第百五話『1.合流』
車窓の外は雨が降っていた、けれど金色や赤青など色鮮やかに夜に輝く街並みが伝う水滴と曇るガラス越しによく映えた。
僕の名前はハイハド、運転中なのであまり余計なことは考えない方がいいかと思案中の好青年です。
体格は華奢です、目と髪の色は緑寄りの茶色です。
ヴィンテージゴーグルをしていたのですが少し前にちびっ子に取られました。そして今は冬ですが短パンを穿いています。寒いです。
「寒くないですか?暖房つけますよ?」
「……ん」
後ろで車窓にもたれかかって、外を眺めているのは梟さんです。
彼女はほんの少し前までカルト教団の連中を追って、その後に雪国周辺で魔物の群れの動向を見張っていたのだとか。
まさしく勤勉というかなんというか、しっかり者ですね。
現在僕たちはアペトという、中心部に巨大なカジノ街がある国にいます。
まだ僕たちはその片鱗を味わっているわけですが、とてもキラキラしていて眩しいですね。光化学的に。
「それにしても地下に隠し実験場なんて、スパイ映画みたいですよね、なんだかワクワクしてきましたよ」
「……そう」
とてもじゃないですが話が弾まないですね、コンクリートで固めたスーパーボールくらい弾みません。
「ああ、そういえば、なひゆさんは既に現地についてるらしいですよ、荒稼ぎしてるらしいですね」
「……うん」
心が折れそうになってきたところで、街の中心部へ行くための検問所に行き着いた。
手回しで車窓を開けて、ゴツイ警備員にVIP会員証を見せつける。
ちなみに、偽物です。
「よこしな」
「え!あ、2人分です、どうぞ」
てっきりじっくり見るだけなのかと思ったら、それを検問所の中に入って何やら機械に照らし合わせ始めました。
いよいよ、やばいんじゃないかとバックミラー越しに梟さんに視線をやると銃をカチャッとやっていました。
強行突破は、さすがに無理があると思われます。
「おい」
「あ、はい!もしかしたら、その会員証なんか、手違い的なあれが……」
「ん?問題は集ったぞ、さっさっといけ、中は比較的安全だが外は治安が悪いからな」
そう言いながら、その警備員は会員証を手渡してくれました。最初から最後まで無愛想な顔をしていますが意外と優しい人なんじゃないかと思ってきました。
「え、ああ!どうもどうも!お仕事そちらも頑張ってくださいね!いや、そんなにムキムキなら心配ご無用って感じで…」
「はよ行け」
「はい」
プロフェッショナルなるとはああいうことを言うのかも知れません、仕事中は私語はせずあくまで自分の仕事だけを愚直にこなすその姿勢。
いやはや、見習うべきかもしれませんね。
「このあとも何回か検問所を通るんですよ、中心に行くほど治安は良くなるみたいですけど、中心に行くほど悪い取引とか増えるみたいですね」
「ふうん、どうして?」
思いつきで振ってみた話題に、これまた意外にも梟さんが興味を示したようでした。
これ幸いと、このチャンスを逃すまいと、僕が今できるだけの説明をしなければいけませんね。
「奥に入れるのは信用されてる人間だけなんですよ、だから中の情報が漏れにくくて、本来なら色んなところから咎められるようなことも好き放題できるみたいですね、それをわかっていても下手に手出できない状況が続いてるようです」
色んな国の治安を保持する目的の団体の騎士団、警察、FBI、インターポール、ギルド等々が手出しを出来ない状態とはかなり深刻だそうです。
騎士団やギルドは世界の崩壊後に設立された団体ですが、警察、FBIやインターポールなんかは世界崩壊前と比べて規模はかなり収縮したもののまだ機能はしていますから自体の深刻さがうかがえますね。
ちなみに、警察やFBIは国という枠組みから外れたことで様々なところで活動しているようですよ。
「なるほど、ありがとう」
「まあ僕たちはそれには今回の件ではノータッチなんですけどね」
ここまで話しておいてなんですが、実は今回の仕事はこれらを摘発することではありません。
この街、いいえこの国に地下空間の研究所のような施設があるようなのでそれらの調査が今回の目的です。
「お、雨強くなってきた」
「……」
「ラジオでもつけます?」
「好きにして」
なんだか言葉は短いですが、会話を成立するくらいには話してくれるようになってくれたようです。
梟さんとの仕事はこれが初めてではないのですが、もしかすると梟さんは人見知りなのかもしれません。