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第百三話『旅行に行くなら金稼ぎも兼ねて』

 相も変わらず何から何まで高級感の漂うギルドの受付に、高級感の欠けらも無い青年こと僕が受付嬢と話している。


「クエスト、完了してきました」

「はい、お疲れ様です、こちら討伐分の報酬と素材の買取分です」

「どうも」


 クエストが完了した時点で、狼煙を上げて精算は済まされる。ギルドに戻ってくる頃には、こうして直ぐに報酬を受け取れる。

 待たされる時間がないというのは、とてもいいものだ。


「その絵、気に入りましたか」


 それで、僕は待たせていたモルへと話しかけた。

 鬱蒼とした森の中に大きなひとつ目の鷲が佇む絵を、ソファーに寝転がりながらモルは鑑賞していた。


「うん、こんなところ冒険とかしてみたいなー」

「そうですねぇ」


 ソファーで伸びをしながら、モルはぶっきらぼうに言い放った。

 完全にソファーを我が物顔で使い、くつろいでいるモルを注意するべきかと悩みながら。冒険がしたいという純粋な気持ちは肯定しておくことにする。


「そんなおふたりさんに、ちょいといい話が」


 そんなふうに怪しいセリフから会話に割り込んできたのは、いつぞやの元パーティメンバーの男。


 驚く素振りでも見せた方がよかったのかもしれないが、モルも僕もクエストをこなした帰りなので面倒くささの方が勝ったのだった。


「あ、どうも」

「ほれ、このクエスト」


 挨拶に食い気味に、クエスト内容が記された用紙を男は馴れ馴れしく肩を組みながら見せつけてくる。


 チラッと見えたが、やはりまたチラシの裏にクエスト内容が記されているようだ。

 紙の特産地のギルドと喧嘩なんかするから紙不足になるのだ。しかしギルドはどうやら、街同士の派閥争いが激しいらしい。


「これは……」

「Eランクのお前だけじゃあキツイけどな、そこの子が居ればまあなんとかなるさ、なんなら俺も行ってやってもいいぜ!」


 空白地帯の横断、及び生態観察。

 空白地帯とは、地形変動後にできた各地に点在する大きな地図の空白の地域の総称。地図が埋まらない理由は地域によって様々な理由がある。


「ここはアペトって国に繋がってるとこ空白地帯だから、やべえ魔物宝庫って話だな」

「めんどくさそう……」


 珍しくモルが共感のできる、まともなことを言う。ちょうど魔物討伐のクエスト後だからか、ものすごく嫌そうな顔でモルは紙、もといその男を見ていた。


「まあまあ、そういうなよ、かなり遠出になるし何日かかけて横断するそれこそ冒険だぞ、アドベンチャー!」

「……!アドベンチャー!」


 なぜか波長が合ったらしくモルはテンションを上げながら、この男とガッツポーズを取り合った。

 モルと波長が合うなんて、もしかするとこの男、不思議なのかもしれない。


「それはそうと報酬も申し分ないですし、いいかもしれませんね」


 生態系の報告、期間は自由。期間の欄に自由なんて記載されているのはかなり異様なことだ。

 そして、何か空白地帯から特殊な物を持ち帰ればその結果に応じて、報酬も上乗せされるときた。


 特殊なものなんて、普段から嫌なくらい触れているのでこんなもの赤子の手をひねるより簡単だ。

 実際、赤子の手をひねるのは難しい。色々、倫理観とかの問題で。


「だろだろ?」

「モルは行きたいですか」

「行きたい!!なんか、楽しそう!」

「なら、二人で行きましょうか」


 外の世界を見せると約束もしていたわけだし、この機会にちょうどいいかもしれない。

 子供は自然で自由に走り回らせておけばいいのだ、上手い具合にのびのび育つというものだろう。


「あ、俺必要なしね、はい」

「ちょうどいい仕事ありがとうございます」

「いやいや、いいんだよ、ただ言葉通り死ぬほど危険だから気をつけろよな」


 おおかた報酬に目がくらんでこのクエストを受けようとしたものの、誰も着いてきてくれず僕たちに話しかけてきたのだろうが。

 いい話を持ってきてくれた上に、大人しく引き下がってくれるとはやはりいい人らしい。

 いつか、何かを奢ってあげよう。


 肩を落とすその男に、礼を言い軽口をしばらく叩いてから僕たちは帰路に着いた。

 今回のクエストは害獣駆除、僕の本職よりも手頃でそれでいてモルがその有り余る元気さを奮ってくれたおかげで死骸回収の臨時報酬で財布も潤った。


 回収された死骸は、様々な素材となって日常に流通されることだろう。


「休暇ももらいましたし、冒険と兼ねて、アペトで観光でもしますか」

「アペトってどんな所なの?」

「カジノ大国だとか」

「私あれやりたい!玉がぐるぐるって回るやつ!」

「ルーレットですね、まあ考えておきます」


 賭け事で破産するのだけは、勘弁願いたい。どうせやるなら、ロシアンルーレットでもしておけばいい。

 もちろん銃のほうじゃなく、ワサビを使った方のどちらかと言うと安全なやつだ。


「とにかく、帰ったら遠出の準備しましょうか」

「了解!」


 最近、なんだかアペトに縁があるような気がする。

 もしかすると、また何かに巻き込まれる前兆なのかもしれないが。


「夜ご飯全部タバスコ使おうよ志東さん!」

「昨日、激辛選手権テレビで見たからってそれは良くないですよ本当に」


 どうやら、それどころじゃなさそうだった。




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