夏休み自由研究 第2/10話:通常成長――普通の作品は、どう伸びるのか
いつも私の作品を読んでくださっている皆さまに、心から御礼を申し上げます。
前回は、この連載で扱う異常成長作品とは何か、という入口の話をしました。そこで私は、異常とは即ち問題ではなく、まずは通常の成長曲線から大きく外れた数値の動きだと置きました。
ユニークユーザーに対する評価効率が異様に高い作品。ブックマークへの転換があり得ないほど強い作品。あるいは、一人の読者が何度も深く読み進めているように見える作品。そうしたものを、今回は異常成長作品として見ていく、という話でした。
ただし、異常を語るには、その前にどうしても必要なものがあります。それが、通常成長です。
普通の作品は、どう伸びるのか。どのくらいの人数に届き、どのくらい読まれ、どのくらい評価や保存へ転換されるのか。何をもって「よくある伸び方」と言えるのか。これが分からなければ、異常という言葉はただの感想で終わってしまいます。ですから第二話では、まずこの基準線を置いておきたいと思います。
通常成長とは何か。
それは、単に数字が低い作品のことではありません。また、爆発していない作品のことでもありません。近い条件の中で見たときに、数字同士の関係が比較的素直であること。私はひとまず、そう定義したいと思います。
ここでいう近い条件とは、たとえば次のようなものです。ジャンルが近いこと。短編か連載かが近いこと。投稿された月が近いこと。文字数や話数の条件が極端に離れていないこと。そして、投稿から月末までの経過日数がある程度近いこと。
この条件が揃って初めて、「普通の伸び方」と「普通ではない伸び方」の差が見えてきます。
たとえば、7月に投稿された短編歴史作品と、4月に投稿された大規模な異世界ファンタジー連載を、そのまま同じ物差しで比べてもあまり意味がありません。前者はそもそも棚の厚みも違えば、読者の巡回動線も違う。後者は話数が進み、PVそのものが積み上がりやすい構造を持っています。そこで重要なのは、絶対値そのものではなく、条件のわりに素直か、条件のわりに外れているかです。
今回、私が見ている100作品のアクセス解析の中には、いかにも外れていそうな作品だけではなく、比較用として入れた準標準作もあります。これはかなり大事でした。なぜなら、異常な作品だけを並べてしまうと、読んでいる側の感覚が麻痺してしまうからです。全部強い。全部大きい。全部どこか変だ。そうなると、何が普通で何が外れているのかが、かえって見えなくなります。
ですから今回は、極端に跳ねた作品群の横に、そこまでではないが、ちゃんと読まれている作品も置いています。これによって初めて、通常成長の輪郭が見えてきます。
では、通常成長とはどのようなものか。私は今回、三つの特徴があると思っています。
第一に、ユニークユーザーの増え方とPVの増え方が、比較的素直につながっていることです。
つまり、人が来ればPVが増える。来る人数が減ればPVの勢いも落ちる。当たり前の話ですが、通常成長の作品はこの当たり前が崩れにくい。一人の読者が極端に何度も出入りしている感じではなく、来た人数に応じて読まれた量が積み上がっていく。これは特に短編で見えやすい特徴です。
第二に、ユニークユーザーに対する評価ポイントやブックマークの転換率が、過度に尖っていないことです。
読者が来れば、ある程度の割合で評価が付き、ある程度の割合で保存される。しかし、その比率がいきなり跳ね上がるわけではない。要するに、読者反応が極端に濃すぎない。これは数字として見ると地味です。けれど、地味だからこそ普通です。普通の作品は、何万人かに届いたからといって、その全員が高確率で評価や保存に動くわけではありません。むしろ、ある程度読まれても反応しない層がかなりいる。その当たり前を含んだ曲線こそ、通常成長だと思います。
第三に、初動の山があっても、その後の減衰が比較的説明しやすいことです。
新作は基本的に、投稿直後にいちばん見られやすい。新着、日間、ジャンル導線、読者の巡回、SNSや外部流入。いろいろなものが重なるので、最初に山が立つのはむしろ自然です。そしてその後、日が経てば少しずつ落ちていく。この落ち方が滑らかであればあるほど、通常成長の印象は強まります。逆に、途中で理由の見えにくい巨大な山が突然立つなら、そこには通常とは違う何かがあるかもしれません。
ここで、今回の資料から準標準作に近い作品群を眺めると、この「普通の曲線」がわりと見えてきます。
たとえば、ある7月のヒューマンドラマ連載作品は、月間PVが約2.2万、ユニークユーザーが約2万でした。PVとUUがかなり近い。これは、一人の読者がものすごく何度も読んでいるというより、来た人数に対して比較的素直な閲覧回数になっていることを示しています。
しかも日別グラフを見ると、初期に山が立ち、その後は自然に減衰しています。もちろん、しっかり読まれてはいます。けれど、読まれ方に異様な濃さがあるわけではない。こういう作品は、通常成長の見本としてかなり使いやすいです。
また、ある5月の現実世界恋愛連載作品も似ています。月間PVは約1.27万、ユニークユーザーは約1.14万。これも、PV/UUで見れば一人あたりの閲覧回数はそこまで高くありません。大勢に深読みされているというより、まずは届いた人数ぶんだけ順当に読まれているという形です。日別上位を見ると、初日近辺に高く、その後は減っていく。これも非常に自然です。
こういう作品を見ると、通常成長とは「弱い作品」ではなく、反応構造が素直な作品なのだと分かります。
異世界恋愛の準標準作も面白いです。ある7月の異世界恋愛作品は、月間PVが約6,553、ユニークユーザーが約5,908でした。こちらは規模自体はそこまで大きくありません。けれど、日別の山は投稿直後に集中し、その後はなだらかに落ちていく。
