから大丈夫だと圭森も判っていたし、困っている時には助言・協力は行っている。

まあ、だから“アキラえもん”と呼べる立ち位置を確立してしまってもいるのだが。


ただ、今回の場合、教育者という立場になる。

北郷自身、自分を悪人だとは思わないが、子供達の手本に慣れる人物だとも思えない。

それは圭森という一つの教育者の理想像を知る故の当然と言うべき比較からの不安だったりする。

そんな北郷の不安を圭森は察している。



「一刀、塾長とは言っても貴男が直接子供達に対し授業を行う訳では有りませんよ?」


「……へ?、そうなの?」


「その当たりは人格・思想・能力を厳正に審査した教師に任せますから安心して下さい

貴男の仕事は教師と生徒の関係性の構築です

…要するに、教師が一方的に考え方を押し付けたり強要したりしない様に、生徒が自主性を失わないで自身の可能性を広げられる様に塾環境の調節です」


「…あっ、そういう事なのか」



無意識に首を傾けていた北郷の為に、圭森は直ぐに噛み砕いた言い方で説明を付け足した。

そういう洞察力が教師には求められる資質の一つ。

だが、塾長の様に責任者という立場には北郷の様な苦労と努力を重ね、妥協する一線を理解出来ている人物こそが適任だったりする。

これが社長等ならば求められる資質が異なるが。

件の塾長というのは“中間管理職”なのだから。



「…でも、総隊長の方は?

正直、実力的に兼任は出来る自信が無いけど…」


「その為に張勲・文醜を加えている訳です

現に、今の総隊長の仕事は報告書の確認が殆んど、それなら混ぜない様に気を付けていれば塾長の仕事とでも十分兼任は可能でしょう」


「いや、だけど…」


「将来、自分の子供が張飛や袁紹の様になっても、一刀は構いませんか?」


「──ぅぐっ…そ、それは……無理だな、うん」


「現実的には、きちんと教えさえすれば大丈夫では有る事ですからね

そういう相手を選べる立場に有る貴男にとっては、些細な問題かもしれません

ですが、才能・資質は血筋や家柄で決まるといった物では有りませんからね

次代を、その先を担う人材の発掘と育成は必須です

だからこその国営塾の創設なのです」


「……聞けば聞く程、荷が重く感じるんだけど…」


「私は立場上務められませんが、国営塾である為、当然、総合警備部同様に関わる事になります

ですから、一刀が全責任を負う事は有りません

その点は安心して下さい」


「……全く無い訳ではないですよな?」


「それは当然です、仕事・職務なのですから」


「…まあ…そうだよなぁ…」



それは本気ではなく、落ち着く為の会話。

この後、北郷は国営塾・塾長就任の話を許諾する。


これにより、華佗を迎えた事と合わせて、魏王朝の描く国家の未来図を支える柱の二つが確立する。

医療・教育というのは人が集まる国に於いては必要不可欠だと言えるのだから。




一つの歴史が終わり、新たな歴史が始まった。

時代が移り変わり、社会もまた移り変わる。

曹操は自身の見解も含め、後漢王朝の衰退と終焉に関する書を編纂する事にした。

それは権力者が都合の良い様に改竄・偽装している歴史書ではなく、事実を記す記録書である。

特異な存在が絡んではないだが、ある意味では世の権力者達の悪行・腐敗が凝縮された時代でもある。

だからこそ、後世に正しく伝え遺さなくてならない事なのだと考えての事だ。


──だが、時代は“変遷の途上”である。

そう曹操達に示す様に、“空蝉”が動いた。


涼州と幽州に向かう大軍を圭森隊が捕捉した。

その数、何方等も凡そ十万という大軍である。

曹操達は即座に判断し、行動に移った。

身重である曹操・周瑜・黄忠・顔良は昌晋で待機、劉備の出産が間近という事も有り華佗に任せる。

非戦力の孫尚香等に呂布・李典・于禁・文醜・張飛・張勲・孟獲等を防衛戦力として残す。

幽州には大将に楽進、軍師に荀彧・程昱・諸葛亮・陸遜・賈駆・陳宮、軍将に夏侯惇・夏侯淵・孫策・周泰・厳顔・魏延・張遼・華雄・趙雲・公孫賛。

涼州は軍師に郭嘉・鳳統・呂蒙・董卓、軍将に孫権・許緒・典韋・関羽・黄蓋・甘寧・馬超・馬岱で、大将として圭森が率いる。

主力を惜しまずに注ぎ込んでの決戦だった。

そして、圭森は曹操と楽進にのみ、“屍兵”の居る可能性を初めて告げ、対処法も伝えた。

曹操の「貴男って人は…」という批難と呆れを含む視線に圭森は視線を逸らしてしまったが。


それは兎も角として、魏軍の兵力は十分だった。

元々、周辺からの侵攻に備えて軍を配備していた為両戦場に二万は集結させられる。

単純に数を見れば五倍差だが、今回に限り、部隊の指揮は全て軍師が行う。

大将と軍将達は指揮という枷から解き放たれる為、その武を各々が存分に奮う事が出来る。

普通とは違う、これは“そういう”戦いだからだ。


──とは言え、圭森の想定していた“全てが屍兵”という事態だけは避けられた。

実力的には魏軍の軍将の面子ならば問題は無いが、それでも圧勝・楽勝という事ではない。

負傷・披露は避けられず、最悪死亡も有り得る。

そう為る可能性が概ね消えただけで十分だ。


敵軍の咆哮を合図に開戦する。

相手が侵略者である為、掛ける慈悲など無いが。

それでも、“憐れな踊る傀儡(ひと)”だと思うと。

戦う者達の心には少なからず痛みを刻む。


刃が、衣服が、身体が、返り血で紅に染まる。

大雨さえも飲み干す大地が喉を詰まらせる程に。

夕闇の様に深く、噎せ返る程に濃く、赫を纏う。

青い空の下、白い雲が流れ、陽光が照らす。

けれど、大地は終末世界の如く、静寂に黄昏る。



(…………反応は無し、か…幽州の方かっ…)



