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神様の身代わり ―光の兄と、罪の妹―  作者: FERILU
第25章:新しい風、重なる誓い

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秋深まるコート、高め合う絶対領域

週が明け、新体制としての練習が始まって初めて迎えた土曜日。

私と美咲、陽太の三人は、星和学院高等部テニスコートの観客席に腰を下ろしていた。


コート上で圧倒的な存在感を放っているのは、高等部に入学してまだ一年生でありながら、すでに層の厚い星和高等部男子テニス部の「レギュラー」の座を勝ち取った湊兄さんと蓮くんだ。


「やっぱり湊さんも蓮さんもすごいな……。高校生の凄まじい体躯の先輩たちを押しのけてレギュラー勝ち取るとか、マジで次元が違うぜ」


陽太がフェンスに手をかけ、目を輝かせながら呟く。


「うん。二人とも、中学の時よりもさらに研ぎ澄まされてる感じがする……!」


私が頷いたその時、対戦相手である「付属一高校」の選手たちがコートへと入場してきた。

ずらりと並ぶのは、見るからに鍛え上げられた体躯を持つパワープレイヤーたち。その先頭に立っているのは、あの中学大会の決勝で湊兄さんと対峙した、あの阿久津さんだった。


「……久しぶりだな、水瀬」


阿久津さんはネット越しに、鋭い殺気を含んだ眼光で湊兄さんを睨みつけた。


「あの決勝で叩き潰されてから、俺の時計は止まったままだ。お前に勝つためだけに、一日たりとも休まず全てを捧げて体を鍛え直してきた。今日こそその圧倒的な強さを引きずり降ろして、リベンジを果たしてやるぜ」


「フン……口だけじゃないなら、見せてみろ」


湊兄さんは不敵に口角を上げた。

右手一本でコートを支配する「完成された絶対王者」の威厳は、高校生になった今も健在であり、むしろその精度と威力はさらなる高みへと進化を遂げている。


そして、阿久津さんの視線が、湊兄さんの隣に立つ蓮さんへと向けられた。二人を見るのはこれが初めてのはずだったが、阿久津さんの口元には不敵な笑みが浮かんだ。


「それと……あんたが元・帝都大付属のエース、北条蓮か。対戦するのは初めてだが、噂は聞いてるぜ。あんたみたいな実力者とやり合えるのも、今日の楽しみの一つだ」


「光栄だな。付属一高の看板を背負うパワープレイヤーの打球、確かめさせてもらう」


蓮さんも名前を知られていることに満足し丁寧な挨拶を返す。


「練習試合! 開始!」


審判のコールと共に、凄まじい熱量を帯びた交流試合の火蓋が切って落とされた。



ドバアァン――!


阿久津さんの放った重戦車のような超高速サーブが、爆音と共に星和のコートへと突き刺さる。中学時代を遥かに超える、血管が浮き出るほどの凄まじいパワー。


「うわっ……! なんだあの威圧感……! パワーが段違いだぞ!?」

陽太が思わず身を乗り出す。


だが、湊兄さんはその豪速球に対し、一切怯むことなく最短距離で踏み込んだ。

相手の強烈なパワーに一切押し負けることなく、完璧なタイミングで打ち返し、目にも留まらぬ鋭いカウンターとなってコースの際どい角へ突き刺す。


「ゲーム、水瀬! 1-0!」

「ゲーム、水瀬! 2-0!」


容赦なくポイントを重ねていく湊兄さん。王者としての隙のない圧倒的なプレイに、観客席からは息を呑む音しか聞こえない。


しかし――阿久津先輩の瞳の奥に宿る炎は、途切れるどころか凄まじい執念で燃え上がっていた。どれだけ揺さぶられても、足がもつれかけても、喰らいつき続ける。


「……ちくしょう……! まだ終わってたまるかぁぁっ!!」


カウント3-0で迎えた第4ゲーム。

血の滲むようなトレーニングで手に入れた筋力と、敗北の屈辱から狂気じみた精神力で鍛え上げた踏み込み。阿久津さんは自身の限界を超えるフルスイングで、湊兄さんの完璧な打球に泥臭く食らいついた。


ガシッ――!!


