第12話 生者の酒と、死者の誓い
四人の元へ来た村長!
「か、感謝の極み、神がかり! 貴方様方は、さぞ名のある有名な冒険者様なのでしょう!? この村を救っていただき、ほ、ほ、本当にありがとうございました!」
村長は深く頭を下げると、ぱっと表情を明るくして村人たちへ振り向いた。
「皆の衆! 今宵はめでたい祭りじゃ! 先生方を大歓迎するぞ!」
「「「「おーっ!!! 昔の活気が戻ってきたぞー!!!」」」」
村中が歓喜の渦に包まれた。
その夜、村はすっかり元気を取り戻し、賑やかな宴が催された。テーブルには溢れんばかりの酒と、香ばしく焼き上げられた大蜘蛛の肉が並べられている。
「グビッ……グビッ……ぷはぁぁぁっ! 人助けの後に飲むタダ酒は、一段と美味いのう!」
「膝の痛みも腰の重さもないし、いくら飲んでも酔い潰れんぞ!」
自分たちがすでに死んでいることも忘れ、老いた冒険者たちは村人たちと肩を組んで大はしゃぎしていた。
——だが。
盛り上がる宴の明かりを遠くで見下ろすように、暗い林の陰から、密かにその光景を伺う『何者か』の視線があった。
暗闇の中で妖しく光る不穏な瞳に、四人が気づく術はまだなかった。
◇
豪快な高笑いと、酒樽を叩く音が村の広場に響き渡る。
「ガハハハ! おい村長、この『大蜘蛛のモモ肉』、身が引き締まってて絶品じゃぞ! ニンニク醤油が効いておる!」
「おいおいジョンソン、ヒゲにタレがべったりついてますぞ」
「かまうか! 生きてた頃は腰痛やら痛風やらが怖くて肉も控えとったが……今の俺たちは痛む膝もなければ、くしゃみも出ん!歯は欠けとるが 無敵じゃあっ!」
「わしの魔法アレルギーをダシにするな!」
ベネットが呆れ顔で突っ込んだ。
彼らは一度死んだ。そして、なぜか「老いた姿のまま」半分幽霊の如き不完全な状態で現世に留まっている。
(俺たちがなぜ蘇ったのか。……それは、あの老いぼれ神に頼まれたからだ)
神々の遺跡を守り、完璧な若返りの秘薬を手に入れる——それが旅の目的だったはずだ。だが、どうやって世界の端まで辿り着き、全滅必至の危険を突破するのか?
ジョンソンが演説を豪快に語っていた、その時。
宴の喧騒を破って、一人の少女が駆け寄ってきた。村長の孫娘、ルナだ。
「ジョンソンおじいちゃん! これ見て、今その祠から見つかったの。おじいちゃんたちが戦っている最中、急に光り出したみたいで……」
ルナが捧げ持っていたのは、ボロボロの布に包まれた一振りの短剣だった。
全体が錆びつき、刃はこぼれ、今にも折れそうなナマクラに見える。
しかし、ジョンソンの目が険しく光った。
「これは……『聖剣アルギデス』の欠片!?」
「えっ? 聖剣って、あの剣聖神が使うっていう伝説の……?」
「どれどれ、わしが鑑定してやろうて!」
ベネットが手に持ち、重さや刃の塩梅を確かめてジョンソンへ手渡した。
「まぁまぁかのー?」
「そうだ。かつて魔王城の戦いで三つに折れ、世界中に飛び散ったとされる聖剣の破片じゃ」
ジョンソンは震える手で短剣の柄に触れた。
次の瞬間――バチッ!!と激しい青白い火花が散り、衝撃とともに手の甲へ謎の『紋章』が浮かび上がって消えた!
「ぬぐっ! 手の中に!?」
「ジョンソン!?」
青ざめる仲間たちを前に、ジョンソンがじっと自分の手を見つめると、皮膚の奥で青白い紋章が仄暗く脈動し始めていた――。
騒ぎに気づいた仲間たち——魔法使いのベネット、狙撃手のジュピター、忍者の清蓮が集まってくる。
「どうしたリーダー!」「む、その手にある光は……!」
ジョンソンの手の甲で輝く紋章から、微かな「声」が脳内に直接響いてきた。
『……求む……残りの欠片を……。聖剣が蘇りし時……汝らに“真の安らぎ”と“道”を示さん……』
「……なるほどな。どおりで俺の持っていた剣の加護が通じなくなっていた訳だ」
ジョンソンは息をのんだ。
世界の端にある『神々の遺跡』を守るためには、この世界中に散らばった聖剣の欠片を集め、聖剣アルギデスを完全復活させる必要があるのだ。そうすれば、神々の聖地へ導かれ、己の役割を果たして「真の成仏(若返り)」への道が開ける。
ジョンソンは不敵に唇を吊り上げた。
ただ運命に流されるまま黄泉の国へ戻るのを待つのではない。己の足で歩み、目的を果たす道筋がはっきりと見えたのだ。
「皆、酒宴のところ悪いが、俺たちの次の目的地が決まったぞ」
「おう! どこへ行くんだリーダー!」
「聖剣の欠片を探す旅だ。満足して満たされた体を勝ち取り、あの世へ逝くためにな!」
「「「がはははっ! 望むところじゃ!」」」
老いた冒険者たちは高らかに笑い合い、再び豪快に乾杯を交わした。
——しかし、事態はそう簡単に進みそうになかった。
宴が終わり、村中が深い眠りに落ちた深夜。
村の外れにある見張り台の上で、ジョンソンは夜風に吹かれていた。手の甲の紋章が、かすかに疼く。
(……やはり、気のせいではないな)
ジョンソンは腰の長剣の柄にそっと手をかけ、暗闇が広がる林に向かって静かに言い放った。
「出てきたらどうじゃ。酒の匂いに釣られたワケではなかろう?」
——ざざ、と草むらが揺れた。
つづく




