第1章[表]・チーム作りの理由
片手にチョークを持ち黒板にいつでも何かをかける準備をしてからAクラスの担任である璃沙は説明をはじめていく
「まずこのクラスについて説明しておくぞ。当然知っているだろうがこのクラスは先日行われたクラス分けテストの結果の上位者が集められており、そこに入学試験の結果やその他もろもろの外的要因は一切含まれていない。さらに言えば初日の体力・運動能力測定、あれもほとんど一切関係ない。あんなものこの学校で学んでいけば今の記録がダサくみれる程の記録を出せるようになるからな」
初日のテストはほぼ関係ない
その言葉を聞いた時に予め予想出来ていた者とそうでない者との反応は分かれる
そんな些細な反応にすらも目ざとく意識を向ける璃沙
(全く動じてない者は…数名か。なるほどやはり年を経つごとに少しずつこの学校の情報も外部に漏れつつあるという訳か。それとも単純に今年度の生徒達の質がいいという可能性もあることにはあるかね)
生徒の反応を見て瞬時にそう考える璃沙
この学校の情報、所謂学校で行われている事についての情報はほとんど零といっていいほどに世の中には出回っていない
だが僅かではあるが出回っている情報もある
その中でも特に一般的に知られている情報といえばまず魔精力を用いた戦闘技術が学べるということ
これはそもそもこの学校の存在意義ともなっているために隠しようがない
次にこの学校で行われている行事やイベントの内容の一部
これまたある程度知らせておかないと保護者達が不安を募らせるのでそれに向けた対策として目立つ行動予定は伝えている
そして最後に外部に機密情報が漏れないようにかなりレベルの高い情報規制を強いているといった感じだ
なので今回のクラス分けテストの3日目の儀式内容や先程行われたばかりである、外部に知られていない行事のためのチーム作りのことを知っている人はこの学校の卒業生か在校生、それに加えて日本やソティシアにおける関係者しかいないはずなのだ
もちろんこの学校の生徒達やその保護者にはそれなりに厳しく情報規制をされていたりする
その癖に全寮制にしないあたりザルだったりするがそれでも5年も経っているのに、まだこの学校のほとんどが謎のベールに包まれているあたり何かしら情報を漏らさないための手段があるのだろう
だがその機密情報すらも知っている生徒がいる
それは学校の教職員側からすればどれ程情報が漏れているのか調べておかないといけない項目のひとつ
こんな些細な事までに気を配っていかないといけないこの学校の教職員はかなりブラックかつハードな仕事をこなさねばならない、否これ程までに厳しい仕事でもきちんとこなせる者がこの学校の教職員として選ばているのだろう
ところがどっこいそんな教職員の中でも璃沙はそもそもこんな事、というより教師の仕事自体やる気がなかったりする
(はぁーめんどくさい、さっさと話終わらせて今日は解散にするか。本来なら生徒達をビシバシ鍛えるだけのはずだったんだけどなぁ〜。あの狸爺め、いつか必ず殴ってやる)
内心毒づきながらも軽くと溜息をつきつつも璃沙は話を続ける
「それで次に魔精力のランク。これはクラス分けにおいてかなり重要な位置にある。知ってる者も多いかも知れないがこの学校における魔精力のランクの平均はCランク、それによってAクラスになるためにはランクC以上が絶対条件だ。それほどまでに魔精力のランクは今後の戦闘能力に関わってくる。まぁ早い話がこのクラスにいる時点でお前達は他の新入生よりも無事卒業できる確率が高いってことだ。まぁそれ以上に詳しくはまだ教えないがな」