ラケットのフレームギリギリで捉えた打球が、ネットの白帯に当たって揺れ、ぽとんと湊兄さんのコート前方に落ちる。


「……コードボール! ゲーム、阿久津! 3-1!」


「――入った……! 取ったぞ……! あの水瀬から、1ゲームをもぎ取った……!!」


コート上で膝に手をつき、荒い息を吐きながら咆哮を上げる阿久津さん。

偶然のコードボールではない。湊兄さんの絶望的なまでの領域に何度も突っ込み、打球を死に物狂いに返し続けた“執念”が引き寄せた一打だった。


「……フッ、少しはマシな顔になったな」


自らのコートに落ちたボールを見つめ、湊兄さんはほんの僅かに口角を上げると、ラケットを静かに握り直した。


「すごい……! 阿久津、あの湊さんから1ゲームをもぎ取った……!」

「執念よね……。リベンジのために全てを注いできた人の強さ……」


陽太と美咲が感嘆の声を漏らす。

王者の絶対的な高みと、そこへ挑み続ける者の凄まじい情熱。コート上で激しく火花を散らすその姿に、私たちの胸も熱く燃え上がっていた。


「ゲームセット! 6-1、星和学院・水瀬!」


審判のコールが響き渡り、静寂の後に大きな拍手がコートを包み込んだ。

阿久津さんの執念の一打で1ゲームこそ失ったものの、その後は一切のスキを見せなかった湊兄さんがそのまま押し切った。


「ハァ……ハァ……っくそ……! 1ゲーム取るのが限界かよ……っ!」


コートに膝をつき、汗を飛び散らせながら悔しさを噛みしめる阿久津さん。だがそのに宿る光は、かつて6-0で完封された時の失意とは違い、どこか晴れやかで熱い誇りに満ちていた。


「フン……去年よりは少しは骨のあるボールを打つようになったな」


整列の際、湊兄さんはタオルで汗を拭いながら不愛想に言い捨てたが、その言葉には相手の血の滲むような努力に対する確かな賞賛が込められていた。


「阿久津、30分間休憩しろ、その後お前の相手は北条だ」


付属一高の監督から通達を聞いた後、阿久津さんは荒い息を整えながらベンチへと戻っていった。


「みんなー! 観客席で見てないで、こっちの控え席においでよ!」


観客席のフェンス越しに声をかけてくれたのは、星和高等部男子テニス部のマネージャー、鈴木唯先輩だった。唯先輩は親しみやすい笑顔で私たちを手招きしてくれる。


「唯先輩! ありがとうございます、お邪魔します!」


私と美咲、陽太の三人はお言葉に甘えてコート脇の控え席へと移動した。ベンチの近くからは、各コートで繰り広げられている仲間たちの熱戦がよりダイレクトに伝わってくる。


「すごい……どこも完全に実力が拮抗してる……!」


陽太が身を乗り出して目を輝かせる。

付属一高の屈強なパワープレイヤーたちに対し、星和の先輩たちも引くことなく粘り強いラリーで応戦している。どこのコートもゲームカウントが目まぐるしく動き、1ポイント奪うごとに互いのベンチから怒号のような歓声が飛んでいた。


「付属一高は層が本当に厚いね。阿久津先輩だけじゃなくて全員が限界まで体を鍛え上げてる感じがする。もしかして地区予選での敗退の相手って付属一高ですか?」

「そうなの。それで大会が終わった後に水瀬たちと打ちたいという選手が沢山いたみたいでね。それが今回の交流試合の経緯よ」

「なるほどね。でも星和の先輩たちも負けてない! 互いのプライドがぶつかり合って、すごく高い次元の試合になってるよ」


私と美咲が手に汗を握りながら見守っていると、あっという間に30分のインターバルが経過していった。



「それでは、次の試合を開始します! 星和学院・北条対、付属一高校・阿久津!」


審判のコールが響き、コートの空気が一変する。


汗を拭い、再びグリップテープをきつく握り直した阿久津さんがコートへと戻ってきた。湊兄さんとの激闘の疲労は残っているはずだが、その瞳には依然として凄まじい闘志が宿っている。


そして対戦相手としてベースラインに立ったのは、元・帝都大付属のエースにして、中学テニス界で『氷の貴公子』と恐れられた北条蓮だ。

湊兄さんに肉薄する絶対的な実力を持ちながら、一切の無駄を削ぎ落とした静かな佇まい。その冷徹な瞳は、相手の体力、癖、打撃フォームをすでに完璧にスキャンし終えているようだった。


