アズール再訪
俺達はメリー達と別れて村の外に出た。
誠一からは身分証のような板を貰った。書いてある文字は読めないし、板と言ってもおそらく土で作られたものだ。この土を固めるのはどうやってるんだろう。
「ソラ、ナニから探ス?」
ハンベエが遠くを見ながら聞いてきた。
「そうだな。山猫族を警戒しながら木の実とか集めるとするか」
「山猫族? アノ猫達のコトか?」
そういえば、アズールと話したのは俺だけだから皆まだ種族名も知らないのか。
「そうそう。俺が捕らえたのは“アズール”と名乗ってた。アズールともう一度話せると良いんだけど」
俺達は森に向かって歩きながら雑談していた。
ハンベエとは念話だと会話できないのが不便だな。こっちから伝えられてもハンベエから返事出来ないのがなー。それが解決出来れば二手に分かれて食料集められるのに……
「ソラ、何かイル」
エコロケーションで探ると確かに何かいるが、遠くてわからない。
「少し近づいてみるか」
ハンベエが頷いて歩き出す。
俺もそれにあわせて話しながら歩くが、こちらが少し歩くと逃げてしまう。違う木飛び移ったりして距離を一定に保とうとしている感じだ。
「うーん、無理だな。急いで追いかけても捕まえられないと思う」
「ソラ、気ニスルノはヤメよう。あの距離なら襲い掛かってきても、迎撃スル余裕はアル」
「そうだな。今は木の実やキノコを集めよう」
ハンベエは拾った木の実を俺にポイポイと投げつける。俺はそれを取り込み食べたくなる欲求と戦いながら溜めていく。本当にこの体は食欲が凄いのが困る。
「そろそろ戻ろう」
もうすぐ日が暮れる。村へ帰るまでに見かけた獣を狩って村に着いた。ただ食料を集めるだけの日になってしまった。これからどうするか……
それから数日、森は沈黙したままだった。メリー達が村に馴染む一方で、ペコリの食欲だけが刻々と危険信号を点していく。
食料は毎日集めてはいるが、持ち運べる量には限りがあるからどうにも出来ない。
食料集めすると何かの気配がするが、あればアズール達の誰かだと気づいた。一度アズール達と接触して話したいんだが、明らかに警戒されているから難しい。
「ソラ、疲れテルか? オレ一人で食料集めるカ?」
「いや、考えてただけだ。問題ない。」
今日も俺とハンベエは、森へ向かう。初日こそ俺が色々持ち帰る形だったけど、今はハンベエもデカイ袋を預かってそれに入れて持ち帰るようになった。
「ソラ、今日は近いぞ」
いつも遠くに感じる気配が、いつもより近く感じる。
「ハンベエは少し離れて警戒してくれ。相手が襲ってくるなら一度逃げてから反撃しよう」
相手は木の枝を飛び移っているようで、地面に降りることなく気配が近づいてきた。ハンベエは明らかに警戒を強めながら下がっていく。
俺はアズールだと考えあまり警戒されないよう、に余所見してるフリをしながらあちらを伺う。
それにしても近づいているのに音がまったくしない。猫とはいえサイズが違うのに凄いな。
正面の木の上に気配を感じると話しかけられた。
「ソラ」
上を見上げると青い中華服を着ていると猫がいた。
「アズール何か用か? こちらも聞きたいことがあったんだが、なかなか近寄らせてくれなかったからな」
「アンタ達に近づいたら逃げきれる自信が無いもの。用が無ければ近寄りたくないわ。流石に木の上でスライムに負けるとは思わないけどね」
ドヤッと言わんばかりの顔をしているアズールだが、俺は木の枝を飛び移る移動の方が得意なんだけど、言わない方がいいだろうな。
「それで? アズールの用は何なんだ?」
アズールは少し顔をしかめた。
「アンタ達は、いつまであの村にいる気なのさ?いい加減出てっておくれよ」
うーん、甚平の状況が改善しないとなー。
「いつまでかはわからない。俺達の都合もあるからな」
「都合って何よ。こっちも限界なのよ。出ていって!」
アズールの声がトゲトゲしくなり必死さを感じる。
「俺達が居なくなったら村を襲うのか?農耕鼠族以外を襲えばいいじゃないか」
”はぁーっ”と呆れたような声が聞こえた。
「アンタ達はこの辺の状況が何も知らないんだね。今このあたりで食べれる肉なんてほとんど見つからないよ」
えっ? 俺達は何かしら獣も持って帰ってるけど……
俺が混乱していたらフィリアが先に怒鳴りだした。
「嘘言いなさいよ。ソラとハンベエは獣を捕まえて帰ってるわ!」
アズールも怒気を強めて反論をする。
「それアナグマとかアナウサギとかでしょ? アナタ達がどうやって見つけてるかわからないけど、私達には見つけるのが難しいの。 それにああいうのは巣穴に逃げられると返り討ちに合うから深追い出来ないのよ」
「そんなの私達には関係ないじゃない。あなた達が頑張りなさいよ!」
「うるさいわね。出来るなら最初からやってるに決まってるでしょ。そんなこともわからないの?」
フィリアとアズールの言い合いが始まってしまった。まぁ言い合うのはとりあえず我慢するけど、フィリアさんとりあえず頭から降りませんか?
