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此の掌に貴方を。  作者: 桜惡夢
第三章 伸ばした掌が掴むもの
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   3話


 馬騰に会う為、圭森達は商隊に扮して向かう。

圭森が黄忠に加えて選んだのは甘寧と郭嘉だった。

護衛役には当然の様に圭森隊から二十名。

今回は一定以上の期間を要する可能性が高い事から通常よりは多かったりする。

しかし、それでも僅かに二十名。

圭森隊の壊れ具合──ではなく質の高さが窺える。

普通なら五十人程度は居るだろう。

治安は曹操の領地とは違い、悪い道中なのだから。



「──フンッ…手応えの無い…」


「いえ、その男、手配されている賊の頭ですよ

確か…結構な額が懸かっていた筈です」


「……こんな奴にか?」


「こんな奴でも、です

宅は元譲殿を筆頭に将兵の質が段違いですが他所はこの程度の相手でも大きな被害を出す脅威ですよ

まあ、外から見ないと宅の凄さに慣れてしまっては判らなくなりますが…」



そう言って郭嘉が視線を向けた先には淡々と指示と駆除をしている圭森の姿が有る。

膂力という意味でなら彼よりも上の軍将は居る。

しかし、試合ではなく純然たる戦闘となると彼より上だと言える者は居ないと郭嘉は思う。

それ程に圭森という男は強い。

そんな彼が指導する部隊もまた強い。

正面から遣り合いたくないのは夏侯惇隊等だが。

軍師として戦場で相したくないのは圭森隊だ。

そう口に出来る程に、異質だと言える。


そんな圭森に指導され、才器を更に磨かれた将師が曹操の支え、脇を固めている。

客観的に見て、負ける様には思えない。

それでも、慢心・過信・油断が無いのが圭森だ。

だからこそ、彼は怖いと郭嘉は思う。

尤も、味方としては頼もしい限り。

曹操・孫権が夫として惚れ込むのも理解出来る。

彼への想いを懐く者も少なくはない事にもだ。



(まあ、自分がそういった関係になる事を望むかと訊かれれば…正直、悩みますが…)



 相手として不足は無い。

ただ、彼は自分から迫る感じではない。

一度一線を越えてしまえば積極的なのでしょうが。

少なくとも、それまでは奥手と言うべきですね。

誠実で、慎重で、距離感を大事にしている。

そういう印象が彼には有りますから。

だから、そういう関係を望むのなら、自分から行く必要が有るという訳です。

それも生半可な“誘惑”程度では駄目でしょう。

文字通り、押し倒す覚悟が必要だと思います。


正直、其処までの覚悟は有りませんね。

「もし、一緒になれば…」と“たられば”話として想像してみる程度です。

御二人に割って入る程では有りません。

飽く迄も、“好意は有る”という程度です。



(そういう意味では北郷殿の方が気楽ですね)



