第1章[裏]・渋々登校……
まだ日も出て僅かばかりたった頃
ここ御神楽家の台所では光夜が手馴れた手つきで4人分の朝食を作っていた
「ふ〜ん、ふふふ〜ん♪」
卵とベーコンを焼きながらそんな風に鼻歌をしている光夜だがその表情は時間が経つにつれてどんどん暗くなってきている
理由は言わずもがな
久々に学校へと行かなくてはならない時間が近づいて来ているからだ
そんな光夜は今まで長い間ずっと一緒にいた雛とたったの数時間とはいえはなればれになることが辛くてたまらない様子であり、雛の学校が始まって3日たった今ですら朝から徐々にしょげていく有様
そしてついに今日からは光夜自身の学校が本格的にはじまってしまうためにおよそ8時間、1日の約3分の1もの時間雛と会うことが出来ない
ちなみに雛の学校はまだ学校に慣れるということがメインのために昼過ぎに終わるのでそのお迎えにも自分では行けない
そんな非情な現実を再認識した光夜は深くため息をつく
(あぁ〜学校なんて行きたくないんじゃ〜、てかあんな学校なんて行っても今更ほとんど意味無いしなぁ。まぁどうせ家に雛は居ないんだし軽い暇つぶしにはなるかな。!……そうか最悪毎日早引きして雛が学校終わる時間に帰ればいいのか?!)
なんて阿呆な事を考えながらも手を動かしている光夜はパパっと朝食を作り終える
今日のメニューはコーンスープにサラダ、そしてスクランブルエッグ&ベーコンにパンといったもの
まだ雛はお子ちゃまなために野菜はほぼ食べないのでサラダは3人分だけだ
そうして出来上がった朝食を食卓の上に光夜が並べていると部屋の扉が開き、この家の住人のうちの2人が部屋へと入ってくる
「2人共おはよ、朝食は出来てるから雛を起こしてきてくれない?」
朝食の準備を続けつつも入ってきた2人にそう告げる光夜
「おっけー、じゃあ今日はオレっちの番だからオレっちが起こしてくるぜ!」
「なら私はコウヤの手伝いでもするわね」
光夜の頼みを即座に聞き入れて役割分担する2人
ちなみに雛を起こしに行くのは基本的にこの2人であり、また1日交互で起こしに行く役割を交代している
何故光夜が起こしに行かないのか?といった問いに答えるのは至極簡単であり光夜が起こしに行くと雛の寝顔に魅入ってしまい第三者の介入又は雛が自力で起きるまで確実に2人して起きて来ることはないからだ(体験談)
ちなみにこの2人も雛を起こしに行く役割を争っており災害的な衝突があった結果として交互に行くということが決められた
なのでたまに雛が1人でに起きてきた場合には起こす担当だった方は泣いてたり
「よろしくなテン、それとミアは別に手伝いはしなくても大丈夫だから顔でも洗ってきな」
光夜がそう言うと2人のうちの片方でテンと呼ばれた活発そうな金髪の男の子元気よく「おkー」と言ってから雛が寝ている部屋へと、ミアと呼ばれた大人しそうな黒髪の女の子は「分かったわ」と一言告げると洗面台のある場所へと向かっていく
ちなみにテンは見た目ハーフっぽいイケメンでミアは深窓の令嬢のような美人、そして言わずもがな3人が溺愛している雛は超絶ウルトラスーパー美少女
ついでに光夜も一見するとたいていの場合気だるそうな雰囲気を纏ってはいるが容姿は優れている方なのでこの4人は周りの住人からも最強容姿一家として認識されていたりする
そして待つこと数分
朝食の準備を終え食卓の席についている光夜とミアのもとに元気一杯の声が聞こえてくる
「パパおはよー!ミアおねえちゃんもおはよー」
その声の主は雛
光夜とミアはこの声を聞くだけで今日1日頑張れる気持ちになる
そんな御神楽家の天使的存在である雛とその後ろを満面の笑みでついてきているテンが食卓についたことを確認する光夜は「頂きます」と礼儀正しく言ってから朝食を食べ始める
そんなも光夜の横では「いただきます!」と雛も光夜と同じ仕草をしてから目の前にある朝食をそれはそれは美味しそうに食べている
なんせ光夜の料理のレベルはそんじょそこらの料理人では歯が立たないレベル
美味しいに決まっている
「相変わらずコウヤの料理は美味しいわね。こんな食事に慣れてしまうと他の人の料理なんてとてもじゃないけど楽しめそうもないわ。まぁもう手遅れかもしれないけどね」
