知は力なり。
ちょっと早めに。
「えーと。まずは、おはようございます。」
ぱらぱらと返事が返ってきた。
今は朝食を終えた所なので、食堂に全員が集まってる。
メニューは簡単な野菜スープとベーコンエッグ、食パンに牛乳。おかわりは自由にしておいたから、時おり控えめにおかわりを貰いにくる人がいた。
別にそんな恐縮しなくても良いんだけどねー。
「先にきちんと挨拶をしておきますね。僕はジャック・ウィード。10歳です。隣にいるのがロカ・ドミトル。エルフのヒース。ドワーフのミィウング。」
名前を呼ばれ、一礼するロカ達に視線が集まる。
「これから二週間程度は僕達が留まり、与えられる全ての知識をを皆さんに授けます。でも、それから先は皆さん達が自身で努力していかなければならない。
いずれ、ここには多くの寄る辺なき者が集まるでしょう。僕が行うのはあくまでも支援。一から百まで全ての事を僕が代行するのは無理です。その体で見て、感じて、触れて、多くを学び、自らの足で歩いて行ってください。」
ロカを見る。
本当に良いんだな?
「ジャック、大丈夫だ。おれも腹はくくった。」
笑顔なんだけど口の端が引きつってるぞー。
強がらんでも良かろうに。
まぁ、頑張ってくれてるから、見ないふりをしておこう。
「・・・僕とロカは異世界の魂を持つ者です。転生か憑依か、まだ確証はえられていないけれど、前世がある事は変わらないでしょう。」
異世界、という言葉に大人達や獣人種達はハッとするような顔を見せた。逆に子供達はよくわからなかったのか首を傾げ、大人の反応を見て不安げな目でおれを見る。
「僕達は、同じ故郷を持つ同胞達のために行動を起こす日がくる。それは人によっては地獄に等しいかもしれない、それでも僕達は止まらない、止まる気はない。ここにいる誰かを僕達の地獄へ連れていくこともあるだろうし、皆にとっての家族を奪う結果になるかもしれない。・・・許せとは言いません、今の話を胸に留めておいてほしい。」
一人の子供が手を振っていた。
深い紺色の髪と目を持つ子だ。
良いよ、と促すとちょっと躊躇いがちに口を開く。
「それってさ、ジャックのはらから?・・・仲間の人を助けようとしてるんやろ?なら、おれジャックについてく。」
嘘やん。
いや、そんなにころっと信頼されるとか。
「地獄から救ってもらったのはこっちだし、恩返しできるなら喜んでやるよ。」
胸を張って言う子供につられてか、頷き、胸を張っておれを見る人達がちらほらと。
「ありがとう。」
今ちょっと不意打ちで泣きそうになってる。ロカに関してはもう泣いてるから顔上げれなくなってるし。
子供って、すごいなぁ。
「よし、話を戻すよ。僕達には異世界の知識がある。教えられる事は全てを教えていくから、興味があればそれぞれで僕達に声をかけてほしい。おおまかな日程は各部屋に配ってあった通り。」
手持ちの一枚を出す。
「朝は6時から一時間おきに時計が鳴るよ。朝食は院のお母さん達が用意してくれる約束になっているから、遅くても8時までに食べること。午前中は座学、午後は自由時間と護身術指南。参加は自由だけれど、他の人に迷惑をかけたりするのは禁止します。夜は12時までに就寝すること。これは体の健康を考えての最低条件です。守るように。」
まぁ、朝食の時点で時間を守れてる所を見ると心配はいらないみたいだけど。
座学を受けたい人を確認すれば全員だった。
意欲的なのは良いことだね。
一クラス40人だから、年齢を見て四つのクラスに分けた。
最初のクラスは年少の子達が集まるクラスだ。他の三クラスは見学にして、流れを教える。
「分からない時には遠慮なく手を上げたり、声に出して教えてね。質問も同じように。」
はーい、と明るい返事に少し安心する。
事前にロカと準備していた文字を大きく記した、あいうえお表を黒板に張りつける。これはロカにお願いした。
「座学、授業の間は粘土板と木のペンを使います。」
ロカに言われたけど、本来の粘土板は乾燥させて手紙代わりに使っていた。でも、おれの用意した粘土板は魔法がかけられてる。
「木のペンで書き記し、ペンの平らな部分で消す事ができます。指でつつけば分かりますが、跡が残らない。手をついたりして消してしまうことがないよう、魔法で仕掛けがされています。」
実際に粘土をペチペチと叩いたりする子達。
表面は変化せず、木のペンで書くと跡が残る。
大はしゃぎしていた。
「ノートとペン、インクは大事な事を書き残す時に使って下さい。こっちはあまり再利用ができないので。」