彼は彼で関係を持っている女も少なくない。

先ず、部下でも有る真桜と沙和、世話役の桃香。

支援──いえ、補佐をしている雀三姉妹。

以上で……ああ、穏もでしたね。

まあ、穏の場合には彼は被害者かもしれませんが。

当人達が蟠りも無く幸せそうなら構いません。

周りが口を出す事では有りませんからね。


それは兎も角として、彼の方が気楽な理由ですが、北郷殿も受け身な様ですが回朋殿と違って警戒心が無いに等しいですからね。

勿論、“内輪の者”という前提の上での話です。

流石に見ず知らずの女性に誘惑されれば、警戒位はするでしょうからね。


私達の様に女の身で将師の立場に有る者の多くは、恋愛でも自分が主導権を握りたがります。

相手に委ねる、という事が出来難い訳です。

しかし、大体は男性も主導権を握りたがりますから衝突してしまう訳ですね。

そういう意味では回朋殿も北郷殿も主導権に拘らず受け止めてくれる質なので好ましいですね。


ただ、回朋殿は元々身持ちが固い方ですから。

彼を慕う者は本当に大変ですよね。

一方、北郷殿の方は楽でしょう。

自分に誘惑する程度の決意が持てれば行けますし。

“複数の中の一人”という部分さえ妥協出来るなら気安い関係を築けると思います。


尤も、今はまだ私自身は恋愛よりも仕事ですが。

そういう話自体は好きですよ。

私も普通の女ですからね。




 賊徒の襲撃を受け、返り討ちにし、後始末を終え移動を再開して──夕暮れ前に予定の街に着く。

宿を取り、街に滞在している圭森隊の者に賞金首を渡して換金を頼んでおく。

流石に今の自分達が換金すると疑われるからな。

その辺りにも配慮は欠かせない。



「御疲れ様でした

体調の方は大丈夫ですか?」


「御気遣い頂き、有難う御座います

私は特に問題は有りませんね」


「私も問題無い」


「これでも彼方此方と旅をしていましたからね

この位ならば問題有りません」



宿の一室にて一息吐きながらの確認。

漢升・興覇・奉孝と順に答えてくれる。

確かに見た目には問題は無い。

身体的にも大丈夫だろう。

だが、精神的には違うと言える。



「本人が気付かないだけ、という事も有ります

漢升殿は母親としての心配が有るでしょう

興覇は初の馬での長距離移動です

奉孝殿は旅慣れしていても以前の話です

ですから、自分でも気付かない変化が有る可能性を念頭に置いておいて下さい

御互いに気になった事が有れば声を掛ける様にして頂けると私としても助かります」


「それは…ええ、そうですね

確かに以前とは生活が変わりましたから

気を付ける事にします」


「確かにな…了解した」


「そういう回朋殿は如何ですか?

妻子と離れていますし…」



──と、漢升からの予想外の切り返しが来た。

体調も精神的にも問題は無い。

しかし、大人である華琳と蓮華は大丈夫だとしても幼い息子達の事は気になる。

気にならない訳が無い。


因みに、興覇が呼び捨てなのは本人からの希望。

蓮華の夫である俺に他人行儀にされるのは嫌らしく蓮華からも「そうしてあげて」と言われた。

尚、普段は公的には“殿”だが、私的には“様”を付けて彼女は俺を呼ぶ。

伯符の再教育(しつけ)の件も有った為だろう。



「…まあ、寂しくは有りますね

曹真も孫炎も健康では有りますが、乳飲み子な以上何時体調を崩すか判りません

文謙が居ますから安心はしていますが…

それでも、気にはなりますからね」


「そうですね、大人と違い子供は自分で体調管理が出来ませんから、心配になりますよね…

奥様方の事は如何ですか?」



同意しつつ避けた華琳達への言葉を求める漢升。

まだ素面な筈なのだが…逃がす気は無いらしい。

胸中で羞恥心に頭を抱えて身悶えしながらも諦めて平静を装って口を開く。



「…恋しくないとは言いません

ただ、旅行に来ているという訳では有りませんから其処は意識して引き締めていますよ」


「…もう少し肩の力を抜かれては如何ですか?