これは、読者が「まず来て、まず反応し、そこから少しずつ減っていく」という、ごく自然な動きに見えます。異世界恋愛という棚は強いので、ここから一気に跳ねる作品も出ます。しかし、全てがそうなるわけではない。この作品のように、棚の力を受けつつも、数字同士の関係は比較的素直というものもある。ここに通常成長の意味があります。
では、通常成長の反対側には何があるのでしょうか。それは、数字同士の関係が急にねじれることです。
UUはそこまでではないのに、Pt/UUが異様に高い。UUは少なめなのに、BM/UUがやたら強い。
PV/UUが連載でもないのに高い。あるいは、初動の山の大きさに対して、その後の減衰や持続のしかたが説明しづらい。こうしたものが、前回言った異常成長の入口になります。
しかし、ここで私は一度、立ち止まりたいと思います。通常成長は地味です。数字だけを見れば、派手ではありません。記事としても、異常成長のほうが目立つ。けれど、投稿サイト「小説家になろう」を本当に支えているのは、むしろこの通常成長の作品群です。
なろうは、極端な上位ヒットだけで出来ている場所ではありません。何千、何万という作品が投稿され、その多くは爆発しません。それでも、読まれる作品は読まれます。
少しずつでも読者に届き、少しずつでもポイントやブックマークが積まれ、一定期間ののちに自然に落ち着いていく。この「爆発しないが、ゼロでもない」地帯こそが、通常成長の本体だと思います。
そして実は、書き手にとってはこちらのほうがずっと重要です。なぜなら、異常成長は再現しにくい。もちろん、狙って異常な結果を出せる作者様もいらっしゃるのでしょう。
けれど、多くの書き手にとってまず現実的なのは、通常成長の中でどこまで上振れできるかです。どういう棚で。どういう導入で。どういう更新で。どういう長さで。どこまで素直に読者へ届くのか。そこを考えるには、異常な作品だけ見ていても仕方がありません。通常成長の輪郭を知っておく必要がある。
ここで短編と連載の違いにも少し触れておきます。通常成長は、短編と連載でも顔が変わります。
短編の通常成長は、比較的分かりやすいです。初日に近いところで大きめの山が立つ。そこでかなりの部分を取り切る。その後は落ちる。落ち切るまでの速度に差はありますが、基本的には「最初に集めて、その後は減る」という一本山になりやすい。短編は読む側の負担も小さいので、とりあえず触られやすい反面、継続的な再訪は起きにくい。だからPV/UUもそこまで大きくなりにくい。これが通常の短編曲線です。
一方、連載の通常成長は少し複雑です。初動の山があり、その後に更新による小さな波が立つ。ある程度の読者が残れば、PV/UUも短編より高くなる。ただし、それでも基本線は素直です。
UUが増えるとPVも増える。UUが減ればPVも鈍る。BM/UUはある程度の範囲に収まり、Pt/UUも極端には跳ねない。つまり、連載の通常成長とは、山が複数あっても、その山が物語の進行や更新という理由で説明できることです。
この「説明できる」という感覚は、かなり重要です。通常成長の作品は、数字の動きに納得感があります。
投稿した。だから見られた。更新した。だからまた少し見られた。保存された。だから一定数が追ってきた。時間が経った。だから少しずつ下がった。こうした流れが見える。
それに対して異常成長作品は、ときどきこの納得感を飛び越えます。だからこそ、まず先に通常成長を置いておく必要があるのです。
ここで、少し強い言い方をしてしまえば、通常成長とは説明可能な成長です。もちろん、すべてを完全に説明できるわけではありません。読者の気分も、棚の風向きも、外部流入も、全部を数式にすることはできません。けれど、それでも、近い条件の作品と比べたときに、数字同士の関係に無理がない。私はそこを通常成長の核心だと考えています。
反対に言えば、異常成長とは説明しにくい成長です。人数のわりに評価が強すぎる。人数のわりに保存が濃すぎる。あるいは、読者一人あたりの閲覧回数が外れすぎている。
通常成長の回でこれをはっきり書いておくと、後の回で異常を扱いやすくなります。
今回のアクセス解析100作品をざっと見ているだけでも、通常成長の作品には共通する空気があります。数字はゼロではない。むしろ、しっかり読まれている。
しかし、どこか一か所だけが突出して暴れているわけではない。UUもPVも、それなりに増える。評価も保存も、それなりについてくる。けれど、それがいきなり暴騰しない。こういう作品こそ、実は一番「普通」で、一番貴重な比較材料です。
異常成長作品ばかりを見ていると、感覚が狂います。数万UUが当たり前のように見えてくる。BM率の異様な高さにも慣れてしまう。しかし、現実の棚はそうではありません。
多くの作品は、もっと素直に、もっと地味に、けれど確かに伸びています。通常成長とは、その当たり前の地熱です。
次回は、この通常成長をさらに一歩進めて、なぜPVよりユニークユーザーを先に見るべきなのか、そこを掘り下げていきます。
同じ10万PVでも、中身が違う。同じ高PVでも、届いた人数が違えば意味が変わる。異常成長の正体を見誤らないためには、まず「何人に届いたのか」を見る必要があります。
けれど、その前提になるのは、やはり今回置いた通常成長の考え方です。普通の作品は、条件に応じて素直に伸びる。人が来れば読まれる。読まれれば一定割合で反応が付く。時間が経てば減る。そして、その数字同士の関係に、大きなねじれがない。これが、今回の私なりの通常成長の定義です。
異常を知るために、まず普通を知る。派手さはありません。けれど、ここを外してしまうと、その先の分析は全部危うくなる。だからこそ第二話では、あえて地味な基準線を丁寧に置いておきたかったのです。
私の作品の読者様に、心からの感謝を込めて。
条文小説 拝
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