武術と父の面影
三ヶ月も待たせてしまって申し訳ないです!
あけましておめでとうございます。
これからもよろしくお願いします。
ポカンとしたノアさん、おれも固まった。
ゆっくりと、若干の痺れがある手元を見る。
練習用の刃引きされた剣。
ノアさんの手には、刃が半分ほどになった剣があり、少し離れた場所に剣先が転がっている。
一個だけ、言わせて欲しい。
どうしてこうなった?!
事の始まりは、魔法の話があった日から三日ほどたった今朝のことだ。
第三王子ことジェイド王子の執事であるノアさんと、騎士のアーサーさん。この二人が突然迎えにきた。
話によれば、国王様より剣術及び武術の指導を頼まれたが、まとまった時間が取れず、今日になった、と。
まぁ、忙しいのは分かる。が、せめて一言前日に言って欲しかった。心の準備をさせてくれ。
ウィルと母様に軽く話し、二人に連れられて試験をやった裏庭へ来た。 もちろん、服は着替えてある。
それで、ものは試しにと、ノアさんと刃引きされた剣での試合をすることになった。
あ、純粋な武術の指導だから、魔法は禁止された。
んで、まずは一撃 と斬りかかって、打ち合っているうちに、なぜかノアさんの剣が真っ二つになった。
「・・・そこまで。ノア、手は?」
双方ともに呆然としていると、審判役のアーサーさんから止めの声がかかった。
「あぁ、問題ない。」
平気そうにノアさんは言うけど、剣が折れる衝撃でノアさんの手がダメな方に曲がったの見てるからね?!
絶対、捻ったかどうかしてるよね?!
「嘘をつくな。代われ。」
「・・・すまない。」
どうやら、アーサーさんも見ていたようで、審判役を交代して続行することになった。
「悪いが、加減は苦手でな。泣くなよ。」
タンッと軽い動作で突きだされた切っ先を、慌てて横凪ぎに払う。
開始の言葉無しか!? あっぶな!
しかも、もろに首狙ってたよね?!殺す気か!
払った剣でそのまま袈裟がけに斬りつけるが、受け流され、体勢が崩れた。
「力でするから、こうなる。」
その言葉と同時に、首筋を叩かれた。
うん、叩くってより、殴られた?
視界がグニャンってなって、顔面から地面に倒れた。
いってぇ。鼻折れそう。
これ、あれだよな? 手刀とか言われるやつだよな?
すっげぇ、頭痛い。ぐわんぐわんする。
「アーサー、仮にも子供なんだが。」
「気絶させただけだ。」
気絶してねぇよ! だぁあ!もう!
歯を食いしばって起き上がる。
口ん中からジャリィって音がした。砂噛んだな、これ。
「まだやるか。」
ぐらつく視界で、アーサーさんが笑うのが見えた。
あんな? これでも、おれって結構短気なんだわ。
ちと頭にきたし。プッツンしても良いよな?
「これ、武術も有りでしたよね?」
キレかけてるせいか、自然と口角が上がる。
あぁ、たぶん今すっごい不気味な笑い方してるよなぁ。
おれの質問に、ノアさんが無言で頷いたのを視認してから、アーサーさんに殴りかかった。
アーサーさんも剣を手放し、素手で対応してくる。
拳を止められたので、その手を掴んで顎を蹴りあげる。
技なんざ知らん。どこをどうするか、どこを狙うかさえ知ってれば十分だろ。
「軽い。」
蹴った足を掴んで宙吊りにされた。
投げられるかと思ったら、パッと手を離された。
両手をクッションにして飛び、アーサーさんから距離をとる。
これ何だっけ、ハンドスプリングだったかな?
バク転の逆バージョン。
ちょっとクラッて目眩がした。
「・・・そこまで。アーサー、魔法は禁止したはずだ。」
「え?」
ノアさんの声でアーサーさんを見る。
アーサーさんの周囲に魔力は見えない。
ただし、なぜかおれの周りに黒い靄、闇属性の魔力が漂っていた。・・・いつ、つけられた?
