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第26話 王都の民の明暗。

エドレイド公爵視点。争乱途中から、つまり番外編の直後から。

 なんということか。


 一陣の風が舞った瞬間から、暴徒が、突然悉く悶え苦しみだしたかと思うと、人のカタチを喪っていく。


「……半神様が、お目覚めになられましたわ」

 次女ブランウェンが、聖女の血筋の力を僅かに覗かせたのか、そう述べる。


 傷ついていた兵が、突然の傷の快癒に不思議な顔になるのも見える。


 そして、見る間に暴徒であった者たちは、悉く……一人も余さず、見た事もない大きな花と化した。


 王都一面に、否、恐らくは国境まで続く、壮大な花畑の出現に、我らは一時ばかり、言葉を喪った。


「……あのように暴虐を振りまく醜いもの達が、かような美しい花になるとは」

 我に返り、些か釈然としない気持ちで、ついそうぼやくのは、我が家中にも死者こそ出ていないものの、それなりの負傷者は出たし、ここに辿り着く前に引きずり倒され命を奪われた民をも、多く目にしたからだ。


「暴徒が花になったのではございません。あれらは、花の糧にされたのですわ」

 即座にブランウェンから訂正が入る。


 つまり、罪に対する罰には違いないのか。


「エドレイド公爵閣下、今の風は何事でしょう。聖女様の御力より強いように感じましたが」

 そこにやってきたのは、マスフィルド子爵だ。

 確か、別館で持て成しておくように部下に命じたはずだが、なぜ、ここに?


「『花園』の主たる半神様が、お目覚めになられたのですわ」

 私が答えるより早く、ブランウェンが答えを述べる。


「……なんと……!では、グレシアは……」

 驚きの顔から、落胆の顔になるマスフィルド子爵。養女である前聖女、グレシア嬢を随分可愛がっていたとは聞いていたが……随分と思い入れが強いようだな?


「グレシア様は『花園』にお戻りになって間もないですから、恐らくご無事です。

 ただ、聖女としてのお力を全て使ってしまわれたようですので、今ここから存在を探るのはわたくしでは無理ですわ、申し訳ないのですけれど」

 これにもブランウェンが明確な回答を行う。

 我にはその類の事象は判らぬのでなあ。


「いいえ、いいえ、無事であると判れば、今はそれでよいのです。

 あれは養女と言っても、我が妻の実子、連れ子でございますので、私にも大事な娘のひとりなのです。

 ありがとうございます、妻に良い報告ができます。私事でお邪魔を致しました、失礼いたします」

 そう述べると、来た道を戻っていくマスフィルド子爵。


「しかし、あのマスフィルド子爵が良くもあの暴徒の群を凌いでここまでたどり着いたものだな」

 報告こそ受けていたが、詳細を聞いていないな、と首を傾げる。

 マスフィルド子爵は、典型的なこの国の法衣貴族の文官だ。若くして腰がお悪い方であった故、武術も嗜んでおられない。


「子爵家のメイドに、元他国の傭兵で腕の立つものがおりまして、自主的に自警団を組織しておられたのだそうですよ。

 その方々が周囲を囲んで、子爵家の皆様全員を無事送り届けたのだと」

 これもブランウェンが既に情報を押さえていて、教えてくれる。


「褒章ものだな、そのメイド自警団とやら」

「幾人か脱落したそうですが、過半数は邸内にて裏方の手伝いをもして頂きました」

 思わず称賛の言葉を口にすると、ブランウェンはしれっと籠城戦でも手を借りたと述べる。


「……報酬は弾むとして、褒章も奏上せねばならんな」

「それもですが、恐らく暴徒はもはや一人も残っておりませぬ故、籠城を解き生存者の確保と、わたくしどもは陛下の探索を行わねばなりませんわ」


 そうだった。

 余りに壮大な、神の御力による奇跡に気を取られていたが、陛下や弟君がたのご無事を確認せねばならぬ。


「では我とそなたで一分隊を率いて陛下の捜索、他の者は順次準備ができ次第、生存者の捜索にあたれ」

 即位したばかりとはいえ、公式行事にはまだ殆ど出ておられない陛下の顔をご存じの者があまりおらぬ上、陛下御自らをお迎えするなら、公爵家当主である我が行くのが筋だろう。


 そしてその居場所を探るには、聖女の資質を少ないながらに持つこのブランウェンが適任のはずだ。


「公爵様に申し上げます!ケッセル伯爵家が炎上の件、数名の生存者を保護致しました!

 モデレード殿下は彼らにより馬で伯爵ご子息共々、山脈方面に逃されたとのことです!」

 火の手の上がっていた幾つかの貴族家や商家に偵察に出した者たちから、次々報告が戻ってくる。


 残念ながらケッセル伯爵ご自身は、館で防戦の後、暴徒共々炎に巻かれ、討ち死にされたという。

 あの方も武技には縁遠い方であったものを……

 ご子息がモデレード殿下の御学友で、偶々ご訪問を受けていたタイミングでの騒乱は、彼にとっては運の悪い事だったであろうな。



 騎馬の集団で、出立する。

 目的地は『神の裳裾山脈』、その麓辺りだとブランウェンは述べる。


 行く道も、ただ花畑だ。

 ただ、『花園』があった場所だけは、ただ青草の茂るだけの草地になっている。


「『花園』にもとあった花は、半神様がお目覚めになる際に力の源としてお使いになったので、もうどこにもないのです」

 ブランウェンがそう説明してくれる。


 そういえば、お目覚めになられた半神様は、どこにいらしたものか。

 いや、それは唯人でしかない我の知るべき事ではないのやも知れぬ。


 道すがら、数人の生き残りを救助して後方に送るなどしていたら、一人の貴族と思しき少年の遺骸が見つかった。


「申し上げます。こちらは、ケッセル伯爵の御子息、フレドリク様です」

 ケッセル伯爵家に縁者が勤めており、彼らの顔を把握しているという騎士の一人がそう判定したので、回収を命ずる。


 相乗りでは逃げきれぬとてか、自分だけ降りたのであろう少年の亡骸は、服装こそ乱れに乱れていたが、その身体も顔も、思いのほか綺麗なものだ。


「女神様の御慈悲ですわ」

 ブランウェンはそう述べて、自分のマントを彼に与え、部下の一人が、彼を後方に運んでいった。


 やがて、記憶にある『花園』の場所をほぼ通り過ぎた辺りで、異様な光景を我々は目にした。


 巨大な植物。樹木と変わらぬ大きさに育った、だが見るからに樹木とは異なる、本来なら草花と呼ばれる植物たち。


 そしてその根元近くに、見覚えのある、見覚えしかない黒髪の、娘。


 いや待て、あの薬品を使って、なぜまだ生きている?!


 それも女神様の御慈悲であると知るまで、今少し。

 というわけで前話ラストに繋がる。

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