本音
お待たせしました!
何事もなく、ただただゆったりと時間が過ぎていく。どこからか聞こえる鳥の声や木々の音を聞きながら、チラッとユイ君を見る。
理知的な焦茶の瞳と目が合った。
「・・・何か、?」
少し口ごもり、口元で手を組み合わせるユイ君。
「不躾だが、君は――」
――転生、しているのか?
まだ確証が持てないんだろうね、でも薄々感付いてる。
そっか、ケヴィン王子の次はユイ君か。
皆意外と早く気付くなぁ。
「何故、そう思うのですか?」
「行動や考えが、あまりにも年齢不相応だ。知識も多岐に渡る。それに少なからず転生する者はいると聞く。」
「セアラ王女殿下やマリーさんはこの事を御存知で?」
「恐らく。」
頷く。
セアラ王女は思慮深く、博識でもある。おれから話すか、尻尾を見せるなりしないと言っては来ないだろう。マリーさんはたぶん気付いていて、なにも言わずにいる。
細やかなに拍手を。
「半分、正解ですよ。」
目を見開くユイ君に微笑む。
「おれはジャック・ウィード。遠い地にて一度死に、この世界で目覚めた者。今はまだ転生なのかどうかが定かではないので、半分正解ということで。」
口調を戻せば、ポカーンとされた。
ふふ、ユイ君子供みたいだなぁ。
「異界から、か。」
頷く。
「帰りたい、のか?」
今度はおれがキョトンとする番だった。
「まさか。一度死んだ身、帰る場所なんてないでしょう?」
「そうなのか?ここ最近は何かと行動を起こしては殿下方から距離を置いているように見えたが。」
あぁ、それで。
そうだなぁ、ユイ君は仕事柄口が固いと聞くし、愚痴を溢しても許されるだろうか。
「できれば今から話すことは内密に。」
人差し指を口に当てて言えば真面目そうに頷かれる。
「おれはこの国が好きです。陛下も殿下方も、おれにとっては愛しい家族のようなもの。だから、相談役として側にいることはとても幸せな時間なんです。ですが、同時に譲れない目的があるのも現実。」
小首を傾げてる彼に笑いかける。
「先程、転生かどうかは定かではない、と言ったでしょう?おれが目覚めた時、この体は生まれ落ちて一月以上の時間が経っていた。もしも、憑依としておれがジャック・ウィードの体に宿っているのなら、それは人の人生を奪っている事と同義。」
言っている事を理解できたのか、ユイ君が愕然としてる。
「もしかすれば、おれは消えて、本来のジャック・ウィードに体を返すかもしれない。異界の記憶を持っている事を隠すのは、何も知らなければその時に記憶を失っただけだと思える。知っていたら、おれが死んだって思うでしょう?」
ここ最近、この事に気付いた。
記憶喪失ならまた思い出を作れば良い。でも、もし中身が死んだのなら姿が違う別人って事になる。後者の場合、下手をすれば関係の修復を諦める可能性があるだろう。
「一つ、おれはおれの存在が有って良いのか、それを確めなければならない。二つ、同じ境遇の者を支援し、生きやすい環境や場を作ること。」
再三言っているが、おれは王家の支援等があって色々な事が出来たのに対し、他はそうはいかない。恵まれた環境にいる以上、出来ることはやっていこう。
「三つ、もし唐突におれが死んでしまっても路頭に迷わないように、その時出来る全てをやっておくこと。そして、支える事ができる人材を見つけておくこと。」
ウィルにはシルバ君とノエル君。
兼職屋『夜蝶』にはギルドとお互い。
ジャクレインには父と魔晶石を使った守護。
孤児院『星の実』にはロカ達にクスター。
おれは彼等に、国に、幸せが多い事を願い続ける。
「おれが異界の記憶を持つことは、ウィリアム王子殿下の成人をもってお話しします。それまでは、おれからは言いません。」
都合の問題と、おれのエゴが原因だけどね。
「疑問も疑惑も、殿下方に仕える身としては当然あるでしょう。ただ一つ言える本音は、おれからすれば殿下方は我が子に近い、愛しい子供達です。不敬かもしれませんが、おれとしては皆よりも歳上ですから。頑張る子や苦しんでいる子を支えたいと思い、愛しい子を守りたいと願うだけ、おれはただそれだけです。」
微笑む両親が脳裏を過る。
「もう二度と、大切な人は奪われたくない。」
守れなかった命がある。
救えない命がある。
その悔しさを、悲しみを、おれは繰り返したくない。
同じ思いを誰かに味合わせたくない。
だから、ここまで来た。
ユイ君がおれと話したのは、おれが王女達に危険をおよぼさないか不安になったか、何かしら不穏に思うことがあったんだろう。
だから、愚痴を、本音を溢した。
当たり障りのない言葉を紡いでも納得できないだろうから。
「まるで母のようだな。」
後二、三年もすれば30ですからねー。
「誉め言葉として受け取っておきます。」
ユイ君は笑っていた。
翌朝、国境を越え、隣国パラトキアへ入った。二日かけて横断し、ノーマード王国へ入る予定だ。
パラトキアは広い土地を有しているものの、国土の三分の一が人が住むことのできない呪われた土地という特殊な環境下にある。有名なのは水を吸収してしまう呪われた砂漠地帯と踏み込めば二度と正気で出てくることのない呪われた樹海。
横断するルートは砂漠地帯の側を通るため、熱対策やらを講じてある。
おれにとっては初めての海外だね。
ちょっとだけワクワクしてる。
来月にまたお会いしましょう。




