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ハムスターモンスター転生 〜自由を求めた最弱種、知力で獲物としての宿命を断ち切り、進化の果てに天災と畏れられる〜  作者: ひつま武士
第三章:かつて『狩る側』だった者たち

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第29話:拠点確保

澄み渡る夜気の中──

雲ひとつない星空が──

紺の荒野の上に広がっていた。


巣穴の縁からぽこっと顔を出すシルエットが──青白い月明かりにふわりと浮かび上がる。


(……うおあぁぁ……!)


瞳を丸い光が満たし、まるで水面のように揺れる。


(月あるけど……10倍ぐらいありそう──)

(模様も全然違う……!)


ハムマルは、

首をにゅっと伸ばし、

顔もしゅっとスリムになり、

鼻元のふくらみも、ぷくっと膨らませ、

ゆっくりと、見上げる角度を上げていく。


やがて体が仰け反り、短い前足がぷるぷると震えた。




ふと我に返り──ビクッと硬直する。


(──っ!)

(ヤッバ! どんだけ惚けてた!?)


ぱっと体ごと振り返り、


(油断し過ぎだろ!)


小刻みに首を左右に振り、

丸っこい三角耳もぴくぴくと向きを変える。


鼻先をふんふんと──風を嗅ぎ分けると、

ぽんっと飛び出し、巣穴の周囲を疾走する。


──短い四肢は見えないほどの速さで、脇腹の毛並みがふわふわ波うつ。


そのままシャッと巣穴に飛び込むと、一番奥まで駆け抜け、

すぐに入口までぴょんぴょんぴょんと駆け上がり、またぽこっと顔を出す。


ゆっくり数歩外に出て、

巣穴に向き直ったハムマルは──

瞳を輝かせ、後ろ足で立つと、右前足をスッと前に突き出す。


(ここを拠点にしよう!)


ぷっくりと鼻元のふくらみが持ち上がり、

逆三角にひらいた小さな口が、ニッコリしているように見えた。




だが、荒野の静寂を破るように……


“デデーン”という重い効果音が脳裏に響き、視界の端に小さな半透明のダイアログが開く。


(ひっ!)


──巣穴の入り口で、丸いシルエットが“ぽんっ”と跳ねて戻る。


まん丸に見開いた瞳で確認する。


──『状態:渇き/[蜂のアイコン]』


(!?)

(水! えっと、自動販売機は──あるわけない!)

(どうしたら!)


畳みかけるように……


“デデーン”という重い効果音が脳裏に響き、新たな文字列が追加された。


(ひぃっ!!)


──巣穴の入り口から、大の字のシルエットが跳ね上る。

  輪郭が白銀のリングの光を受けて、一瞬だけキラリと光った。


潤んだ弱々しい瞳で確認する。


──『状態:渇き、空腹/[蜂のアイコン]』


(食べ物!? えぇぇ~と、コンビニ……無いし!)

(どうしたら……どうしたら?)


勝手にぱたぱたと動く前足が、空中を忙しなく掻き乱し、

二本足で立ったまま、うろうろとその場で歪な円を描く。


その時──

記憶の奥から、ハムスター好きの友人の楽し気な笑い声が蘇った。


──「うちの子は、完全な草食なんだよ~乾燥チーズとかぶん投げちゃうし!」


(ハムスターなら、草を食べられるかも……?)

(水は……草原に川とかあったっけ?)

(……見つからなければ、草を絞って水分補給かな……)


ハムマルは確保したばかりの拠点から飛び出し、夜の荒野へ躍り出た。




夜空の下──


月明かりの荒野を、テクテクと軽やかに歩むハムマル。


──青白い光が毛並みを淡く縁取り、ふくっとした体の影が伸び縮みする。


草原の方向は明確だった。

決死の覚悟で駆け抜けた──草原から荒野への軌跡を、今は逆に辿っていく。


(!……いい石みっけ~)


武器になりそうな石を見つけると、

口にぽいっと放り『ほお袋収納』へと格納する。


ハムマルはふと気になり──


(ステータス~)


鮮やかな緑光で文字が浮かび上がる。


──『HP:102/112』『MP:144/187』


(増えてる!)

(HPは僅かに──“1”ぐらいかな)

(MPは“20”ぐらい! かなり回復してる!)


また、しばらく歩いてステータスを確認すると──


──『HP:101/112』『MP:145/187』


(HP減ってる……喉の渇きとお腹が空いてるからか……)

(でも、MPはまた増えてる!)

(じっとしていなくても大丈夫ってこと?)


ハムマルは試しに、少し速めに駆け続けた。


──『HP:101/112』『MP:145/187』


(なるほど~)

(激しく動いてたらダメで──日常生活ぐらいの行動なら大丈夫そう?)


散歩程度なら自然回復が可能、その事実に──


(なんて自由なんだ!)


軽やかになった足取りが荒野を弾み、丸いシルエットが満月の上にぴょんと跳ねた。



◇



やがて荒野と草原の境界が視界に入った。

月光が地面を明るく照らし、草が急に生え始めるのがハッキリと見える。


(……荒野近くの草は……なんか嫌だな……)


境目を避けて草原の奥へと、短い四肢がリズムよく進む。


──やがて、草が視界を埋め尽くす。


月夜の草原は──

緑ではなく蒼に輝き──

風が草の先端を揺らすと──微かな光芒を散らして波のようにうねる。


(戻ってきたぞー!)


