第1話 陰キャの衝撃高校デビュー
彼女いない歴=年齢。
まあよくあることだ。
俺だってそうだ。
俺は容姿はそんなに悪くないと思っている。だけど、小さい頃からどこか引っ込み思案で、他人の中へと入っていけなかった。しかも、どことなく素直になれないこともあって、これまでぼっちで過ごしてきた。
高校生になったら変わろうと思ったのだが、それもあえなく轟沈。
隣町の高校に行ったくらいじゃ、知り合いの魔の手から逃れられることはなかった。
陽キャを装うも、秒で暴露され、あっという間に俺は孤立していた。やめてくれよ。
入学式の直後から、俺はすっかり今まで通りのぼっち生活が確定した。
もう高校デビューは諦めて帰ろう。
俺はカバンを持って、教室を出ようとする。その時だった。
「あーっ! 君がそうなのね」
突然、俺の目の前に一人の女子生徒が指を差しながら現れた。
その女子生徒は丸い目をしていて、頭にはなんかお団子が見える。
こいつ、俺とは対極の陽キャか? そうだな、陽キャだな。
それにしても、やたらと俺を見てくるこいつはなんなんだ。さすがの俺でも引くぞ。
周りの連中も、あまりにも唐突なことで俺たちをじろじろと見ている。いや、これは恥ず過ぎんだろ。
そうかと思えば、変な女子生徒は手を腰に当てて、満面の笑みを浮かべてやがる。まったく行動が読めねえ。どういうことなんだ。
「うん、やっぱり君だ」
再び突然声を出すものだから、俺はびっくりしてしまう。
「ひ、人違いじゃねえのかよ。俺は、お前なんか……知らないからな」
くそっ、元々の性格のこともあるが、挙動不審の女のせいでなんかうまく話せねえ。とにかく、構ってられない。俺はとっととこの場からおさらばしたかった。
「あっ、待ってよ」
さっさと逃げ去ろうとする俺の手を、その怪しい女が握ってくる。
いでぇっ!
俺は顔が歪むぐらいの痛みを感じた。そう、激痛だよ、激痛。骨、折れてんじゃねえのかってくらいの、激痛だった。
あまりの痛みに女の方を見ようとすると、ものすごく青ざめた顔をしている。なんだ、わざとじゃねえのか?
「あ、ああ、ご、ごめんなさい! 私ってば、力加減を間違えちゃって。……よかった、折れてない」
そっと触れた俺の手を見ながら、女はほっとした表情を浮かべている。触っただけで分かるのかよ、なんか怖いな……。
「あの、えっと、浅葱鴨太くんだよね。私は、輪熊月乃っていいます」
そうかと思えば、女子生徒は俺の名前を確認しながら、自分の名前を名乗ってくる。なんか名前がどこぞの狂暴生物のように聞こえるんだが、気のせいかな。
てか、なんで俺の名前を知っているんだ。なんか怖くて、俺は後退りをしてしまう。
「ああ、逃げないでっ!」
輪熊と名乗った女は、俺の手をしっかりと握ってくる。今度は、痛くない。
ってそうじゃねえ! お、俺が女に手を握られるって、うわぁぁっ!
初めての体験に、俺はものすごく頭が混乱している。い、一体どうすりゃいいんだ。
そんな中で周りの視線を感じた俺は、諦めて輪熊の方へと顔を向ける。俺と視線が合うと、輪熊は笑顔を見せている。
なんだ、こいつ、よく見たら可愛いじゃねえか。
って、そうじゃねぇっ!
なんで俺が女に手を握られて、じっと見つめられなきゃいけないんだ。くそっ、しずまれ心臓!
「ずっと探しておりました。昔、助けてもらったご恩がありますゆえ、とてもお慕いしております。あの、私と付き合っていただけませんか?」
俺の顔を見たまま、輪熊はなんかとんでもないことを言ってきた。
付き合う? は? 付き合うっ!?
いや、どういうことなんだ。助けてもらったとか言っているが、俺にはそういう覚えはない。いつもぼっちだから、そんなことをしたとしても、せいぜい動物くらいだ。ないない、絶対にありえない。
だが、このままでは俺は周りからの視線を独占したままになってしまう。これは陰キャにはきつい。
「悪いけど、どこの誰か分からないやつとは付き合えない。俺は君を知らないし、人違いじゃなんかじゃないかな。じゃあな」
俺はなんとかすべてを言い切った。噛まずに言えたのはかっこよかったと思うぜ。
だけど、俺はさすがにクールに去ることはできなかった。
思わず途中でトイレに駆け込んでしまう。
(お、俺が……告白されただと?! な、何かの間違いだろう。きっと、あの女の一時的な気の迷いだ。そんなわけがない、うん)
俺はそのまましばらくトイレの中で過ごしていた。とても気持ちが落ち着かない。
告白耐性のない俺にとって、さすがにあれはダメージが大きすぎた。なんか吐きそうになってきたし、しばらく立ち直れないな。
結局、一時間くらいをずっとトイレの中で過ごし、辺りをきょろきょろと見回しながら高校の初日を終えたのだった。
こうして、高校デビューを秒で阻止された俺だったが、それもまた秒で覆されてしまった。
この日のできごとが、俺が想像もしていなかった変化の日々をもたらすことになるとは、この時点で想像することもできなかった。