……降りませんか。これじゃ食料集めも出来ないな。
言い合いも低レベルになってきた。
「なぁ、そろそろ話進めていいか?」
「おい、話聞いてる?」
アズールもフィリアもまったく声に反応する素振りも見せずに言い合っている。
ふぅ……
こいつらこんないつ襲われるかもわからない場所で、大声で騒ぎやがって……
俺は無言で体を膨らませた。
アズールは”キャッ”と驚きの声を上げて尻もちをついた。フィリアは見えないが、おそらく落ちないように必死だろう。
「そろそろ止めてくれ。アズール俺からも聞きたいことがある」
アズールを見下ろすとプルプルと震えて顔が青ざめていることに気づいた。俺は体を元へ戻して話を続ける。
「アズール、君たちと農耕鼠族で共存することは出来ないのか? 今は食料が足りないと言うことはわかった。だけど元々は彼らを食べていたわけじゃないんだろう?」
「そうね……今まで食べていたウサギやトカゲが戻ってくれば彼らを襲う理由は無くなるわ」
アズールは声が震わせながら答えてくれた。
やっぱりそうだよな。彼女達は猫と鼠とはいえ同じような大きさの獲物を襲うほど獰猛に見えないんだ。
「ウサギやトカゲが何故居なくなったのか理由を知ってるか?」
「えぇ……狂気猪族と支配蜘蛛族のせいね。今この辺りは逃げ場が無いのよ」
アズールはなんとか声にしたような苦しそうな声だった。
「狂気猪族?支配蜘蛛族は話に聞いたんだが、狂気猪ってのはなんだ?」
「女狂いの豚よ。アイツらどんな種族の雌とも子供を作るの。そいつらが北の森で増えてる。西の森には支配蜘蛛族が元々いたんだけど、豚どもを警戒して巣を拡げてるの……」
敵に囲まれてるってことか。
……ん? 二方向だけじゃね?
「それなら東か南に行けば良いんじゃないのか?」
アズールは“はぁー”と深いため息をついて続ける。
「アンタ達は本当に何も知らないのね。東はしばらく行くと森を抜けちゃうのよ。南もしばらく行くと山にぶつかって、山沿いの森は結局、支配蜘蛛族のエリアに入るわ。 むしろあなた達がどうやってこの平原にたどり着いたのかの方が不思議だもの」
それはそうだな。そもそも蜘蛛を探してたのに、それだけ巣がテリトリーが拡がってるならなんで遭遇しなかったんだ?
「まぁアイツらは木と木の間に蜘蛛の巣を張るから、下の方を歩いてきたなら、見つからない可能性も無いわけじゃないけどね。それか女狂い共みたいに背が高くないから見逃されたのかもしれない」
あぁ、確かにテリトリーを拡げてる理由が豚のせいなら無関係な生き物は見逃してるのか? それならアズール達も見逃してもらえるんじゃないのか?
「アンタの考えてることはわかるけど無理よ。糸に引っかからないで移動出来るなら見逃されるかもしれないけど、木の上を移動したら確実に捕まるわ。それに地上の移動じゃアタイ達は生きていけない。この平原ならともかく森の中じゃ逃げ切れないもの」
「アズール達がどうにもならないっていうのはわかった。森の中にネズミ達のような巣を作って他の獣が戻ってきたら一緒に住まないか?」
「ソラ……アンタ本当にバカなんじゃないの? アタイ達はネズミ共を食べてるのよ? 一緒に住もうって言って素直に“はい”って言うわけないじゃない」
「うーん、でも本当はネズミ食べたいわけじゃないんだろ? とりあえず聞いてみるよ。今の敵に囲まれてる状態よりは、仲間は多い方が良いだろう?」
それにそんなに問題あるんだろうか? アズール達が肉を取れるなら甚平達もメリットありそうだけどダメかな?
「ソラ、そろそろエサをアツめよう」
ハンベエの声が後ろから届いた。アズールは、ビクッと体を震わせ、ハンベエを警戒する。
「そうだな。アズールとりあえず俺達が餌を集めて、甚平達にさっきの話を相談してくる。餌集めた時に肉が手に入ったら半分は渡すよ」
「良いの!? 説明したけど、貴重なのよ?」
「あぁ、これから仲良くしようっていのに分け合うのは普通だろ。それにアズール達にも死んでもらいたくないからな」
俺は満面の笑みを浮かべて言った。
「そう。そっ、それなら貰ってあげるわ」
アズールはそうひとこと言い放つと、サッと木の上に駆け上がった。
「ぷっ、なんで急に強気?」
思わず一人呟くと俺とハンベエとフィリアで餌探しを始めた。肉は狸みたいな獣が二匹取れたので、二匹ともアズールに渡して、俺達は村に帰った。
さて次はネズミ共と話し合いだな。
ようやく状況が動き出したことに、俺は少し安堵感を覚えていた。
いつまでもこの平原に留ってるとペコリが爆発しそうで怖いんだ。ペコリが暴れだすと村がヤバイことになる気がするんだ。それにこのままだとそのうち甚平達も問題を起こしそうだ。
「……考えるほど不安が増える。もういい、帰ろう。帰って、次の一手を考える。」