氣を探知しても“空蝉”らしき反応は無い。

その事実に圭森は内心で舌打ちするが、切り替えて直ぐに幽州に向かおうとする。

そんな圭森だったが、捕捉した反応に振り向く。



「──失礼致しますっ!」



転移でもしてきたかの様に、虚空から姿を見せたと錯覚してしまいそうな見事過ぎる気配絶ちを披露し圭森の前に跪いたのは、自分達と同様に返り血にて身を紅く染めた周泰だった。

幽州に居る筈の周泰の登場に圭森だけではなく皆の緊張感が一気に高まってゆくのは当然だろう。

だが、圭森は周泰に外傷が見られない事から最悪の事態には至ってはいないと考えていた。



「…幽州で何か有りましたか?」


「いいえ、その逆です

戦闘は滞り無く終了、被害も微々たる物です

ですが、幽州側に洗脳されている感じの者は勿論、空蝉らしき気配は有りませんでした

その旨を私が御報告に参りました」


「そうですか、御苦労様です、幼平」


「はいっ!」



敬愛する圭森からの言葉に嬉しそうにする周泰。

本人は超の付く猫好きだが、その姿は泥塗れになり大好きな御主人様の前で尻尾を振る仔犬である。

殺伐とした戦後の雰囲気が彼女の存在で和らぐ。


ただ、圭森だけは違和感を拭い切れなかった。

周泰の話を疑う訳ではないし、その情報源は自身の愛弟子であり、妻である楽進である。

氣に関しては治癒特化の華佗を除けば、自身に次ぐ実力である楽進の判断だ。

それは間違い無いと考えてもいい。


また、この侵攻に洗脳されている感じの者が居ないという事実を考えると偶然、或いは空蝉に関係無く侵攻してきたという事になる。

その可能性は考えられる以上、否定は出来無い。


それなのに、小骨が喉を引っ掻いたかの様に。

圭森は何とも言えない違和感に苛まれる。


──と其処に、近付いてくる新たな気配を捕捉し、其方等へと意識を向けた。

そして、その気配が一体誰の者かに気付いた瞬間に圭森は顔を強張らせた。

程無くして姿を現したのは──呂布だった。

圭森は努めて冷静に呂布に声を掛ける。



「…昌晋で何か有りましたか?」


「……ん…北郷邸が襲われて…劉備の産んだ子供が拐われた…華佗達は気絶してるだけで無事…」


「──っ!?、そうですかっ…

孟徳様からは何か?」


「…ん…判断は圭森に任せるって…」



呂布の言葉に圭森は先ず、思考を止めて置いた。

氣の感知範囲を最大にまで拡げ、感知精度ではなく範囲だけを限界まで上げる。

その圭森の感知網に自ら存在を示すかの様にして、その反応を堂々と捕捉させた。

その場所は、奇しくも“黄巾党”終焉の地。

即ち、空蝉が解放されたであろう場所だった。



「……幼平、并州回りで文謙達に合流して、十分に準備をしてから“将師だけで”冀州に向かう様にと伝えて下さい

行き先は文謙なら判ります

但し、決して接触はしない様に

必ず、私達と合流する事を厳命します」


「了解しましたっ!」



圭森の命を受け、周泰は直ぐに姿を消した。

だが、それを気にしている暇は無かった。



「私は単独で昌晋に戻った後、冀州に向かいます

私に代わり仲謀、貴女を大将とします

十分に準備をしてから合流して来て下さい

後の事と、涼州は寿成殿に御任せします」


「ええ、判ったわ」


「確と引き受けました」



孫権・馬騰の返事を聞き、圭森もまた周泰と同様に姿を消したかの様に、その場を離れた。


全速力で昌晋へと向かう圭森。

その表情は苦虫を噛み潰したかの様に歪む。



(──糞っ!、まさか一刀と劉備の子供とはっ…

自分が“軸”に変わったと思った失態だっ…)



それは誰が悪いという訳ではない。

卑弥呼達からの情報は間違いではないのだろうし、二人も圭森と同様に考えていただろう。

少なくとも、この外史(せかい)の軸に北郷一刀は居ない。

それが三人の共通認識だったと言える。


だが、二人だけではなく圭森も知っている。

北郷一刀は幾多の外史の軸となっている存在だ。

例え、この外史(せかい)では違ってはいても。

彼という存在が、幾多の外史を生んだ要因な事には何も変わりは無いのだから。


それ故に、空蝉が狙う可能性は有り得る事だ。

その可能性を見落としてしまったのは圭森の考える最悪の方向性が、大戦が前提だった為。

犠牲にばかり意識が向いていた故だ。




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