そこは、“ランスホーネット”に襲われ、大群に絶望し、

それでも必死に穴を掘って抗おうとした──あの場所だった。


(……まだ、たった半日なのに……)

(……なんか、すごく前の気がする……)


死と隣り合わせの連続、その果てに掴んだ生還。

ぽてっと体を丸め、深く、深く吐き出した息が、濃紺の星空へと昇っていった。




ハムマルは、首を伸ばして右へ左へと振りながら──柔らかそうな若草を探す。

そして、四つん這いで──先端にそーっと口を運ぶ。


(……ほおぉ……ふむぅ……)

(……こ、これはっ……)


──それは、美味しいお米で作った、塩気の薄いお粥のような味わいだった。


(悪くないな~)

(……でも……食べ慣れた味なんだよな……)


──転生前、体調の悪い日は、それしか口にできなかった味。


(青臭く感じないのは……味覚が人と違う……?)

(まぁ、美味しく食べられるのはありがたいね!)

(じゃあ、満腹まで──)


もっちりした尻を地面に下すと、月明かりの中で丸い影がぽすっと落ち着いた。




しかし──


背中に強い衝撃──


草原がぐわっと視界を満たし──さらに暗闇に染まる。


「──ブギュッ!!」


体の記憶がハムマルに伝える。

それが、何らかの踏みつけであることを。


(……またアイツか!)


──“ヴォルカテイル!”


炎尾が一気に“体長の八倍”にまで伸び上がる。

あの時の“倍以上の太さ、四倍の長さ”の炎が閃光と化し、夜気を震わせる。


──1秒


ハムマルは、背後にぐるりと炎尾を振るう。


──“ボオォォォ!!”


だが、何も捉えられず、


(──手応えなし!?)

(避けられた? 今の長さで? この速さで?)


背中の圧力も消えていた。


瞬時に四肢を踏ん張ると──

潰れた大福のような体を跳ね上げ、身をひるがえし後方へ反転する。


(──いない? いや、いた!)


その視線の先、見覚えのある体躯は、あの時の遥か先で身構えていた。




──3秒


ニヤリと口角を上げ、その場で落ち着きなく草を踏みしだく、虎のような巨躯。


(……また、その顔か……)


だが、それ以上に──


(……なんだ……?)

(こいつの、この距離感は……)


──それは、“ヴォルカテイル”がわずかに届かない距離。


(スターオービットの炎尾を知ってる? それでその表情か?)

(……まぁ、ともかく──悠長にフェイントとかやってられると思うなよ!)


草原の空気が張りつめる。

闇色のウルフは、醜い笑みに月光を浴び、巨大な牙が浮かび上がる。

一方のハムマルは、勝手に身体に巻きついた炎尾に下から照らされ──鼻元のふくらみが浮かび上がった。




──5秒


それは一瞬だった。


ハムマルが地を蹴ると、

ダークファングは距離を取ろうと──

ニタリとした口角をそのままに、身をひるがえす。


しかし──


──“スガァッ!”


炎尾が草と土を爆ぜさせた刹那──

ハムマルの姿は既に敵の頭上に舞っていた。

風切り音がその丸い体を包み、毛並みが流線形に艶めく。


──今はまだ“ハムマルだけ”の炎尾による高速移動。


目を見開き、


大口を開け、


驚愕へと歪んでいく、


敵の表情を視界へ鮮明に捉えながら──


『ほお袋収納』から石をポンと取り出し、炎尾で硬く巻き取ると、くるりと宙返りする。


ハムマルを中心に、空中に綺麗な炎の円を描く炎尾が、

しなやかな弧へと形を変え──“ヒィィ……”と微かな空を切る音と共に、一閃した。


──“ゴキィ!”


「グガァ!」


真横に倒れ伏す巨躯。

衝撃で周りの草の先端から夜露が一斉に弾けた。




──9秒


(まずは機動力を奪う──)

(後ろ足がダメになれば、一気に弱体化する!)


着地と同時に、後ろ足の根元へ追撃を叩き込む。

炎尾がしなり、人の拳ほどある石が“ゴッ!”、“ガッ!”と、鈍い音を響かせる。


ダークファングは必死に身を跳ね上げ、牙を剥いて飛びかかるが──

力を失った後ろ足は地を蹴れず──ハムマルはシャッと横へ跳び、難なく死角へすり抜ける。


──13秒


飛び込んできた頭部へ、容赦なく炎尾を振り下ろす。

だが──先端の石がスポッと抜けた。


(──っ!?)


──“ビシィィッ!!”


石を失った炎尾だけが、敵の頭部を虚しく叩く。


(……なら、これで!)


炎尾を“ギュルルル”と首へと巻きつける。


そのまま力一杯締め上げると、

一瞬にして──ダークファングの身体から力が抜けていった。


(窒息じゃないな、早すぎる──血が止まって落ちたか)

(『状態:昏倒』ってところかな?)


──15秒


ぐったりと伏せる敵を、静かに見下ろすハムマル。


(……やっぱり、最初のと同じ姿……ダークウルフだっけ……?)

(ダークファングか……)


──橙色の炎が闇色の体毛を舐め、首元からじわじわと侵食していく。


だが、ハムマルは察していた。


(……炎で焼き尽くすまでもなさそう……)


──19秒。


巻きつく炎尾の深部から──

激しい水蒸気音が爆ぜ、もうもうと湯気が立ち昇る。


<経験値100を獲得しました>


──水蒸気は明るい橙光に揺らめき、夜の草原の蒼へと静かに溶けていく。


この結末が訪れると、ハムマルは脳裏に描いていた。

それが焼き切った血管から溢れる液体の“なれの果て”であることも──。

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