第37話 プールパニック
学校のプールの印象が強すぎたせいで、私は勘違いをしていた。
さすがつぐみちゃんがお勧めするだけあって、目の前にあるプールは、学校のプールとはまったく違うものだった。
「これがプールなんだ」
目の前の光景を見て、私はとにかく目を輝かせている。
そんな私たちのところに、男子も合流してくる。
「おやぁ、月乃ちゃんっていったっけか。ずいぶん可愛い水着を着てるじゃんか」
「思ったよりも胸もあるし、こうキュッとしたくび……おぶぁっ!」
合流してきた男子たちに、つぐみちゃんたちの鉄拳が飛ぶ。
「まったく、これだから男子は……」
「どこ見てんのよ。セクハラ大魔神が」
拳を強く握りしめたまま、つぐみちゃんたちはどういうわけか震えている。
いやまぁ、一体どういう状況なんだろう。あまりに唐突過ぎて、私は状況が理解できなかった。
「やっぱり、男子を誘ったのは人選ミスだわ」
「だねぇ。あーしたちだけで楽しみましょう」
体をけいれんさせて倒れている男子たちをしり目に、つぐみちゃんたちは私を連れて移動しようとしている。
すぐに復活した男子たちは、私たちを追いかけてくる。
「悪い。そういうことはもうしないから、置いて行かないでくれ」
「俺たちが悪かった。この通り謝るから!」
男子たちはかなり反省しているようだけど、つぐみちゃんたちは全く耳を貸さないようだった。
だけど、私はこういう状況はよくないと思うので、つぐみちゃんに声をかける。
「わ、私なら大丈夫だから、みんなで仲良く遊ぼうよ」
必死に訴えると、つぐみちゃんはようやく止まってくれた。
止まったかと思うと、男子たちに向けて声をかけている。
「月乃の優しさに感謝しなさいよ。次やったら、絶交だからね」
「うげぇっ……。分かった、分かったよ。絶対もうしねぇから」
男子二人はきつく言われて、私たちに対して何度も謝っていた。
こうしてどうにか私たちは一緒に行動するようになった。
「月乃、ここなんてどうかしら」
「えっ、どこどこ?」
学校での様子から、私がプール初心者だとつぐみちゃんは感じ取っていたらしい。
私に対して声をかけて連れていったその場所は、波が出るプールとかいう場所だった。なんでも、人工的に波を起こしているんだとか。それはまるで、海にいる気分を味わえるプールなんだって。
「うわぁ、なんか不思議な感じ」
波の上下によって、私はなんとも不思議な感覚に陥っている。
でも、こんな風に漂っていたら、なんか気持ち悪くなってしまいそうな気がする。
実際、10数分くらい漂っていたら、だんだんと気持ち悪くなってきた。最初こそ楽しい気持ちでいたけれど、波で漂うということに慣れていなかったがために、完全に参ってしまっていた。
「わわっ、動かないでずっと漂ってるからだよ」
私はつぐみちゃんに怒られてしまった。
確かに、私は波によってただ漂い続けただけだった。そのゆったりとした動きに、私の感覚がついていけなかったみたい。
「うう……。次から気を付けるぅ……」
私はプールから上がって、近くのベンチの上でごろりと横になっている。しかも、私の頭の下には、つぐみちゃんの太ももがある。
なんだろう、これって甘やかされちゃってるのかな。
あと、周囲からの人たちからの視線がちらちらと気になる。これってどういう状況なんだろうかな。
今の私には、どうにも理解ができない状況らしい。
とにかく、私の状態が落ち着くまでの間、つぐみちゃんはこの体勢のままじっとしていてくれた。
「あ、ありがとう、つぐみちゃん」
ようやく私の状態がよくなったので、ゆっくりと起き上がってお礼を言っておく。
「これくらいどうってことはないわよ」
つぐみちゃんはにっこりと微笑んでいる。
それにしても、本当にさっきからじろじろと見られていた気がする。
だから、私はつぐみちゃんに聞いてみることにした。
「周りの視線、気にならなかった?」
「あー……。気になったけれど、それよりも友だちの方を優先だよ。私が誘ったせいでよろしくなくなったんだし、回復するまで付き合うものでしょ」
「あ、うん。あ、ありがとう」
私は熊だというのに、なんともいえないくらいに恥ずかしい気分だった。
でも、なんだろうかな。そんなに悪い気分でもなかった気がするのよね。
と、ともかく私は回復したんだから、他のみんなと合流しよう。つぐみちゃんにそう提案する。
私の慌てた様子を見て、つぐみちゃんはくすくすとおかしそうに笑っている。
「うん、そうだね。多分ウォータースライダーにいるだろうから、私たちも向かいましょう」
「うん、そうしよう」
つぐみちゃんは友だちとの間で約束していた、ウォータースライダーというものに行くことにしたらしい。
だけど、その出発地点を見て、私は思わず青ざめてしまう。
(た、高い……)
そう、スタート地点は思ったよりも地面からかなり上がった場所にあった。
あんな高さに上がるのなんて初めてだからか、私は思わずしり込みしてしまう。
「大丈夫、私も一緒にいるから。とにかくいきましょう」
「うん……」
結局、今回もつぐみちゃんに追われるがままに、私はウォータースライダーの出発地点へと向かうことになった。
ううっ、私は無事に地上に戻れるのかなぁ。
不安に感じながらも、その出発地点に私は立ってしまったのだった。




