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第百七話『3.突破』

 従業員の休憩所のような場所に入ると、黒を基調とした部屋にいかにも高そうなソファーやテーブルがあったり、スナック菓子の自販機やらビリヤード台やらが置いてあったりして随分とガッツリ休憩するつもりらしいことが伺える。


「スナックなにか買おうかな〜」

「まあ、記念にいいと思うけど」


 なひゆはさっそく、自販機に硬貨を入れて陳列するスナック菓子をじっくりと物色し始めました。

 仕方が無いので、僕と梟さんで部屋に何かないかと探してみることにします。


「それにしても、スタッフのひとりも居ませんね、休憩時間ではないのでしょうか?」

「ん、そうかも」


 部屋は広い、大勢のスタッフがここで休憩をとるのでしょうか。雰囲気だけでいえばVIPルームのようなものを感じます。

 まあ、VIPルームなんて利用したことはありませんが。


「それにしても、綺麗すぎますね、本当は使われていないから、とかなのか、それとも使い方が丁寧なのでしょうか」


 暑い扉を挟んだ向こうからは、客の喧騒が盛れた音が篭って聞こえるばかり。この部屋自体はとても静かなものでした、不気味な程に。


「もしかすると、この本棚の本の中に、隠し通路への鍵があったりするかもしれませんね」


 本棚の本を手に取って内容を確認しているらしい梟さんの行動は、的を得ているものなのかもしれないのです。

 というのも、秘密の通路や隠し部屋というのはこれまでの経験上からしても有り得る話なのです。


「ごめん、本が気になっただけ」

「ああ、なら拝借してもいいんじゃないですか」


 梟さんは一瞬こちらに目をやりましたが、また手元の本に視線を戻してこれ以上話をする気はないと言った様子になりました。


 本当のところを言うとちゃんと部屋の捜査に協力してもらいたい所ではありますが、仕方がありません。

 次はどこを調査するべきかと思考をめぐらせていると、なひゆがこちらに向かって手を振るのがみえました。


「ふたりとも〜」


 なひゆは片手でぬいぐるみを抱えながら、自販機を指さしているようなのですが。

 そちらに近づくと、自販機に隠れていた状況が目に入りました。


「なんか開いちゃったんだけど〜」


 自販機がどうやら横にスライドでもしたらしく、元自販機があった場所の壁には地下へと続く通路が姿を現していました。


「えっと、どうやって?」

「セロリパセリのミント味チップっていうのを食べようとしたんだけど、ボタンを押しても出てこないから連打したんだ〜」


 確かに自販機の誰も目につかないような、高い位置の隅にセロリパセリのミント味チップという微塵も惹かれない袋が並べられていました。


 せいぜいこれを買うのは、学生の悪ノリで友達に食べさせる時か、動画の配信者がリアクションをとるためにレビューする時くらいでしょう。


「なるほど、誰も頼まないような味に隠し扉のスイッチを隠していたのか……というか、なひゆは本当に食べたかったわけ?」

「んや、このぬいぐるみが〜」

「なんだ、悪いかよ」


 このぬいぐるみは喋るだけでなくスナック菓子まで食べるのかと、驚きというかむしろ関心してしまいました。

 何はともあれ、喋るぬいぐるみの壊滅的なセンスにより道が切り開かれたのは幸運です。


「梟さん、行きましょう」

「ん」


 呼びかけると梟さんは本を閉じて、律儀に棚に戻すと駆け寄ってきました。僕はふたりに先に地下に続く通路へ入ってもらって、その後に続きました。


 地下への滑らかな坂を降りていくと、壁や床は金属で舗装されたものへと様変わりしていきました。

 例えるなら、エイリアン系映画の宇宙船の中のような感じがしてなんだか不気味です。


 カートを押すのに少し疲れ始めた頃、ようやく少し開けた場所がありました。

 その場所には、さらに奥に続く通路への道と受付のような場所に女性が1人座っていました。

 奥に続く通路の少し先には、さらに開けた大広場があるようで科学者のような格好をした人たちなどが行き交っているのが確認できます。


「……あの?」

「あーえっと、清掃をしに……?」


 僕たちの格好を見て、少なくともカジノの従業員だとは思ってくれてはいるのでしょうか。

 だけども、場違いなものを見たように驚きと訝しみが混じっている顔をして明らかにこちらを怪しんでいるようです。


 何かそれっぽい返しをしてみたのだけども、ここはまだ迷子になったとでも言った方が良かったかもしれません。


「さ、左様ですか……」


 職員の片手が、カウンターテーブルの下の方へと忍ばせるのを見逃しはしませんでした。

 これはまずいと、念の為に携帯していた拳銃を仕方なく取り出します。


「手を机の上に置いてください、机の下、通報のボタンですね」


 監視カメラからの視点はなひゆが、僕が突きつけている拳銃を上手く隠してくれています。

 僕もなひゆの体にうまく隠れるように、拳銃を持っていますが、このまま発砲するのは難しいのでおとなしく通してくれるととても助かるのですが。


「何も見なかったことにしてくれればいいんです、わかりますね?」

「……」


 職員は手を机の上に出して、怯えたように、もしくは慎重にこちらを観察しているようでした。

 そして問題は、僕たちが去った後に通報せずにこの職員は大人しく黙秘を続けるか否かです。


 まあ、通報するのは目に見えています。

 それなら、この職員を同行させて中を歩く口実を適当に繕ってもらうのが安定の択かもしれません。


「…………っ!」


 そんなことを考えていた時、職員が不意に机の上の大きなボタンを、力強く叩いた。すぐに職員の頭を撃ち抜いたけれど遅かったらしく赤いランプとけたたましいアラーム音が地下に響きわたります。

 まさか、通報のスイッチを2個も用意しているとは思いませんでした。


「変装の意味はあまりなかったみたいですね、残念」

「え、殺しちゃったの〜?」


 なひゆが驚きを隠せない様子で問いかけてきますが、今回の任務の内容をきっと正確に把握していないのでしょう。

 いつもの事ではありますが、それよりも人が目の前で死ぬことにまだ慣れていないのでしょうか。


 そんなことはないはずですけども。


「今回の任務は殺傷の許可が出てるから、それだけ危険な任務ってことだから」


 説明しながら、監視カメラを拳銃で撃ち抜いておいて一瞬どうするべきか思案してすぐに僕は答えを出しました。


「梟さん、強行しますよ、お願いします」

「わかった」


 押しているカートから梟さんはライフルを、僕は刀をとそれぞれ臨戦態勢に入り続く道の奥へと鳴り響く警告音の中あゆみ始めるのでした。

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