「ここまでのことで質問もあるだろうが続けて話すぞ。2日目の教職員との模擬戦、これはあくまで今後のための指標だな。簡単にいうとこれからの指導のための下調べだと思ってくれていい。といってもちゃんとクラス分けには関わっているぞ?具体的に言えば模擬戦において5分間耐えた者、もしくは教職員に有効打を与えた者はほぼ全員がこのクラスにいる。残念ながら魔精力のランクの方が優先されるためにランク不足だった者は他のクラスにいることだろうがな。まぁこれに関してはさほど気にしなくていい、先程も言ったがこの学校で学んでいけば確実に今よりは強くなれるからな」
「それで最後に最終日に行われた儀式、もとい精霊契約について説明しておこう。……といってもこれはまた別に授業で習うことがあるだろうから簡単に一言。このクラスには儀式に失敗した者はいない、それだけだ。まぁ魔精力のランクが高ければ高いほど成功する確率が高くなる儀式だ。このクラスに不成功者が居ないのは当たり前のことだな。それにもし不成功ならばもれなく一番下のクラスに行くことが決定しているからな。とまぁとりあえずクラス分けテストに関してはこれぐらいだな」
そう言い一旦間を置くと続けて教壇の上においてあったプリントを適当に回すようにと伝えて一番近くにいた生徒に手渡す璃沙
そしてそのプリントが全員の手に渡ったのを見てから璃沙は再び話をはじめる
「全員手元に資料はあるか?いやあるな?よし、説明をはじめていくぞ」
「その資料を見て分かる通りこれから説明するのは入学してから初めての大きなイベント、6月末に行われる予定の学年別チーム対抗戦のことだ。早い話さっき組んでもらった5人1組のチームでこのイベントに臨んんでもらう。詳しく今から説明していくから耳の穴かっぽじってよく聞けよ!」
そう言うと学年別チーム対抗戦についての説明をはじめた璃沙
その話を簡単に纏めると以下の様になる
・1チームのメンバーは1人以上5人以下であること
・チームメンバーは全員が特別な事情のない限り行われる該当する試合には必ず参加すること
・このチーム対抗戦は学年ごとに別ではあるがクラスによって分けられることはなく6クラスのチーム全てが入り交じったトーナメント戦で行われるということ
・勝敗はチーム全員が戦闘不能やリーダーによるチームとしてのギブアップ宣告、もしくは全員が場外になった時点で決する
・武器は全て殺傷性の低い模擬戦用の武器を使用、防具に関しては攻撃力のある防具でない限りにおいては制限は特にない
・これから学ぶ魔精力の扱い方や魔法に関しては制限は特になく禁術以外のどのレベルにあっても自由に使用することが出来る
・契約した精霊の実体化による顕現は禁止とする
・制限時間は1時間であり時間切れの場合には戦闘可能状態にある生徒の残数によって勝敗を決める
・この対抗戦は1週間にわたり開催される
・相手の殺害、及びギブアップを宣言した生徒や戦闘不能状態にある生徒へ過度な攻撃を行った生徒はただちに教職員により捕縛、厳格な罰が処される
・対抗戦の結果は成績に大いに反映されるために上のクラスのチームに勝利すればそれだけ良い成績がつき、逆に下のクラスのチームに負けたならばそれなりに悪い成績がつくということ
・原則不参加は認められないが、開催前に戦闘を行える状態でないorやんどころなき事情があるものは別の課題を課された後不参加を認める
といった感じだ
色々とよく分からないところもあるがプリントをざっと見てみてもこのチーム対抗戦が新入生達の最初の関門であることはよく分かる
璃沙の説明を聞いてさっそく殺気立つ一部の生徒達
このチーム対抗戦における戦績が来年のクラス分けのための重要な成績となると聞いてこのクラスにやる気にならない生徒はほとんどいないだろう
もちろん勇斗もやる気十分だ
(とりあえず目指すは優勝!どうせやるなら負けたくないしね。それにそれぐらいの心意気でやらないといけないってわけか)
周囲の様子を感じてそう思う勇斗
やはり入学した直後でも意識が高いAクラスの面々
そんな生徒達の様子を見てニヤリと笑みを浮かべつつ璃沙は言葉を続けていく
