表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぷれしす  作者: みずきなな
十月
81/173

081 一度ある事は二度ある?

 今の俺に出来る事。

 それは元気の無い野木を……いや、輝星花きらりを慰める事だ。

 こいつがこんなに意気消沈している姿なんて見たくない。

 俺は、俺の出来る最大限の事をいまここでこいつにやってやる!

 こいつは俺を北海道まで連れていってくれたし、いつもなんだかんだと俺の事を考えてくれている。こいつは……なんだかんだと良い奴なんだ。よし!


 俺はコンクリートから立ちあがった。そして輝星花きらりの前に立つと、輝星花きらりに向かってひとさし指を指す。


「俺は輝星花きらりっていう名前は嫌いじゃない!」


 俺が言い切ると、輝星花きらりの頬が赤くなってゆくのがわかった。

 しかし、相変わらず呆気にとられて俺を見ている。


「俺はお前が男の口調だろうが、別にお前がおかしいなんて思わない! 今の時代は男口調の女子だっていっぱいいるんだ! だからその姿でその口調でも俺はぜんぜんOKだ!」


 ゆっくりと右手で自分の口を覆う輝星花きらり

 視線が自然と下がり、すごく恥ずかしそうに俯いてしまった。

 しかし、これで終わりじゃない! こいつに自分の名前を嫌って欲しくないからな!


「俺はお前が女の時には輝星花きらりって呼ぶ! お前が駄目だと言っても輝星花きらりって呼ぶ! だから……えっと……と、とにかく自分の名前を嫌いになるなよ! 育った境遇はもうどうしようもないかもだけど、名前は女の子らしいじゃないかよ! お前の両親だって、名前まで男にしなかったんだろ? だから……その……」


 やばい、何を言っていいのかわからなくなった。

 話しているうちに脳内が混乱して、駄目だ……俺って駄目な奴だぁぁぁ!


「す、すまん……以上だ」


 俺は思わず謝って両手で顔を覆ってしまった。ここまでやっておいて、ぶっちゃけむっちゃ恥ずかしくなっている。

 もう心臓バクバクだし、顔は熱いし、手はべっとりだし、最低だぁぁ!

 だが、次の瞬間、俺の耳には輝星花きらりのクスクスと笑う声が聞こえた。

 俺は思わず両手をどけて目の前の輝星花きらりを見てしまう。

 すると、輝星花きらりが笑っていた。本当に笑っていた!


「優しいんだね……ありがとう、悟君」


 俺は輝星花きらりにそう言われた瞬間、またしても心臓がドキッと跳ね上がった。

 やばい、すっげードキドキしする。輝星花きらりの顔がまともに見られない……。って……これって……マジで俺は輝星花きらりを意識しちゃってんのか?


「悟君、なんで顔を赤らめているんだい? まさか僕に惚れちゃったかないよね?」


 輝星花きらりは俺の気持ちなんか察する気配もなく、微笑ながらそう言った。


「ば、馬鹿言うな! 何で俺がの……(じゃない)き、輝星花きらりなんかに惚れなきゃ……お俺は茜ちゃんが一番なんだよ!」


 思わず茜ちゃんの名前を出してしまった。何やってんだ俺? もっと冷静になれよ……。

 言い終えてから冷静になる俺。駄目すぎだろ。


「冗談だよ。冗談に決まってるじゃないか。君が越谷君を好きなのは知っている。それに……僕は君に惚れられても困るんだ」

「何だよそれ、俺じゃ輝星花きらりには役不足な相手だっていうのか?」


 そのまま流せばいいものを、ついつい口を出してしまった。俺もまだまだ子供だ。


「そ、そういう事じゃない! 僕は君がいいのならいつでも受け……じゃないだろ! 受け入れない! アウトだよ!」


 自分で自分に突っ込みを入れる輝星花きらり輝星花きらりにしては珍しく動揺している姿があった。

 顔を真っ赤にして、胸に手を当てて何度も深呼吸をしている。

 どうやら、なんとか落ち着こうとしているみたいだ。

 しかし、まさかこいつとこんな馬鹿なやりとりをする日がくるなんて、思ってもなかった。


輝星花きらり、もうやめよう。もうこれ以上この話題に触れるのはやめておこう」

「ああ、そうだな。これ以上はお互いの精神力を削るだけで良い事がなさそうだ」


 珍しく輝星花きらりと意見が一致した。

 そして、クスクスと輝星花きらりが笑う。俺も思わず笑ってしまった。


「やっぱり、悟君は楽しいよ」


 輝星花きらりは笑いながらコンクリートから立ち上がった。

 そして俺の横を通り過ぎると、屋上の真ん中に進んで行った。そして、両手を広げて空を見上げながらくるくると回りだす。


「おい? 何をやってるんだ?」

「別にぃ……深い意味はないよぉ? こういうのを一度やってみたかったんだよねぇ……こうやって女の子の格好で、スカートを穿いて回りながら空を見るのってさ、普段は出来ないだろ?」


