感謝の義理チョコと、兄へのお預け解除
高等部コートを後にして中等部のコートへ戻った私は、そのまま部活動へと参加した。
練習の合間の短い休憩時間、私は用意してきた大量の義理チョコを取り出した。
「みんな、いつも練習お疲れ様! これ、日頃の感謝を込めて作ってきたから、良かったら食べてね!」
私がキューブ型のブラウニーを配り始めると、男子部員たちが一斉に目を輝かせて集まってきた。
「うおっ! 水瀬からチョコ!? マジで!?」
「手作りブラウニーかよ、めっちゃうまい! サンキューな!」
運動後の小腹が空いたタイミングということもあり、配ったブラウニーやクランチチョコはあっという間になくなっていった。日頃共に厳しい練習を乗り越えてきた仲間たちの弾けるような笑顔と感謝の声に、こちらまで胸が温かくなる。
* * *
部活を終えて帰宅し、すっかり夜も更けた頃。
玄関で靴を脱ぐと、すでに帰宅していた湊兄さんの部屋から明かりが漏れていた。両手いっぱいの紙袋を持ち帰ってきた兄さんの姿が目に浮かぶ。
私は手を洗い、冷蔵庫で冷やしておいた特製チョコの箱をそっと取り出した。自分の部屋で着替えを済ませてから、兄さんの部屋のドアをコンコンとノックする。
「兄さん、入るよー」
「おう、入れよ」
ドアを開けると、案の定、湊兄さんの机の上には今日一年間で貰ったのであろう色とりどりのチョコレートの箱がうずたかく積まれていた。その一角には、あの葵さんから受け取っていた本命チョコも大事そうに置かれている。
「はい、これ。朝渡せなかった兄さんの分のチョコ。ちゃんとお預け解除ね」
私が両手で差し出すと、湊兄さんは少し驚いたように目を見開き、それからどこか照れくさそうに微笑んで箱を受け取った。
「サンキュ。……って、大きいな、本命と思ってもいいのか?」
「違うよ。兄さんの事だから小さくするとすぐに機嫌が悪くなると思って大きめに作っただけだよ」
「なんだ、そこは嘘でもいいから本笑みだとでも言ってくれよ」
「あはは、それじゃあ来年は考えておくね」
嬉しそうに箱の匂いを嗅ぎ、大切そうに机の脇へ置く湊兄さん。すると兄さんは机の上に広がる大量のチョコの山を見回して、ふうと息を吐きながら言った。
「にしても、今年もかなりたくさん貰っちゃってさ……。みゆ、流石に俺一人じゃ食べきれそうにないから、お前もいくつか食うか?」
そう言って山の中から箱をひとつ手渡そうとしてくる兄さんに、私は慌てて手を横に振って制した。
「ちょっと兄さん! 流石にそれは絶対にダメ! 兄さんにチョコを贈った女の子たちに失礼でしょ!」
「そうだけどな、でもこんなにあるんだぞ、食べきれなくてダメにするよりはいいかと思ったのだが...」
「だとしてもダメ! みんな兄さんのことを想って、一生懸命選んだり作ったりして渡してくれたんだからね。責任を持って、兄さんが自分で最後までぜーんぶ食べること!」
私がビシッと指をさして諭すと、湊兄さんは参ったなというように苦笑いを浮かべ、頭をガリガリと掻いた。
「わかったよ……。虫歯にならない程度に、毎日ちびちび責任持って食べるわ」
「よろしい! あ、でも葵さんからのチョコは一番に食べてあげtてね?」
「……っ、お前な、余計なお世話だろ!」
少し顔を赤くしてそっぽを向く湊兄さんに、私はくすくすと笑いを漏らした。
バレンタインという甘いイベントが終わり、次はいよいよ白銀の世界――修学旅行のスキー合宿だ。
みんなの想いや笑顔を胸に詰め込んで、私たちの冬のビッグイベントへのカウントダウンが本格的に始まるのだった。




