エピローグ
人は、過去を変えることはできない。
あの日の景色も、交わした言葉も、もう戻ってはこない。 夜の部屋でお酒を飲み、声を出さずに泣いた日々も、手羽先のコーナーを避けて歩いたあの買い物の帰り道も、すべては遠い日の記憶になっていった。
それでも、時間は少しずつ心を変えてくれる。 あの頃はただ痛むだけだった思い出も、何年もの月日を重ねることで、少しずつ優しい景色へと変わっていく。ペアリングを手放す前に指のサイズを測った不器用さも、ネットの片隅で見つけた結婚宣言書のテンプレートに未来の誰かを想ったことも、すべては私が本気で誰かを愛し、生きた証だった。
彼女が最後に残した言葉。
「恋愛をするのは、私で最後にして。」
私は長い間、その重くて温かい言葉の意味を探し続けていた。 縛られているわけではない。けれど、あの痛みを伴った別れと、彼女から向けられた圧倒的な愛しさは、私の人生のひとつの確かな刻印になっていた。 何年も経った今、その言葉は私の中で、過去の呪縛ではなく、これからの人生を誠実に歩いていくためのお守りのようなものに変わっている。
もちろん、その答えが本当に彼女の思いだったのかは分からない。 本当の気持ちは、彼女だけが知っている。 でも、それでいいのだと思う。
人は、それぞれの人生を歩いていく。 私も新しい土地で自分の人生を歩み、彼女もきっと、どこかで自分の人生を歩いている。
あの恋があったから、今の私がいる。 嬉しかった日も、苦しかった日も、全部が私の大切な思い出だ。
ふと見上げた新しい土地の空はどこまでも広くて、私の胸の奥には、消えることのない温かい記憶が静かに息づいていた。
もし、この物語を読んでくださった誰かが、大切な人との時間を少しでも思い返してくださったなら、これ以上嬉しいことはありません。




