人助け
予約投稿出来てなかった!?
……前にもやったなこんなこと! すいませんでした!
「――わかりました。門に行くまでで良ければ気を付けておきますよ」
「助かる。依頼、頑張れよ」
「ありがとうございます」
頭を下げるジンに軽く手を振り、気持ち早足でギルドを出て少しだけ言ったところで足を止める。
……昨日のこと、聞かれなかったな。
単に忘れてるだけなのか、それとも上手くいかなかったことをあの女から聞いているのか。
それはいいが、少し安心してしまったのがなんとも情けない。
「はあ」
ため息を漏らしつつ、意識を女の子の捜索に向ける。
しかし、ギルドではほとんど情報も集まらなかったし、少し後になってきたジンが女の子を知らなかったということは、この近くにはもういないのか?
さすがに『歓楽街』にまで足を伸ばすこともないだろうが……いや、わからないな。あの年頃の子なら。
とりあえず、まずは市場で聞いてみるか。
そう決めて、俺は相変わらず喧騒が響いている『商業街』を歩き出した。
■ ■ ■
「そんで、次はどこだ?」
『……右、近くに固まってる』
『じゃあ誘導してから一匹ずつ狩っていこうか』
「よし、移動するぞ」
さて、今俺たちは森にゴブリンを倒しに来ているわけですが。
『……五匹いた』
『二体ずつにする?』
『いや、安全が最優先だ。一匹ずつ、確実に仕留めろ』
『了解』
『……行ってくる』
これがもう、狩りと言ってしまうほどに一方的に倒せていた。
いやあ、自分で言ったことだけど、やっぱり位置が分かるっていいね。誘導のためにゴブリン共のもとへ走っていくノーディと、木に登ってゴブリン殺しの準備をするリンを見て心の底からそう思う。
遠距離も近距離もこっちが全部主導権握れるのって精神的にも体力的にもすごい楽。
持つべきものは頼れる仲間だな。俺、何にもしてないけど! せいぜい魔物と話せることがハーモニーにばれないように、声と従属パス使い分けてることぐらいか。
ちなみに、件のハーモニーは無表情で俺たちの作業を眺めてます。
自分が思い描いていた魔物討伐と全く違う風景に拗ねてるんだろうな……と、思っていたんだが、どうにも違うらしい。
だって。
「……やはり軍師のようではありますが、魔物への指示はほとんど身振り手振りのみ。魔物も人語を解すのか、何らかのスキルによって意思疎通ができるのかは判別がつきませんね。ふむ、しかしあのグリーンウルフは普通の個体と戦闘能力が全く違います。これは育った環境故の差でしょうか、それとも……」
ひたすらこんなふうに呟いてるから。
ちょっとの間ふてくされた顔してたと思ったらこれですよ。呟き始めてからずっと無表情なのが怖い怖い。
ぶつぶつ呟くのはいいから、せめて聞こえないようにしてくれませんかねえ?
『……行くぞ』
『あー、うん。リン、準備いいか?』
『おっけー』
不気味なハーモニーの行動は、いったん思考と視界から追い出そう。
ゴブリンが近寄ってくるらしいので傍の茂みに身を隠し、到着を待つ。ハーモニー? ちゃんと引っ張ってきてるよ。邪魔されたらいやだし。
茂みに潜んで一分とたたないうちに、ノーディと、その後ろからゴブリンが一体現れた。
全身が茶色という保護色を真っ向から無視したような体色に、俺の半分ほどしかないような小さな体。顔は、昔の絵に描かれた餓鬼を立体化させた、というのが一番しっくりくる。
最初に出会った時には全く外見に注目してなかったけど、よく見ると面白い顔してるな。
まあ、今から殺すんだけどね。
『ノーディ、俺たちのところにもう少し近づいてくれ』
『……わかった』
俺の指示に頷いたノーディは、リンが登っていった木にゴブリンを誘導していき――いまだ!
