プロローグ
「という訳でね、お願いしたいのだけれど」
明るく優しげな声ではあるけれど、妙にはずんだ声でお願いをしてきたローマ神話に出てきそうな格好をした、それはそれは美しい女神をぼーっと見ながら、私はポツリと返事をした。
「……はぁ…………」
今、私は自分が暮らしていた世界とは別の世界の女神様とやらの前にいる。
何でも私は元の世界で死んだらしい。
なんてライトノベルなテンプレート展開。
「それでね、特別な能力を貴女に差し上げようと思うのだけれど。“ちーと”って言うのよね?貴女の世界で言うところによると」
「……まぁ………」
そうですね、と心の中で呟きつつも、未だ状況が掴めずに呆然としている私に向かって、ニコニコと微笑む絶世の美女神。
「まずは、皆様の心にそっと入り込める程度の愛らしい姿は“てんぷれーと”ね?そして安心感を与える程度の『魅了(ライト))※有効範囲:他者のみ』、対神子対策の『魅了耐性(ヘビー)※有効範囲:自分のみ』、ラブの行き先を確認するための『感情指数(ライト)(有効範囲:他者のみ)』、ジレジレしている想い人の心を動かす『キューピットの矢(ミドル)※有効範囲:他者のみ』、カップル誕生の暁に祝福するための『愛の祝詞(ミドル)※有効範囲:他者のみ』、そして皆様の情事……こほん、事情を把握するために必要な『隠密(ヘビー)※有効範囲:自分のみ』、コレで隠れながら恋愛のフックを探して頂戴ね?」
「……いや、あの……」
混乱の極みにある私を置いてきぼりにしながら、言いたいことを言いたい放題な女神様。
「他に必要な“ちーと”があれば、おいおい追加していくわ!目標は千人!“千人斬り”て言葉があるのでしょう?それにちなんで千人ね!ああ、そうすると一日一カップルとしても千日かかってしまうわね。流石にそれは厳しいかしら!なら、千人分の恋愛を成就させるまで『不死(ミドル)※有効範囲:自分 ※千人分のカップルを成就させる間』もプラスしちゃいましょう!大盤振る舞い!」
「えっ、いや!チョット待って!それh」
慌てて止めようと女神様に掴みかかる……前に、踏みしめていたはずの床がなくなる。
「ではよろしくね!わたくしの“神子”!」
そう言いながら、どんどんと遠ざかっていく私を見下ろしつつ、素晴らしく美しい微笑みを浮かべて、女神様はさよならの手を振った。
あのさぁ、テンプレートなコメントしていい?ねぇ?
こんちくしょうめぇ!! ……って!
お読みいただき、ありがとうございます。