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第百六話『2.潜入』

「足もと、気をつけてくださいね、滑るかもしれませんので」

「ありがとう」


 車から降り梟さんに黒い傘を差し出して、建物の入口まで歩いてきました。雨は止む気配はなくて、振り続けています。


 冬の雨というだけあって、濡れると感覚が無くなるほどに冷たく傘を持つのが辛くなってきます。


「梟さん、いいですか?とにかく目立たないように行きましょうね」

「分かってる、目立つの得意じゃないし」


 武器の持ち込みは自衛のため許可されてはいますが、背中に大きなライフルを背負っているのはかなり目立つような気もします。


 というのも、梟さんが背負っているのは対物ライフルといって約全長140センチほどもある、梟さんの身長とほぼ同じ大きさのものを背負って歩いているんですね。


 重さも10キログラムかそれ以上あるはずなのですが、平然と背負っているところを見ると、さすが獣人という感じがします。

 

「あ、来た来た〜」


 歩いていると聞いたことのある声に呼び止められました、車を返さない奴の声ですね。

 呼び止められた方を見たのですが、正直、見たことを後悔しました。


「何してんの……」

「ん〜、ちょっとスロットがね〜」

「いやそういう話じゃないんだけど」


 一番最初にいた警備員のようなガタイのいい男4人が担ぎ上げている玉座に、星型のサングラスを掛けて首に長いファーを掛けた大馬鹿者が頭に王冠を乗せて現れました。なひゆです。


 逆にどうやったらこんな事になるのか分からないです、スロットで稼いだお金を使ってわざわざそこら辺にいた人を雇ってこんなことをさせているのでしょうか。馬鹿ですね。


「……」

「ほら見てよ、梟さんも絶句してるよ」

「あ、梟ちゃんこの前ぶり〜」

「すみませんね、うちの馬鹿が」


 とりあえず4人の男の人たちには解散してもらって、お互いに調査の算段を確認することにしました。


「地図通り進んで正面突破だね〜」

「スタッフルームを仲介しないと本懐ほんかいに潜り込めないので、3人分のスタッフに眠っていただく感じで」


 幸いにも、スタッフは男女共通の制服を着用しています。

 サイズが合いそうなスタッフを選んで誘い込み、しばらく眠っていただいて制服を使用させてもらうことにしましょう。

 チップはもちろん弾んでおきますとも。

 そして話がまとまれば、あとは行動に移すだけです。


「あ、ちょっとそこの」

「はい、どうしましたか」


 手始めにと、目をつけたかなり小柄なスタッフに声をかけます。

 視線を梟さんとなひゆの方へと向けると、僅かに頷いているのが見えました。


「さっきそっちの方のトイレで、その、分かるでしょう?男女がこう、粗相してたので注意しておいて貰えますか?気まずくて尿意が消え失せましたよ、まったく」


「なっ、はい、不快な思いをさせてしまい申し訳ありません、すぐに対応に向かいますので」


「なら早めに行った方がいいですよ、トイレに行く前に男の方が先にいくのが早いかもしれませんからね」


 その助言を聞いてトイレの方へと駆けていくスタッフを見送くり、僕はまた体格の合うスタッフを見定め始めます。

 あとは2人が何とかしてくれることでしょうから。



      〇



「はぁい、おやすみぃ〜」


 ハイハドくんの狙った子がぬけぬけと入ってきたから、後ろから首元に手を回して睡魔のポーションを嗅がせて眠らせる。


「……はあ」


 男子トイレに入ってから、そわそわしてしきりにため息が止まらない梟ちゃんを生暖かく見守りながら。


 服を剥ぎ取って、スタッフ本人はすやすやトイレの個室で眠っていてもらう。

 寝ていても給料が貰えるなら、実質有給のようなものなのだからきっと喜んでくれるはずだね。


「ほらほら〜、人が来ちゃう前にこの人、小柄だし梟ちゃんが着てね〜」

「うん」



      〇



 順調にことが進みまして、僕もなひゆも梟さんも、完璧にスタッフに偽装できました。

 それにスタッフの中にお客様の忘れ物などを集めている方がいたので、そちらのカートを利用させてもらうことにしました。


 梟さんの銃も僕たちの武器も、全てこの中に紛れ込ませています。


「このカートとんでもなく重いですね……」

「がんばれ〜」


 なひゆはどこから出てきたのやら、変なぬいぐるみを抱きかかえたままカートと並んで歩いています。


「そういえば梟さんが見当たらないな」

「離れて行動してるんでしょ〜、固まって動いたら怪しいしね〜」


 梟さんにもしかしたらこのカートを譲り渡せるかと思ったのですが、どうやらそう美味しい話はないみたいですね。

 ですがこのカートの重みは、梟さんの愛用のバカデカなライフルのせいなんじゃないかと思ってしまいます。


「……なに」

「おわっと、いえ、梟さんが見当たらなかったので一応確認していただけですよ」

「そう」


 いつの間にか背後に現れた梟さんに背筋を寒くさせられながら、僕は重たいカートをより一層強く押し進めます。


「ねえねえ、私にもそういう喋り方してよ〜」

「しろって言われるとしたくなくなるんだよね」

「うわあ〜、人間の性だ〜、人間って愚かだね〜」


 人間が愚かだとぬいぐるみに向かって話しかけながら、なひゆはぬいぐるみの手を掴んでぴょいぴょいと振らせています。


「ところでずっと気になってたんだけど、そのぬいぐるみは?」

「あ、これ〜?仕事仲間だよ〜」

「ちっす」


 うわ、ぬいぐるみが喋った。

 と言葉を失う僕をよそに、梟さんは何故かその香ばしい焼けた肉のような匂いのぬいぐるみをなんとも言えない神妙な面持ちで見つめていたのでした。

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