紙の重要性は分かるようだね。
大事そうに抱えていた。
「それでは、読み書きの勉強を始めます。僕の後に繰り返して言って見ましょう。」
一通りの発音を教える。
次にロカとおれの名前を黒板に書いて、発音。
男、女、大人、子供、という簡単な文字も同じように。
「文字、そして言葉は魔法にも通じるもの。」
瞬間、色とりどりの花が室内に舞った。
ヒースが魔法を使ったっぽいけど、アドリブだ。
おれもびっくりした。
子供達が目を輝かせて見ている。
一人が手を上げていたから、尋ねる。
「ぼくにもできる?」
「ロカ、見える?」
魔法が使えるかは魔力量で変わる。
魔力=生命力だから、一定量を越さないと使えない。というか使うと命が危なくなる。
ロカが鑑定眼を使って、頷いた。
「植物と光だな。」
「勉強すれば使えるよ。」
キラキラとした目で喜んでいた。
魔法は危険と表裏一体だからねぇ、教える時には適性ある子全員に教えておこう。扱いを間違えれば一瞬で大惨事だ。
言葉を教えるので午前中は終わり、昼食をとって裏庭へ。各クラスから代表4人を選んでもらい、16人を相手にする。服は汚れても良い服だ。
「最初に教えるのは基礎訓練。」
腕立て、腹筋、スクワットを教える。
ロカの指導も交えながら、体の動かし方、剣の持ち方、弓の使い方、棒や石を使った戦術を教えてゆく。
うん、獣人種やエルフの人達は遺伝子か細胞に染み込んでるのかな?ってぐらいに習得が早い。ヤバい。
て、あ。
翼人種の、リチェアの顔色が悪い。
そういえば、小さい頃に一度翼を切られているんだっけ。
「剣はそれぞれで大きさは変わるけど、万能なのは騎士が使うロングソードだな。」
剣のオススメを話しているロカに軽く手を振る。
「どうした?」
思わず話を止めたロカ。
持ってるロングソードは安価に大量購入した一本。
朗らかに笑って見せたら何故か青褪めて一歩逃げやがった。おい。
「人の笑顔を見て逃げるとはこれ如何に。」
「いやいやいや!鏡見て来いって!その顔はろくでもない事考えてる時のだろ?!」
そんな全力で引くなよ。
「大したことじゃないって、ロングソード、壊すなら?」
「欠けてる所か半分辺り――っておい?!鍛冶屋の目の前で武器壊そうとすんなよ?!鬼か!」
「いや、ほら、素手でも武器相手は出来るって証明しとこうかと。軽く構えとけよー。」
全員を一度下がらせ、ロカと対峙する。
翼人種は腕が翼になっている人達だ。
飛ぶために小柄で細身になり、男性も女性も美しい姿となった。それ故に男女共に狙われることになったのは気分の悪い話だが、彼等にも武器はある。
それは脚力。跳躍力もさることながら、彼等の蹴りは例えるならば闘牛のそれに近い。リチェアは人に近いが、鳥に似た足を持つ者は鉤爪で切り裂くこともできるとか。鷲のように狩りもするから、威力は相当なものだろう。
「頼むから、手加減してくれよ。」
「お互いにな。三秒後。」
ロカが小さくカウントをする。
「3、2、1、っふ!」
振り下ろされる剣を横に弾くが切り返される。
その刃を下から蹴りあげた。
剣を横に振っちゃったら上下は切れないからね。
パァンッと音がして、剣の半分が上空に飛んだ。
その落下点を二人して見て、サァッと血の気が引く。
「「ミー君!!」」
あ゛。
「だぁれがミー君じゃクソ餓鬼共ぉ!!」
カァンッと落下した剣の半分を打ち返され、おれとロカの間をすっ飛んで地面に突き刺さった。
おぉ、ロカの髪がちょっと持ってかれてる。
「こんの餓鬼共ぁ!何べん言や分かる!!ミィウングだ!言いにきぃならミングで良いと言ったろうが!誰がミー君だ誰が!!」
「今のはごめん、ロカのが移った。」
「ちょぉっ?!おれを売るなよ!?」
「言いだしっぺお前じゃん。」
「あぁそうだ!小僧が言わなきゃ問題はなかったんだ!!」
「わかったわかった!おれが悪かったって!」
騒ぐロカに気をとられていたけど、リチェア達が笑っていた。うん、まぁ、グダグダになった感あるけど良いか。
※
「知識は力になる。」
ジャックのその言葉により、『星の実』に所属する者達は全力で学んだ。それこそが、場を整え、知識や技術を与えてくれたジャックへの恩返しの一つであるとして。
そして、スラムへと流れてきた者達に手を差し伸べていくようになる。
後世において、ジャックの名が広まる一つのきっかけとなるのが彼等だ。
次話は五日か、それ以内に。
ヽ( ・∀・)ノ