「グ、ゲッ!?」
樹上からゴブリンの頭部めがけてリンが恐ろしい勢いで飛び降りた。
体をゴムのように使って威力を増した垂直体当たり。これで普通のゴブリンは首が折れる。
今回も例にもれず一撃で仕留めたようだ。
もしも体当たりで仕留めきれなかった場合、頭にへばりついて呼吸を止めるか体の中に入り込んで内部から溶かしていく方法に切り替えられるこの作戦は、相手が一体だけなら本当に使いやすい。
「えーっと、これで規定数の討伐は完了したな」
「おや、もうですか」
あ、ようやくまともな会話が成立した。
「はい。何事もなく終わってよかったですよ」
「どうです。ここはもう少しゴブリンを討伐してお金を稼いでみては?」
「お断りします。もともと来たくて来たわけでもないんで」
「むう」
不満そうな顔をされても俺の意見は変わらない。変な魔物がうろついてるらしい森の中を歩き続けるのなんか怖すぎるわ。
いくらなんでも、これ以上こいつに付き合う理由はない。ある程度の戦闘は見せたんだから満足だろ。
強固に反対をしてこないハーモニーを見てそう思う。
『ジン、ゴブリンの耳切り取ったよ』
『おお、お疲れリン。帰りは何か欲しいものあったら買うぞ』
『おお! それじゃあ私はご飯大盛り!』
『はいよー。ノーディは何かあるか?』
『……別にいい』
『遠慮しなくていいぞ? 予定外の収入ぐらい使い切っても何とかなるし』
『……いい』
『ん、わかった。じゃあ帰るか』
らしい答えを返してくる二人に笑みを漏らしながらそう伝える。ついでに、二人の頭(リンは体)を軽く撫でた。
『いやー照れるなー(〃▽〃)』
『お前、日に日に顔文字上達するな』
前は単体でしか使えなかったのに、もう言葉と組み合わせてやがる。なんなんだリンの成長スピードは。
『――……ジン』
『ん?』
ノーディの背中で大きく揺れるリンを撫でまわしていると、ノーディが声をかけて来た。シグルドさんを発見した時と同じぐらい真剣な声音で。
『何か見つけたのか』
俺も自然と気が引き締められる。
なるべく声を出さないように気を付けてノーディに問いかけた。
『……人が、森の近くに』
『どんな人だ。血の匂いはするか?』
『……しない。襲われてる。ゴブリンだ』
襲われてる、か。面倒くさいな。ここから近けりゃ助けに行くのも考えるけど。
『距離はどんなもんだ』
『……近い』
『そうか、だったら案内してくれ。一応見に行こう』
ゴブリンの数が少ないなら助けることも考えよう。
さて、まずは。
「ハーモニー」
「何でしょう」
明後日の方向を向いていたハーモニーだったが、名前を呼んだらすぐさまこちらに向き直った。
こいつは勝手についてきたようなものだが、一応伝えておいた方がいいだろう。
「俺たちは今から人助けに行きますが、あなたはついて」
「行きますとも」
「……そうですか」
やっぱり確認の必要なかったな。
内心でつぶやきつつ、ノーディに案内を頼む。
『なになに、人助け? 珍しいね』
『珍しいって言われるほど長く暮らしてねえよ。サイラスさんたちが守ってる一般市民なら助けるぞ』
チンピラみたいな奴らだったら見捨てよう。
そう心に決めて、俺たちは人のいるところへ向かうのだった。
■ ■ ■
「ああ、あのお嬢さんでしょうか。それなら門の方に走ってくの見かけましたよ」
「……やっぱり門の方に行ってるのか。ありがとう。この回復薬買っていくよ」
「ありがとうございます!」
露店を開いている少年に礼を言い、その場から離れる。
やばいな。今までの足取りからすると、あの子はもう街の外に行こうとしているとしか思えない。
「なんで外になんか」
探している子供の特徴を思い返すと思わずそんな呟きが漏れた。
それは本心からの疑問だったが、同時に自分の中でこうじゃないかという答えが出ていた。……あの年齢の子供が考えることは、似通っているものだ。男女関係なくな。
苦いものが胸に広がるのを感じつつも足は止めない。
もし。
もしも、俺の考えていたことが当たっていたのなら。
『すまない……助けられなかった』
『私の、せいだ。私の……私、の……私が、いなかったら』
最悪の過去が脳裏をよぎった。
後悔してもし足りない、親友を失った時の記憶。
楽しい冒険が、一瞬で引き裂かれたあの瞬間。
「やめてくれよ……」
少女が衛兵に止められていることを願い、俺は走り出した。