 女の姿でもその動作は十分おかしいだろ……。なんて言えないな。それが楽しいのならやらせておけばいい。きっと飽きればやめるだろうし。

 そのままずっとくるくる回る輝星花きらり。そんな輝星花きらりを見ていると、だんだんとふらついてくるのが解った。

 まさか……こいつ。


「おい! もしかして目が回ってないか!?」

「あはっ……くらくらする……よ」

「ちょ!? ストップ! ストップ!」


 俺が静止すると、輝星花きらりは回るのをやめた。

 しかし目が回ったらしく、ふらついて倒れそうになっている。


 馬鹿だろこいつ! なにを目まわしてんだよ!


「悟君…・・きもち悪くなったよ……」

「あほか!」

「あはは……まったくもってあほだね……」


 そう言って前へと歩き出そうとした輝星花きらりだったが、足をもつらせて前のめりに倒れそうになる。


「危ないっ!」


 俺は咄嗟に輝星花きらりの前まで走ると、体を支えようと腕を伸ばす。

 しかし輝星花きらりは俺が来るとは思っていなかったようで、ちょうど両手を前に突き出した時に、その間に俺がすっぽりと嵌ってしまった。

 そして、輝星花きらりはそのまま俺に抱き付くような格好で多い被さった。お陰で、なんとか倒れずに済んだけど……。

 俺の左肩の上には輝星花きらりの顔がのっている。そして髪がふわりと俺の顔にあたる。

 輝星花きらりからまた女の子らしいいい匂いがする。そして……俺は今の状況を確認した。


 俺は現状として輝星花きらりに抱き付かれている。と言うよりも、抱き合っている状態になっている。

 そして、密着した胸部に柔らかさを感じるのは……俺の胸のせいじゃないよな?

 これは……輝星花きらりのあれか!? あれなのか!?

 この弾力のある大きめの膨らんだ二つの物体。

 まさか、これが輝星花きらりのOPPAO!? OPPAOじゃない! OPPAI!?


「ちょ、ちょっと! 輝星花きらり離れろ!」


 俺は輝星花きらりの両肩を持つと、力任せに引き離した。


「ご、ごめん、悟君……」


 輝星花きらりも慌てて俺から離れる。


「あ、あやまんなくっていい!」


 というか柔らかかったじゃないか!


「危ない、危ない、こんな所を絵理沙にでも見られたら、僕は殺されちゃうよ」

「いや、それ以前に男と女が屋上で抱き合うとか……駄目だろ?」

「えっ? 今の僕は女だし、今の君だって女じゃないか?」


 それはそうだ。そうだけど!


「中身は男なんだよ! 察してくれよその位は!」


 野木は苦笑しながら「そうだったね」と言うと一歩前に出た。が……。


「あれ?」


 またふらついた。

 またしても俺は輝星花きらりを正面から抱き支えてしまう。


「お前、英才教育を受けたんだよな? 何で2回もふらついてるんだよ?」

「め、面目ない……まだ目が回ってたみたいだよ」

「自分の事くらいわかんねーのかよ?」

「いやはや、本当に申し訳ない……しかし、来ないとは思うけど、絵理沙がここに来て、こんな場面を見たら、僕は間違いなく殺されんだろうね。だから早く離れようか」

「まったく、それなら余計に……って……おい……野木……」

「ん? どうしたんだい?」


 俺は思わず絵理沙を野木と呼んだ。そう、それには理由があった。

 では、ありえないと思うだろうが、俺の視界に入っている人物の特徴を言っておこう。

 俺の視界にはある女性が写っていたんだ。

 髪は長く、とても綺麗だった。瞳は茶色で外人かと思うくらいだ。

 そして、その女性は容姿端麗でこの学園では目立つ存在だった。

 そう…………俺の視界に写っていたのは……。


「絵理沙!?」


 絵理沙だった。


「さっきからさぁ……二度も抱き合ってさぁ……何しちゃってんの? ねぇ……」


 その声を聞いて輝星花きらりが固まった。

 魔法力が無いせいなのか、輝星花きらりもまったく絵理沙の気配に気が付かなかったみたいだ。顔が真っ青になったまま俺に抱き付いている。しかし……。


「なんでお前がそこにいるんだよ!」


 そう、絵理沙はなんと塔屋の上にいたのだ。

 さっき屋上から飛び降りてグラウンドを歩いていたはずの絵理沙。

 しかし、今、現実に絵理沙は塔屋の上にいる。


「私がどこに居ようが勝手でしょ?」


 確かにそうだ。それはそうだが……。


「お、お前は忍者か!」

「……魔法使いよ」


 そう言って、絵理沙は塔屋から一気に俺たちの横に飛び降りたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