「……フン、水瀬の次はあんたか。元帝都大付属のエース『氷の貴公子』……! たとえ相手が誰だろうと、俺の力でその冷たい顔を歪ませてやるぜ!」


阿久津さんがラケットを突きつけ、剥き出しの牙を見せる。


「力任せの猛攻か。熱くなればなるほど、俺の計算通りに体力が削られていくぞ」


蓮さんは一切の揺らぎがない声で静かに言い放つと、氷のように冷ややかにラケットを構えた。


絶対的な王者・湊兄さんとは異なるベクトルでコートを支配する『氷の貴公子』。

対するは、リベンジのために全てを捧げてきたパワーと執念の怪物・阿久津。


「プレイ!」


審判の声と共に、阿久津さんの咆哮がコートに轟いた。

湊兄さんとの試合で限界まで研ぎ澄まされた集中力と筋力。そのすべてを乗せた超高速サーブが、爆音を立てて蓮くんの足元へ突き刺さる。


ドバアァン――!


「……くっ!」


精密な打撃軌道を誇る蓮さんだったが、相手の規格外の質量と回転量に一瞬差し込まれ、返球が浅くなった。阿久津先輩はその隙を見逃さず、重戦車のような踏み込みから怒涛のドライブボレーを叩き込む。


「ゲーム、阿久津! 1-0!」


「見たか『氷の貴公子』! 俺のパワーは理屈じゃねぇんだよ!」


先制点を奪い、雄叫びを上げる阿久津先輩。実は、蓮くんにとって阿久津先輩のような理外の重圧で押し込む「純粋なパワータイプ」は、緻密な計算を狂わされやすい唯一の苦手分野でもあった。


だが――蓮くんの表情には、焦りなど微塵もなかった。

メガネの奥の瞳でボールのバウンドと相手の踏み込み速度を静かに分析し、手帳のページをめくるように思考を更新していく。


(……なるほど。質量、回転軸、初速。すべてデータの許容範囲内だ)


第2ゲーム。蓮くんの動きが一変した。

阿久津先輩の放つ強打に対し、真っ向から打ち合うのではなく、相手のパワーのベクトルの極小な隙間にラケット面を滑り込ませる。タイミングを極限まで完璧に合わせ、相手の威力をそのまま利用した「完璧な流し」でノータッチエースを連発し始めた。


「なっ……!? パワー負けしてねぇ……どころか、俺の力を利用してやがる!?」


「熱くなるのは勝手だが、コースは丸見えだよ」


一度タイミングを掴んだ『氷の貴公子』の領域は、あまりにも冷徹で完璧だった。

コートの四隅を寸分違わぬ精度で射抜き、阿久津先輩のパワーをことごとく無力化していく。


「キャーッ! 蓮くんすごい! 今のドロップショット、完璧すぎるよ――っ!」


控室のベンチで、誰よりも高い声を上げて跳ね上がっていたのは、マネージャーの唯先輩だった。

蓮くんがポイントを奪うたびに両手を握りしめ、顔を真っ赤にして大興奮している。普段のしっかり者なマネージャー姿からは想像もつかないほど、その瞳はハートマークになりそうな勢いだ。


「……ねぇ、陽太」

「……ああ、みゆ。やっぱり間違いないな」


私と陽太は顔を見合わせ、声を潜めて小声で囁き合った。唯先輩が蓮くんに特別な好意を寄せていることは、部員全員の共通認識となりつつあった。当の蓮くん本人は、一切気づく素振りもなくコート上で淡々とポイントを重ねているのだが。


「ゲームセット! 6-2、星和学院・北条!」


圧巻の立ち回りで、6ゲーム連取に近い形で蓮くんが勝利を収めた。


---


交流試合がすべて終了し、夕日がコートを黄金色に染め上げていく。

整列を終えた阿久津先輩は、汗を拭いながら湊兄さんと蓮くんの前に歩み寄ってきた。その顔に悔しさは滲んでいたが、折れることのない強い眼光が宿っている。


「……水瀬、北条。今日は完敗だ。だがな、俺たちの冬はここからだ」


阿久津先輩は深く呼吸を整え、力強く拳を握りしめた。


「次にお前たちとコートで向かい合う時は、今日のパワーも執念も、すべて過去のものにしてやる。絶対に……お前たちを引きずり降ろすだけの強さを手に入れて戻ってくるぜ!」


「……フン、楽しみにしておいてやるよ」

「期待しているよ。僕のデータを更新させるくらいの進化を見せてくれ」


不敵に笑う湊兄さんと、静かに頷く蓮くん。

互いの実力を認め合い、さらに高みを目指して誓い合うライバルたちの姿。見学してい

「プレイ!」


審判の声と共に、阿久津先輩の咆哮がコートに轟いた。

湊兄さんとの試合で限界まで研ぎ澄まされた集中力と筋力。そのすべてを乗せた超高速サーブが、爆音を立てて蓮くんの足元へ突き刺さる。


ドバアァン――!


