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ダンジョンに挑んだ者

あまり長い話ではありません。

 ダンジョン。それは、いつからあるかも分からぬ神々の創造物。


 いくつもあるダンジョンが、それぞれの逸話を持っている。


 曰く、金銀財宝が収められた宝箱。曰く、不老不死の魔法が封じられている深淵への扉。曰く、死者をも復活させる霊薬の貯蔵庫。


 多くのトレジャーハンターが、ダンジョンへ挑んだ。しかして踏破した者はおらず、死して朽ち果てる者が多い。


 ダンジョンは怪物の巣窟だ。地下へ、天へと向かう先は様々ながら、どれもこれもに守護者のごとく怪物がはびこっている。


 人知を超えた怪物は、容赦なくハンターたちを襲う。用意周到なハンターでさえ、逃げ、帰られたなら御の字だ。


 それゆえに、人々は恐れと憧れをもって、ダンジョンへ挑む。求める物こそ違えれど、ダンジョンの奥底に眠る神秘を手に入れようとして。


 とある剣士もまた、そんなダンジョンに挑んだ一人だった。


 死者を生き返らせるという魔導具を求めて、ダンジョンへ潜った。地下へと進むダンジョンに、人生の大半を費やした。


 剣士は、老人だった。手入れのされていない長い白髪は油まみれで輝きもなく、伸びた髭を剃ろうともしない。着ている鎧はボロボロで、道中で倒してきた怪物の皮で、あちこちと補修されていた。


 手にあるのは、怪物の牙と爪で作った鋭い刃。ダンジョンに入った際に手にしていた剣は、何年も前に折れていた。


 老剣士は、何十年という単位で時間を費やして、ダンジョンを進んでいた。


 もう正確な年齢など数えていない。何階層目まで進んだかも分からない。怪物との戦いで鍛えられた頑強な体躯だけが、老剣士の歩んだ苦難を物語っている。


 だがそんな体も、今や重く引きずられるだけだった。



「……」



 老剣士は、鋭い瞳に執念の炎を宿して、前へと、深淵へと進む。老いた体は一歩進むのにも苦労する。求める物への執着だけが老剣士を歩かせていた。


 雄たけびが聞こえてくる。ダンジョンに生きる怪物の咆哮だ。


 音は前方から、老剣士の向かう先から聞こえて来た。


 怪物の骨で作った柄を握りこむ。手になじむ感覚に気合を込め、老剣士はやがて現れるだろう怪物の気配を探った。


 予想が正しければ、今の咆哮はこの階層を守る親玉だろう。そいつを倒した先には、また地下へと進む階段が待っているはずだ。


 軋む体に鞭打って、足を進ませる。やがて見えてきたのは、広い半円状の空間だった。



「……」



 予想通りに、怪物がいた。


 獣なのかどうかも分からぬ球状の頭に、血のように燃える赤い目玉が六つある。四本足で歩く様はトカゲのようながら、大きさは老剣士の十倍もありそうだった。


 そんな怪物は、老剣士を見ると、一直線に突っ込んできた。餌が来た、などとでも思っているのだろう。


 老剣士は、足で踏ん張り腰を落とす。両手に刃を構え、向かってくる怪物に狙いを定める。


 突進をギリギリでかわす。横っ飛びで避けながら、怪物の右前足を切りつけた。


 手ごたえは浅い。それでも、老剣士には充分だった。


 刃には毒を塗ってある。浅い傷でも、効果はてきめんだ。狙い通りに怪物の足から血が吹き上がった。


 怪物が苦悶の呻きを上げる。その隙を逃さず、さらに刃を叩き込む。予想外のダメージに驚き、戸惑う怪物の足に、今度は刃を深々と突き刺す。


 今度はしっかりと手ごたえがあった。怪物が足を振り回しても、老剣士は刃を手放さない。抉り、切り落とすつもりで何回も斬りつけた。


 怪物の動きが鈍くなってくる。振り回す足から、力が抜けて来た。


 老剣士はそれを見定めると、一気に怪物の頭を狙う。突き刺した刃を強引に引き抜き、怪物の脳天へと振り下ろした。


 返り血が、老剣士の顔にかかる。それを熱で感じながら、とどめの一撃を頭に見舞ってやる。


 怪物の体から、完全に力が抜けた。ぐらりとかたむく怪物から離れ、倒れ伏す様子を老剣士は確認した。


 敵の絶命を感じ、老剣士は息を吸う。よどんだ空気と、真新しい血の匂いを感じて、息を吐いた。


 装備に問題は無い。背後に振り返り、目を凝らすと、暗がりの中に錆びた扉を見つけた。


 歩いて行く。戦いの余韻が抜け、忘れていた体の重さがのしかかってくる。



「……」



 足を引きずるように歩き、老剣士は扉を開けた。


 出迎えてくれるであろう階段を予想して、



「……?」



 突如、視界に入った満天の星空を見て、剣士は固まった。

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