「とりあえずチーム対抗戦についてはこんな感じだ。Aクラスである以上ある程度の成績を残さないと来年もこのクラスにいられるか分からないぞ?…と軽くプレッシャーを与えたところでこの話は終わりだ。何か聞きたいことはあるか?」
余計なプレッシャーを与えつつ生徒達に質問を促す璃沙
この教師は質問を促す前に余計な圧をかけないといけない理由でもあるのか?と思いたくなるぐらいにタイミングが酷い
一応これにも軽く理由はあったりするのだが、それに関しては入学したての新入生に求めるには酷なものだし、なにしろ大半が質問を受けたりするのがめんどくさいという璃沙の個人的な理由なので結論・酷い
結局誰からも質問が出ないので璃沙はさっさと次の話をしはじめる
「じゃあこれが今日伝える最期の伝達だ。明日からはじまる授業に関しての詳細はさっき渡した資料や入学前に渡してある資料にも関われているから詳しくは説明しないが忘れ物だけはするなよ?恐らくだが授業によっては忘れ物をしたら今後不利になっていくものがあるかもしれないからな。あと私が教える基礎戦闘学では遅刻や忘れ物さ一切認めないから先に言っておく。それでも遅刻や忘れ物してくるような奴はそれなりに覚悟しておくように。あとは……特にないな、じゃあ今日はこれにて解散!個人的に私に質問がある者は職員室の方まで来てくれ」
そう言い残すと颯爽と立ち去る璃沙
何から何までマイペースである
そんな璃沙に置いてきぼりにされた感じのある生徒達は少しのあいだは誰も動こうとはしなかったものの、1人が動きはじめるとまた1人、また1人と動きはじめて教室内は放課後の雰囲気へと変わる
だがそうはいっても誰一人としてすぐに帰るようなことは無くそれぞれのチームのメンバーと集まって何かを話あった後にチームで固まって帰っていく
恐らくさっき説明されたチーム対抗戦についての準備をさっそくしようとしてるのだろう
そんなクラスメイト達の様子を見て勇斗も他の4人と軽く打ち合わせをすることにする
「とりあえず連絡先を交換しとかない?さっきはそんな時間なかったからさ、これから必要になりそうだし」
そんな勇斗の提案にほかの4人も賛成を示し某SNSでの連絡先を交換しさっそくグルチャを作る5人
「これでよしと。それでなんだけどこの後どうする?」
暗にこのあとどこかで集まるのか?という勇斗の言葉に反応したのは明日香
「このあとどこかでお話でも…と思いましたが生憎わたくしは今日この後私用がありますので申し訳ありませんが今日お集まりするのは無理ですわ」
それに続き夨も言葉を発する
「すまないが俺も今日は無理だな。いや、基本的に放課後はちょっときついんだ、家庭の事情でな。一応可能な日は伝えるからまた別の機会にするか俺以外で話し合いをしてくれると助かる」
そう申し訳なさそうに言う2人
だが別に勇斗は個人的には今日話し合いをする必要はないと考えていたので2人に「問題ないよ、また別の日でも大丈夫」と伝えると帰り支度をはじめた
そんな勇斗をみてそれぞれ帰り支度をした後にこれから頑張っていこうという主の話を軽くした勇斗達はそれぞれの帰路に着く
入学してからの流れが早いこの学校
クラス分けテストが3日もあったかと思えばクラス毎に別れた初日からいきなり次のイベントに向けての準備がはじまる
だがそんな事は勇斗からすれば気にならない様子
勇斗は優奈と夏菜と学校から帰りながらも期待に胸を膨らませていっている
(明日からやっと授業開始!これで未知の力の使い方や色々と知らない事も学んでいける。それにチーム対抗戦の方に向けても頑張らないと。これからしばらくは沢山の楽しみがあって退屈しないなぁ!)
そんな風に考えている勇斗だが、翌日からの授業でさっそく自分がやらかしてしまうことなんて一切想像していなかったのである
……To be continued