勇者の証と館の呪い②
僕たち雇われが当てられた部屋は、驚くべきことに全員個室だった。維持管理が徹底された空き部屋を六つも抱えておくのは、ぶっちゃけ無駄な作りなんじゃないかな? それとも金持ちの家ってどれもこんな感じなのだろうか。
「先ほど申し上げた通り、お屋敷の設備はご自由にご活用ください。何か、質問はございますか?」
恭しく一礼をする若いメイドさんに、手を挙げて返事をする。ロングヘアと眼鏡が似合う知的美人って感じだ。
「特に思いつきませんね。イリス先輩は何かありますか?」
「へ? 私? ん~、そういうのケイの担当だからなぁ……なんかある?」
「いつの間に『先輩』なんて偉そうな呼び名が付いたんだよ……全く」
「いーじゃん別に、事実なんだし」
「あのさ、僕らだってそんなに歴が名代訳じゃ無いからね、この業界。ほかの同業者が知ったら鼻で笑われるよ」
「気にしない気にしない、『魔道猟兵は歴より質』ってケイだっていつも言ってるじゃん。私たちの依頼の質、そこら辺のベテランじゃ多分追い付けないよ?」
くすくすと笑いながら、楽しげにイリスが一回転する。彼女の喜びを表すように、光の羽が数枚、床に落ちて光の粒になって消えていく。
「はぁ……。危険度と金額が悲しいほど釣り合ってない依頼は武勇伝じゃなくてクソ依頼って言うんだよ。その話、本当にしないでね。何も知らない後輩に恥を晒すのは本当にゴメンだよ」
「え~っ。それってケイがオンナノコに熱を上げて事務所を引き上げる勢いで金策して、フィオナっちを始めみ~~んなに頭下げまくった事件の話の事?」
「うぐぁ! よりもよってピンポイントでその事件の話するか!? 普通!」
やっぱり僕の人生最大の敵はこいつだ。死ね! 僕が直接手を下すと社会的に面倒くさいから僕の知らない所で僕にとって最高に都合の良いなんか苦しむ呪いっぽい奴で死ね! というか、今回の依頼で歩くと常に足の小指を家具にぶつける呪いかなんかにかかっちまえ!
「え? ケイの武勇伝聞けるのか? イリス先輩! ぜひぜひ聞かせてくれよ!」
「お前も乗るな! 言っとくけど、マジで聞いたらフィオナに苦情を言っ……ても恥の上塗りだから個人的に君と縁を切るかなら!」
「……意外でした、てっきりケイ先輩とイリス先輩、お付き合いしてると思ってたんですけど、別に心を決めた相手がいらっしゃったんですね」
「んなわけあるか! 妹だよ! い・も・う・と!」
「あれれ? そんなムキに否定する? ってことはケイってば、もしかして私のこと……? ん~でもごめんねぇ、私ケイはちょっとなぁ……同僚としか見られないっていうか」
クソったれ! 完全にドツボだ! というかストッパーが全く存在しやがらねぇ!
僕らの耳に、くすくすと笑い声が聞こえる。見てみると……あぁ畜生め、さっきまであんなにキリっとしてたメイドさんすら笑ってるよ。
ほかにできることも無いので、八つ当たりでメイドさんに非難の視線を向けておく。
それに気づいたメイドさんが、ぺこりと頭を下げて来た。
「申し訳ありません……魔道猟兵様は、粗野な方ばかりと思っておりましたので、つい。ご質問が無いようでしたら、私は仕事に戻らせて頂きますが」
「質問ねぇ、じゃあ」
「おっと、んじゃあ俺から質問させてもらって良いかな?」
ジグルドが割り込んできた。僕も聞きたいことがあったんだけど、ここは後輩の腕を見ておこう。
「はい、どうぞ、私に答えられる事でしたら」
「なら」とジグルドが口を開く。
その表情は、先ほどまでとは違い、真剣そのもの。今日初めて見る、魔道猟兵としてのジグルドの顔はこれなのかもかもしれないね。
「やっぱ……こういうお屋敷のメイドさんって、夜には館の偉い人とえっちなこヴぉふぁあ!」
質問は途中で悲鳴に変わった。それにしても、先ほどのコイツの表情が魔道猟兵の物に見えたのは、気のせいだったみたいだね。
見れば、後頭部に手のひら大の水晶の塊がパッと見危険な角度でぶっ刺さってる。相当な衝撃を背後から食らったのに、目の前のメイドさんに頭突きをせず踏みとどまるのはさすが前衛の盾士といった所だ。
後頭部を押さえて悶絶するジグルドの背後には、笑ってない笑顔を浮かべるエロイーズさんのお姿。
あの、真剣に怖いです。新人だと思ってたけど、なかなかすさまじいプレッシャーをお持ちですね。
「すみません、このヒトのたわ言は聞かなくて大丈夫ですので、ケイ先輩、質問をどうぞ」
とりあえず、ジグルドの後頭部から水晶を引っこ抜いてやる。まぁ前衛だし、すぐに完治するだろう。
「おっごあああああああ! 痛ってえええええええええっ!」
後頭部をさするジグルドを立たせてやる。全く……手のかかる後輩だな。先輩として、びしっと言ってやろう。
「僕も正直気になってたけど、さすがに聞く度胸は無かったよ。君は本当の勇者だ、ジグルごはっ!」
後頭部に衝撃、世界がスローモーションに。
ちらり背後を見る。杖を放り投げたフォームの相方が……
「全く、家のこいつらときたら」
「ふぅ……ちょっと、後でこの二人とお話しする必要があるかもしれませんね、イリス先輩」
二人の心が、おそらくは本来の同僚である僕と組んでいるときよりもぴったり一致する。
――とりあえず、後衛術士が軽々と魔杖を放り投げるなよ。
そんなどうでも良いことを考えた直後、遅れてやってきた後頭部の痛みに、今度は僕が悶絶するハメになった。




