17 前世友達
「悶え死ぬかも! やばす」
「あんた、もうそろそろ病院行け」
朝学活の前に私は、舞い上がっていた。楽しそうな私を前に彼女は、やたらと溜め息が多いのだが。こら、溜め息は幸せが逃げる。
そんな目の前の彼女こそ、私が気を許せる唯一の相手なのですが。
真っ黒な髪に、紅が差した頬。猫目で、いかにも和服が似合いそうな日本美少女。残念ながら、髪がさらさらベリーショートなのだけど。でも髪が長ければ呪いの日本人形になりそう気がする…というのは言わないでおこう。彼女は、顏だけは由緒正しいお嬢様みたいなくせして、この口の悪さである。
「今、失礼な事考えたでしょ?」
「いえ。滅相もございません」
にやりと悪い笑いを向ける彼女。私は怖いので、横にひたすら首を振り続ける。
そして、この異世界で初めて見つけた私と同じ“前世がある”少女です。
それがこの少女、猫津 優雅。
「んで、ハピスクの誰かと会えたの。…あーっと、あんたの妹ちゃんは」
「んー、まぁぼちぼちかな」
私は今更ながら恥ずかしい言動を思い返し、悟られないように遠くを見据える。すうっと冷ややかな目線が送られてきているのは気のせいでしょう。
彼女はこのゲーム、ハッピースクールを前世でプレイしていたらしい。嫌そうな顔をしつつも私の妹ちゃん大好きトークに付き合ってくれる大事な友達です。
彼女と出会ったのは、アメリカ。見るからの日本人、そして美少女が泣いていて私は迷わず口説きにいった。彼女は、女の私でも可愛いと思うくらいなんだからよっぽどだっただろう。「大丈夫? ……ぐほぉっ」そこで、彼女の軽快な後ろ回し蹴りが炸裂してから…記憶がない。
「ぼちぼち、ふーん。…あんたは、気になる奴とかいんの?」
恋ばなですか! やはり優雅も年頃なのですね、と言うと頭をべしっと叩かれた。これ以上怒らせる前に話を戻すとしよう。
「入る訳ない、ない。私、好きとか熟女好きでしょ」
「やっぱり! そうだよな」
私が溜め息混じりに言うと彼女の声が弾んでいた。
「納得するな!」
いないと言ったとき若干彼女が微笑んだのは、私の目の錯覚だろう。女同士だしね。
私は熟女だが、彼女はそうでもないらしい。前世の話は十五歳だということは聞いた。若いねぇ。
「そういう優雅は、前世どうなの?」
「んー、俺か? 二次元じゃなくて、好きだった奴なら居たぞ。普通に」
優雅は窓の外を見据えて紅の差した頬が更にほんのりと赤くなる。意外と可愛いところもあるんだなと私は微笑むがやはり優雅の恋は、拒否反応を起こす。
「え!? 嘘。優雅が恋…。ありえない」
「な、声出てるよ。ん?」
優しい言葉で笑いながらの疑問詞は止めてください。もう殺気が怖いです。
その、右手の辞書をお仕舞い下さい。あぁ、角を此方に向けないで。
すいませんっしたぁぁぁ! と私は直ぐ様土下座をする。廊下で行きゆく人の視線が痛い。
「じゃ、質問変えるわ。ハピスク誰推しだった?」
「そりゃ涼くんかな。声が好き。優雅は?」
私の即答に彼女は、思いっきり鼻で笑う。美少女で様になってますけどその対応おかしいですよー。殺気も前の二割増しです、涼くん潰されるかもね。
「俺か? 俺はな、もちろん…「まじかよぉ!」
優雅は、誰かの名前言ったのだろうが私の耳には隣の男子生徒の会話が邪魔で聞き取れない。うわぁ。
……。
気まずい沈黙を破ったのは、優雅の方だった。
「あのさ、話したい事があるんたけど」
優雅は言葉をじっくりと選び私に伝える。
「とっ、ところでホームルーム始まるから、教室戻らなくちゃ…ぁ」
「おい、おまっ。ちょっと待て」
彼女の真剣そうな話を聞く度量はまだ持ちあわせていない。
私は、彼女の言葉を聞き入れることなく教室に戻った。




