第四話 はじめての野営地
「みんな、ステータス見せてくれてありがとね。出発しようか」
「そうですな。日のあるうちに、国境前の野営ポイントに行きましょう」
「いよいよ出陣じゃな」
「ドキドキします……!」
席を立ち、部屋を後にする。
ルシンダに鍵を返す。
「……行くんだね?」
「はい。お世話になりました」
酒場を後にし、馬場から荷物と馬を受け取る。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
スイが、杖を握り直す。
「まぁ、街道沿いは平和だと思うよ」
勇者が手網を握り、のんびりと歩き出す。
後ろにスイ、ラナ、ドーガと馬が続く。
「そういえば、昔の勇者は出発の記念にツボを割ってたらしいんだよね」
「なんじゃ、不思議な風習じゃの」
「なんでも、割れる音で縁起を担いだとか……」
「樽を割ったこともあるらしいですな」
街道を、しばし歩く。
整備された道は歩きやすく、周囲も背の低い草が揺れているだけだった。
行商人とすれ違う。
「あれ、勇者様じゃ……?」
「とうとう出発なさるのか……」
少し、岩が目立ってきた。
「そろそろ、魔物が飛び出す可能性がありますな」
「馬を驚かせないようにしたいね」
後方からドーガが注意を促し、勇者が頷く。
「ま、魔物というのは……どのようなものなのでしょうか……?」
「うーん、この辺なら、カラースライムとか、角生えたウサギとか」
顎に手を当てて、答える。
「スライムちょっと面倒だから、飛び出してきたらラナ頼めるかな」
「良いぞ」
「出来れば、ワイルドボアとか来てくれると、夕飯が美味しくなるんだけどなぁ」
「ワイルドボアは流石に。もっと先の境界まで行きませんとな」
「残念だなぁ」
のんびり歩く。
ガサ、と草むらが鳴った。
野生のカラースライムが飛び出してきた。
「氷よ、貫け」
ラナが手を振る。
空間を引き裂く氷の針が、スライムを襲う。
一匹のスライムが凍りつく。
「えい!」
スイが進み出て、杖で殴る。
氷と、スライムの核が割れた。
「やった……!」
「いい連携」
「楽勝じゃの」
嬉しそうなスイに、勇者とラナもまた頬を緩める。
「次が来るようですな、では儂が」
「任せた」
飛び出して来たのは、一角ウサギ。
「あ、夕飯だ。ドーガ、斧だよね」
「そうですな」
「俺やるわ。スイ、ちょっと手網持ってて」
「はい」
スイに手綱を渡し、一歩踏み出す。
一角ウサギは逃げていった。
「あっ! 嘘だろ夕飯……!」
「またの機会ですな」
「クッソ……」
スイから手綱を受け取り、とぼとぼ歩く。
ゴツゴツとした岩場が目立ってきた。
「夕飯……」
「川もあるぞ。ウサギが無理ならば、魚でも良かろう」
「ラナ……。俺さ、さっきので、口の中がウサギなんだよね」
「難儀じゃの」
「敵寄せの呪文とか、無かったっけ……?」
「そんな無駄なもの、習得しておらぬわ」
「そんなぁ……」
「次期を待て」
てくてく歩く。
「では、勇者殿。そろそろ休憩としてはいかがですかな?」
「ああ、そうか。確かに」
頷く。
気づけば二時間は歩いていた。
少し街道を外れて、木に手綱を結ぶ。
「焚き火起こそうか?」
「むしろ薪じゃな」
「わかった」
勇者が手近な木を拾い、組む。
ラナの火魔法で、焚き火を作る。
「スイ、疲れたでしょ。ここ座って」
「はい」
手頃な岩を指し、スイが座る。
「紅茶で良いなら、コップを出せ」
「ありがとうございます」
リュックから出してラナに渡す。
「これ、雑貨屋さんから貰った餞別。みんなで食べよ」
勇者が、焼き菓子の包みを配る。
「有難いですな」
紅茶を片手に、ドーガが目を細める。
「食べ終わったらさ、ウサギ探しに行こうかな」
「それならば、野営地点に到達してからの方が効率が良いかと」
「そっか、確かに新鮮な方がいいね」
岩の間を、心地いい風が抜ける。
空を見上げれば、薄い雲が流れている。
「……ずっとこんな感じだったら、いいのにね」
「そうですね……」
同じように見上げて、スイが頷く。
ラナが小さく微笑み、ドーガがまた目を細める。
「……そろそろ行こうか」
紅茶を飲み干し、立ち上がる。
手網を解き、馬を引く。
「はい」
頷き、また街道へ戻る。
「そろそろ、砦が見えてくる頃ですな」
ドーガが告げる。
右前方に、古い見張り塔の先端が見える。
「もうちょっとか。頑張ろ」
時折飛び出してくるカラースライムを倒し、歩く。
やがて、道行く人が増え──
街道の終わりを告げる砦が、眼前に広がった。
「苔むしてるねー、遺跡って感じだ」
勇者が、砦に触れる。
「一応現在も、兵の巡回がありますな」
「先ほどの見張り塔も、人がおったの」
「機能してるんだね」
ドーガとラナの言葉に、改めて周囲を見る。
確かに、行商人や傭兵の間を兵士が歩いていた。
「人が居れば、トラブルもある……か」
「夜になれば、魔物も活発になりますからな」
「魔物ですか……!?」
「大丈夫じゃ。この野営地点は、魔除けのかがり火が焚かれておるからの」
ドーガの言葉に怯えるスイを、宥めるようにラナが続ける。
「よし、じゃあ俺たちの初めての野営場所探そうか。おすすめある?」
「そうですな、実はこちらの野営場所は区分けされておりまして」
ドーガが、左手を伸ばす。
「砦よりも左側が、主に野営地として解放されておりましてな。儂としては、砦沿いの壁際が安心ですぞ」
そして、身体を反転させ、右を指す。
「右側は、主に行商人たちの出資により、炊事場、簡易的な鍛冶場、厠、馬場などがありますな」
「奥に屠殺場もある。ウサギはそこで絞めると良いぞ」
「厠あるんだ!」
野営で厠があるのは、有難かった。
「ありますぞ。共同ですが、ちゃんと仕切りも」
「昔は穴しか無かったが、だいぶ整備されておる」
「穴だったんですね……」
(今で良かった……)
「じゃ、もうちょい奥に寝床作ればいいね」
「そう致しましょう。かがり火は、まだ先にもありますからな」
「この界隈では一番大きい野営地じゃからな、割と快適じゃぞ」
馬を引き連れ、脇道を歩く。
やがて人も疎らになったところで、歩みを止めた。
「この木なら、馬繋げるね」
「良いでしょう」
勇者とドーガが頷き、手綱を結ぶ。
「勇者がウサギを狩るならば、わらわが馬の世話をしてやろう」
「わ、私は寝袋の準備をしますね」
「ありがとう、ラナ、スイ」
「では儂は、魚を取ってきますぞ」
「それは保険?」
「余れば、干せば良いのです」
「わかった、任せたよ」
それぞれが頷き合う。
「じゃ、また後で」
お互いの目標へと足を向ける。