緩み過ぎるのは困り物ですけど、気負い過ぎるのも良くは有りませんから…」



そう子供を窘める様な苦笑で言う漢升。

予想外な言葉には自分も驚く。

もしそれが事実だとするなら、端から見た今の俺は危なっかしく思える事だろう。

心配になるのも理解出来る。



「…………気負い過ぎていますか?」


「ええ、まあ…貴男には珍しく」


「まるで悪い時の蓮華様の様だな」


「……其処までですか…」



言い難そうにする奉孝とは違い、率直に言う興覇。

肯定されて凹むが、興覇の具体的な比喩を聞いたら更に凹んでしまう。

そういう時の蓮華の姿を知っているからこそ凹む。

理解出来無ければ「蓮華がねぇ…意外だな」という感じで流せるのだろうが。

残念ながら、俺には出来無かった。



「他人の心配をしている場合ではないですね…」


「…御気持ちは察します

今回は相手が相手ですからね…

無意識に緊張されるのも当然でしょう」


「無意識だから、怖い訳ですよ

まあ、此処で気付けた事で良しとしましょう」



大きく溜め息を吐いてから切り替える様に呟く。

奉孝は気遣ってくれるが、それに甘えては駄目だ。

だからと言って自責の念に苛まれても駄目。

それ故に切り替える事が大事だと言える。


ただ、客観的に見て言うなら当然なんだろうな。

今回に関して言えば今までで最も難しい案件だ。

華琳──曹操の信頼を勝ち取る事よりも。

孫策に決別を決断をさせる事よりも。

統治する領地を増やす事よりも。

馬騰を“口説き落とす”事は何倍も難しい。


何しろ、相手は海千山千の猛者。

女性の身で西涼を統括する稀代の傑物。

魔窟とすら言える宮中の妖怪共を相手に一歩も引く事無く渡り合ってきた豪胆さ。

そんな馬騰が相手なのだから。



「……少し気晴らしでもしますか

漢升殿、この近くで気分転換に良さそうな場所等を御存知有りませんか?」


「それでしたら、一つ、心当たりが有ります」



そう笑顔を浮かべた漢升。

優しく、思い遣りに溢れた笑顔。

その言葉を疑いもしなかった。


だが、俺は失念してしまっていた。

はっきり言って目の前に居る相手も猛者である事。

原作にて、最強の一角であるという事を。



「…ふぅ~…いい御湯ですねぇ…」



タオルや手拭いを使う事すらしない時代。

入浴時に裸なのは当然。

水着という概念すら無いのだから。

だが、それは基本的に男女別だからだ。

決して、他者の視線に触れる可能性に配慮したり、混浴を前提に考えてはいないから。

だから、仕方が無い事だ。


ただ、言わせて貰いたい。

「何で、混浴なんだよっ?!」と。

まあ、「別々に入ってしまっては時間の無駄です」なんて言われれば言い返せないが。

本当に……何故、こうなった。


気分転換しようと考えた事自体は正しいと思う。

気晴らしとは意味が違うのだから。

訊いた相手が間違いだった。

ただ、言い訳をするなら、この辺りで土地勘が有る可能性が高いのは漢升だった。

興覇は勿論だが、奉孝も西側は旅をしていない事を聞いて知っていた為だ。

それ自体は可笑しくはない。

ただ、謀られてしまった。

結果から言えば、ただそれだけの事だろう。

“仲を謀る”で蓮華を召喚出来無いだろうか。

……まぁ、無理だろうな。



「…………」


「…………」


「……っ……~~~っ……」



無言で天然温泉に浸かる漢升・俺・興覇。

視線が重なった興覇が表情を固まらせた後、直ぐに赤くして外方を向く。

恥ずかしいのは御互い様だ。

堂々としている漢升が可笑しいと思います。

…奉孝?、「私は余計な移動で体力を消耗したくは有りませんから遠慮します」と言って残り隊の皆と予定通りに移動中だ。

後で、俺達が合流する予定。


まあ、気分転換に温泉は良い。

個人的に温泉は大好きだから。

正直に言って嬉しいです。

しかし、何ですか?、この極狭の物件は。

深さは中央が1m程、縁は60cm程と座り易いが、直径が1mも無い円形なんです。

三人で一緒に入るとギリギリです。

いや、ある意味ではアウトでしょう。

「回朋殿の気分転換ですから、堂々と真ん中で」と漢升に押し切られて浸かった両脇に二人が入った。

言いましたよね?、全裸でです。

肌が密着しています。

対面だと俺が困るからと言って横並びに座ったが、これも漢升の罠だったらしい。

対男用S級宝具が襲い掛かってきています。



「──っ!?、か、回朋様っ、まっ、ぁっ!」


「──っ!?、わ、悪い!」



回避しようと逃げたら興覇に触れる事に為った。

左肘が彼女の膨らみを突き、未咲の蕾を揺らした。

頭では解っていても、興覇の口から出た音色に男の本能は刺激され、反応してしまう。

悲しいかな、それに抗えないのが現実。

ただ、流されはしない。

そう意志を強く持つ。

慌てず、騒がず、興覇から身体を離す。

漢升に近付かない様に気を付けて。


 当然と言えば当然だが。

追い詰められていると考える程に冷静さは失われ、空回りし始めるというもの。

しかし、得てして当事者は気付けない。



「────っ!?」



そして、獲物を前にした蛇は狡猾で、粘り強い。

簡単に諦めはしない。

這い寄る様に圭森の太股を靭やかな指が這い撫で、甘寧の艶音で臨戦態勢に入った武槍を握り締める。

強過ぎず、弱過ぎず、知り尽くした絶妙な力加減。

圭森が視線だけを向けて恐る恐る確認したならば、赤い唇を蛇舌が舐める姿を幻視する。




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