「確かにな、コウは色々と人間やめちまってるから仕方ないさ。まっこんな美味いもん食えるんだからコウ様々だけどねっ」
「2人とも酷い言い様だな。あと食事中は静かに食べろ、雛を見習え」
なんて軽口を言いながら朝食を食べる4人
ちなみに雛は朝ごはんを食べるに夢中になっているために他の3人の話なんてまるで耳に入っていないだけである
そうしているとテンがミアにサラダの中にあった嫌いな野菜を押し付ける
野菜を押し付けられたミアは仕方なくそれを食べようとするが光夜がそれを許すはずもなくミアにアイコンタクトをおくる
するとミアはすぐさま野菜をテンへと返す
「この家で飯を食いたいなら出されたものは食べること、異論反論意見は認めてないから」
返された野菜を睨みつけているテンにそう告げる光夜
光夜は好き嫌いはないがテンとミアはそれぞれ苦手とする食べ物が僅かではあるが存在しているのでこればっかりは少々辛い
ちなみに比較的緩いルールばかりであるこの御神楽家で1番厳しいのがこの食事関係であり光夜が何故こんなにも食事関係だけには厳しいのかといわれたらそれは光夜の過去に関係している
そんな光夜の過去はいずれ語られる……と思う
そしてそんな茶々を挟みながらもまったりとした時間が流れる食卓
これが御神楽家のいつもの朝の風景
早寝早起き・1日3食・常時清潔の観念を持ちそれに従って基本的に行動している光夜達はみながみな健康そのものであり風邪を引くなんて本当に稀
それに全ての愛情を3人へと一心に注いでいる光夜は全員の体調管理に関しては一切の妥協しない
そんな光夜率いる御神楽家は年柄年中元気な一家であるのだった
そして朝食から時間は経ちもうまもなく光夜が学校へと行かなくては行けない時間へとなる
「それじゃあ俺は先に学校に行ってくるから雛のことよろしく頼むぞ。ちゃんと学校に送り届けて帰りも迎えにいってくれ。本当なら全部俺がしたいんだが流石に入学そうそうから問題行動をするわけには行かないからね。いや、まてよ……あの魔法を使えば……」
「「大人しく学校へ行け!!」」
「んにゅ……?」
なんてやり取りを玄関で繰り広げる4人
光夜からすれば本当に、本当に心苦しくてたまらないが今日ばかりは少し早めに学校に行かなくてはならないが故に雛を学校へと連れて行けないことに対して血涙を呑みながらテンとミアに雛のことをよろしく頼む
これが他の人なら間違いなく遅刻してでも自分自ら雛を学校へと連れていこうとするのが光夜だがテンとミアに関しては2人を完全に信用している
「じゃ行くから。雛のこと頼んだぞ」
そう言うと靴を履き外へと出ようとする光夜
そんな光夜に声をかけるテンとミア
「雛とこの家はオレっちに任せとけい。国のひとつやふたつ攻めてこようと守り切ってみせるぜい。だからコウは安心して学校を楽しんできな」
「流石にそれは無理よ…とこのアホざるの戯言はおいといてコウヤ、雛のことは私達に任せてあなたはちゃんと学校生活を楽しんできない。少しぐらいは自分の人生も楽しまないと損するわよ」
2人からそう言われ顔を顰める光夜
光夜自身はこれからはじまる学校生活なんてとてもじゃないが真面目に行ったりするつもりもないし期待もしていない
今は雛のこともあるしまだまだそれどころじゃないから
だがそんな光夜の考えを知っているテンとミアの眼からは言外にこう告げている
『他のことは俺達に任せて少しくらいは自分のことを大切にして人生を楽しめ』と
(まったく世話焼きな2人だな……まぁせっかくだし少しくらいは学校生活とやらを楽しんでみるか)
そんなことを考えながら言葉には出さずに手をひらひらと振ってからドアを開けて外に出ようとする光夜の耳に聞こえてくる声
「いってらっさい、パパ!」
元気の良い愛娘からの声
それに続くようにテンとミアからも「行ってらっしゃい」と声をかけられる
そんな3人に光夜は応える
「行ってきます、3人とも」
そう告げて扉を閉じて学校へと向かう光
光夜の学校生活は今日から本格的にはじまる
どんな未来が待っているかなんて今の光夜には想像することすらもできない
だが悪いことばかりではなく良いことも多くあるだろう
そんな少しばかりの期待を胸に歩み出す光夜
そんな光夜が雛を恋しくなって家に帰ろうかなぁなんて考えだすのは僅か5分後のことである
to be continued→