「……くっ!」


精密な打撃軌道を誇る蓮さんだったが、相手の規格外の質量と回転量に一瞬差し込まれ、返球が浅くなった。阿久津さんはその隙を見逃さず、重戦車のような踏み込みから怒涛のドライブボレーを叩き込む。


「ゲーム、阿久津! 1-0!」


「見たか『氷の貴公子』! 俺のパワーは理屈じゃねぇんだよ!」


先制点を奪い、雄叫びを上げる阿久津さん。蓮さんにとって阿久津さんのような理外の重圧で押し込む「純粋なパワータイプ」は、緻密な計算を狂わされやすい唯一の苦手分野でもあった。


「ゲーム、阿久津! 2-0!」


だが――蓮さんの表情には、焦りなど微塵もなかった。

ボールのバウンドと相手の踏み込み速度を静かに分析し、思考を更新していく。


(……なるほど。質量、回転軸、初速。すべてデータの許容範囲内だ)


第3ゲーム。蓮さんの動きが一変した。

阿久津さんの放つ強打に対し、真っ向から打ち合うのではなく、相手のパワーのベクトルの極小な隙間にラケット面を滑り込ませる。タイミングを極限まで完璧に合わせ、相手の威力をそのまま利用した「完璧な流し」でノータッチエースを連発し始めた。


「なっ……!? パワー負けしてねぇ……どころか、俺の力を利用してやがる!?」


「熱くなるのは勝手だが、コースは丸見えだ」


一度タイミングを掴んだ『氷の貴公子』の領域は、あまりにも冷徹で完璧だった。

コートの四隅を寸分違わぬ精度で射抜き、阿久津さんのパワーをことごとく無力化していく。


「キャーッ! 蓮くんすごい! 今のドロップショット、完璧すぎるよ――っ!」


控室のベンチで、誰よりも高い声を上げて跳ね上がっていたのは、マネージャーの唯先輩だった。

蓮さんがポイントを奪うたびに両手を握りしめ、顔を真っ赤にして大興奮している。普段のしっかり者なマネージャー姿からは想像もつかないほど、その瞳はハートマークになりそうな勢いだ。


「……ねぇ、陽太」

「……ああ、みゆ。やっぱり間違いないな」


私と陽太は顔を見合わせ、声を潜めて小声で囁き合った。唯先輩が蓮さんに特別な好意を寄せていることは、部員全員の共通認識となりつつあった。当の蓮さん本人は、一切気づく素振りもなくコート上で淡々とポイントを重ねているのだが。


「ゲームセット! 6-2、星和学院・北条!」


圧巻の立ち回りで、6ゲーム連取に近い形で蓮さんが勝利を収めた。



交流試合がすべて終了し、夕日がコートを黄金色に染め上げていく。

整列を終えた阿久津さんは、汗を拭いながら湊兄さんと蓮さんの前に歩み寄ってきた。その顔に悔しさは滲んでいたが、折れることのない強い眼光が宿っている。


「……水瀬、北条。今日は完敗だ。だがな、俺たちはここからだ」


阿久津さんは深く呼吸を整え、力強く拳を握りしめた。


「次にお前たちとコートで向かい合う時は、今日のパワーも執念も、すべて過去のものにしてやる。絶対に……お前たちを引きずり降ろすだけの強さを手に入れて戻ってくるぜ!」


「……フン、楽しみにしておいてやるよ」

「期待しているよ。俺を驚かせる進化を見せてくれ」


不敵に笑う湊兄さんと、静かに頷く蓮さん。

互いの実力を認め合い、さらに高みを目指して誓い合うライバルたちの姿。見学していた私たち中等部新チームの胸にも、冬の練習に向けた熱い闘志が力強く燃え上がるのだった。


おはようございます。

作者のFERILUです。


『神様の身代わりー光の兄と罪の妹ー』

を読んでくださりありがとうございます。



湊の試合風景、全然描いていなかったなぁ。

阿久津としか書いてませんが、「阿久津(あくつ) 隆次(りゅうじ)」という名前を設定しています。


今後どこかで使うかも。


あと、予告ですが、お盆期間1週間は更新を一時中断とさせて頂きます。

8/16再開予定ですので、更新までしばらくお待ちください。


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