「実戦なら命取りだったな。」
アーサーさんがボソッと言った。
あー、くそ。やられた。
「ありがとうございました。」
一礼して下がる。
反省しないとな、完璧に油断してたぞ。
「武術はともかく、剣術は粗が目立つ。力だけでやろうとするな。無駄に力を使ってバテるぞ。」
「はい。」
剣術をメインに指導が始まった。
やり方としては、真似っこだ。
ノアさんとアーサーさんがする動作を真似する。
できてない時は、説明といっしょにゆっくりしてくれた。
なんでもおれの剣の振り方は向いてないそうだ。
何にって、剣に。
「片刃であればまだ良いだろうが、片刃は素人が使うものではないからな。」
だってさ。
個人的には、片刃というか、刀が良いんだけどね。
まずこっちに刀があるか分からないから、剣の練習に励みますけど。 指導はお昼ごろに終わり、次は明後日の夕食後。
思ったけどさ、意外と自由にさせてくれるんだよね。
魔法に関しては、ほとんど指導はないし、剣術の方だってアレコレ言ってくるわけじゃない。
放任スタイルって言うのかな?
ん? 放任は悪い意味だったっけ?
まぁ、分からない事があれば、聞けば丁寧に教えてくれるし、何かと気にかけてくれたり、アドバイスをくれる。
何と言うべきか、そうだな。
型にはまった教えじゃなくて、おれに合わせて教えてくれるから、窮屈さとか、変な重圧がなくて楽、って感じかな?
前はあんなに勉強が嫌いだったのにね。
今じゃ自分から勉強してるもんだから、笑っちゃうよ。
昼食を食べに戻り、母様と話をする。
街へ行った時、どこへ行くかの相談だ。
「最後にね、特別な場所へ案内したいの。とても綺麗な所よ。」
そう言ってふんわりと笑う母様。
特別な場所、どんな所だろ?
おれがちっさい時は外出してないからなぁ。
たぶん母様にとって思い入れのある場所、かな?
「王子も気に入ってくれると良いけれど。」
「大丈夫ですよ、母様。初めての街ですから。」
「そうね。ジャックは午後の予定はあるの?」
「うん。ちょっと調べたいことと、挑戦したいことがあるから書斎に行こうかと。」
「ふふっ、勉強熱心なのは良いけれど、無理はしないようにね?」
「うん。」
母様と別れ、書斎に行く。
挑戦したいことってのは、魔道具のことだ。
音、もしくは映像での記録が可能なもの。
捕縛、気絶などの生け捕りにすむためのもの。
可能ならば、自動で攻撃を防御するもの。
ひとつでも良いから、作っておきたい。
材料は魔法で用意できるはず、ダメならアルイト王子を頼る。
本をあちこちから引き抜き、必要な情報を集める。
材料を確認していると、書斎の扉が開いた。
「・・・? ジャック君?」
顔を覗かせたのは、黒みがかった茶色の髪。
第二王女のローザ王女だ。
「ローザ王女殿下。どうかされましたか?」
「少し息抜きにね。何を読んでいるの?」
トトトっと手もとの本を覗きこむローザ王女。
少しだけ首をかしげてこっちを見た。
「魔道具の作り方?」
「はい。街へ行った記録ができないかと。」
「あ、それなら映像を保存できる魔道具あげようか?」
「え、貰ってよろしい物なのですか? 高価な物では・・・。」
「えへへ、前に通信用の魔道具を作るときにね、興味本位で作ってたやつなの。」
「自作なされたんですか。すごいですね。」
「うん。だから、ジャック君が必要なら貰ってもらえると嬉しいな。」
にこっと笑うローザ王女。待って、めっちゃ可愛い。
というか、興味本位で魔道具一個作っちゃうって、すごくね?天才じゃないですか。
「えと、ではお言葉に甘えて。頂いてもよろしいですか?」
「うん! すぐ持ってくるから、ちょっと待っててね。」
嬉しそうに書斎を飛び出して行ってしまった。
あ、廊下を走ると怒られるんじゃ、大丈夫かな?
しばらく待っていると、ローザ王女が戻ってきた。
ただし、付き添いの人と一緒に。
「ジャックは、魔道具に興味があったんだね。」
にこにことジェイド王子がつぶやく。
あの、何でそんなに笑顔なんですかね?
「ジャックは攻撃と防御どっちが欲しい?」
「え?」
はい? 攻撃と防御って、え? どういうこと?
ローザ王女も苦笑いをしてる。
「えっと、防御、ですかね?」
「やった! じゃあコレあげるね!」
ずいっと差し出されたのは葉を模したブローチ。
五つの葉が円を作っているシンプルなものだ。
「ジェイド王子殿下、こちらは?」
「防御の魔法を組み込んであるんだ。僕の戦い方が見てて怖いからって師匠がくれたんだけど、今はもう必要ないから。街に行くんだしお守りに。」
「ありがとうございます。あの、ジェイド王子殿下、このブローチ、母様に譲ってもよろしいでしょうか?」
「? うん。良いよ。」
ニパっと笑って許してくれた。
良かった、これで少し安心できる。
「ジャック君、これがさっき話した魔道具。」
ローザ王女が差し出したのは、ポーラータイ。
黒い水晶のようなものが嵌まっている。
「使う時は『記す』と言えば自動で動くから。」
「はい。ありがとうございます。」
「街に行ったら、裏道や人の少ない所には行かないようにね。」
「父上でも絡まれたことがあったんだって。」
国王様に絡むって、自滅するじゃん。
「はい。」
素直に頷いたら、何故かジト目で見られた。
何かまずかったのかな?
聞こうとしたが、そろっと扉が開けられた。
「あ、ジャック。カシューさんが話があるって。」
「わかりました。ジェイド王子殿下、ローザ王女殿下、失礼します。」
二人に一礼してから、ウィルのもとへ行く。
カシューさんって確か第三騎士団の人だよね。
部屋に入ると、カシューさんと初めて会う人がいた。
母様はお茶を出していて、二人は座っている。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。」
「いえ、突然来てしまったのはこちらですから。」
ウィルが椅子に座り、おれと母様はウィルの斜め後ろに待機だ。
「話というのは、彼のことです。フラン。」
「は、初めまして。自分、フラン・レオニルって言います。あ、あの、自分はまだ新人なんです。訓練生だったときに、ウィード分隊長に助けてもらいました。」
っと、父様の関係者か。
母様の様子を見てみたが、落ち着いているようだ。
大丈夫、てことでいいかな?
「そ、それで、今回ウィリアム王子殿下の護衛ではあるんですが、そ、その、ご子息殿を優先させていただいても、良いでしょうか?」
おいおいおい、それは口にしちゃダメなやつじゃ。
てか、ご子息っておれのことか?!
「なるほど、そういった事情があるのでしたら構いませんよ。ジャック、話をしておかないか?」
おれに話を振りますか。
断りたいのが本音なんだけど、フランさんめっちゃこっち見てるんだよね。そんなに見るなって、穴あきそう。
「では、少し質問をよろしいでしょうか?」
「は、はい!」
「あの日、父様が連れ去られた日、何が起きたのか教えては頂けませんか?」
「はい。あ。」
フランさんが母様の方を見て言葉に詰まった。
母様を見る。少しだけ顔色が悪いな。
「母様、配慮に欠けました。少し休んできてください。」
「エミリアさん、おれと少し話をしましょう。こちらに。」
ウィルが母様を連れて部屋を移る。
やらかしたな、もう少し慎重に話をするべきだったか。
一緒にカシューさんも移動したから、おれとフランさんだけで、マンツーマンだ。
「え、えっと。」
「すみません。話をお願いします。」
「あの日、自分達は二分隊の先輩方から訓練を受けていました。そしたら、いきなり訓練場に魔族が現れて、先輩方が応戦していたんですけど、やけに素早い魔族がいて、おれ達の方に来たんです。それで、ウィード分隊長が前に出て、その魔族に飲み込まれました。」
「飲み込まれた?」
「はい。その魔族、ぶよぶよした黒いボールみたいな形で、口みたいに二つに裂けて、地面ごと丸のみしていったんです。他にも何人か飲み込まれて、腕だけ持っていかれた奴もいました。」
一個だけ、不謹慎かもしんないけど、言わせてな?
その魔族は、グラトニーかなんかですか?
いたよね? 錬金術師をメインにした漫画のキャラにそんなやつ。
「すいません! おれ、あの時逃げるばっかっで、何もできなかった。」
「謝らないでください。貴方が悪いわけではないでしょう? 父様は、どんな姿でしたか?」
「っ、飲み込まれるまで魔族を討とうと、剣を捨てず、一歩も逃げませんでした。」
うん、格好良い父様だ。
あの人の血を受け継いでるだけで、誇らしいよ。
「そうでしたか。ありがとう。一つだけ、お願いをしても?」
「え? あ、はい。」
「何かあったとき、最優先に守るのは母様かウィリアム王子殿下にしてください。僕はこう見えて強いんです。」
「・・・はい。この身をかけて、お母様を守らせていただきます。」
そして、それぞれの時間が過ぎ、街へ行く日となる。
次話は三日以内に投稿させていただきます!




