第7話 〇〇は裏切らない
名古屋ダンジョン第32層。
最前線のため、出現する魔物やアイテムの情報はなく、探り探りの攻略となる。
「さて、どうします?」
「とりあえず、ゆっくり進もう」
先に来ていた真奈にそう言い、俺は軽くストレッチをしながら奥を見据えた。
薄暗いのは相変わらずだが次第に慣れ、思ったよりも通路が広いことに気づく。
「前のとこよりも広くないか?」
「名古屋ダンジョンは迷宮タイプですからね、踏破タイプよりやや通路が広いことが多いです」
いつだったか調べた時に知ったダンジョンのタイプには、迷宮と踏破の二つのタイプがあるのだが、どうやら中の構造にも違いがあるようだ。
戦いやすくていいと思いつつ、何気なく俺はダンジョンの壁に鑑定を行った。
『ダンジョンの壁』
ダンジョン№25の内部にある32層の壁。素材は夜光石でできており、暗闇でも仄かに光る。
その他にも情報が頭に入ってくるが、俺は意識的にそれをシャットアウトする。
レベルが上がったおかげで色々調べられるのだが、一度に情報がくると頭がパンクするので、こうやって情報を制限しているのだ。
「なぁ、今発見されているダンジョンの中でダンジョンナンバーが一番大きいとこってどこだっけ」
「ダンジョンナンバーですか? んー、たしか中国にある上海ダンジョンが50で一番数字が大きいダンジョンって言われてますね」
「50か……」
世界中にあるダンジョンの総数と同じ数だ。
研究者たちによれば、この数字とダンジョン内部に関係性はないとされているが、実際どうなんだろうか。
気になるのは俺が一番最初に攻略したナンバー0のダンジョンだ。
出現する魔物は他のダンジョンには出てこないものも多く、アイテムの数も少ない。ただ、何故かスキルだけ覚えやすい構造だった。
ボスを討伐するとその階層は魔物が出なくなるのも、他のダンジョンとは違っている。
最低限の機能だけ備わっている出来損ないのダンジョンだったといえなくもない。
「何か考え事ですか?」
「いや、以前俺が探索していたダンジョンのナンバーは0でな。内部構造も違ったし何かあるんじゃないかと思っていたんだ」
「確かに、あそこは他とは違う感じでしたね。攻略した今はもうただの洞窟になっちゃってますし」
そんなことを考えながら進んでいると、とうとう一体目の魔物が姿を現した。
人型の岩でできた魔物でレベルは49。現在の真奈ならばそこそこ余裕をもって勝てる相手だ。
「俺がやっていいか? ちょっと試したいことがある」
そういって魔物の正面に立った俺は、仁王立ちのまま敵と対面する。
何もしてこない俺にしびれを切らしたのか、魔物はタックルの構えをとった。スピードの乗った魔物が俺に向かってくる。
「ふんっ!」
タックルをもろに受けるが、吹き飛ばされるどころか逆に魔物を跳ね返してしまった。
案の定というかなんというか、ステータスに差があるとダメージすら与えられないようだ。
「うわー人間技じゃなーい」
「何をいう、真奈も鍛えればこれくらい余裕できるようになるぞ?」
「ジムトレーナーみたいな暑苦しいセリフ言わないでください」
「筋肉は裏切らない……」
ステータスも裏切らない。
♢
今回の攻略は俺にとって遊びのようなものだ。
最初の戦闘で分かった通り、この層の魔物相手では俺にダメージを与えることはできない。
「回復魔法のレベルも上げたかったんだが、この感じだと使う機会がないな」
この前のボスドロップで手に入れた回復魔法のオーブは、正式に俺が使用してもいい事に決まったので有難く使用させてもらっていた。
試しに使ってみようと自分で自分を傷つけて使ってみたのだが、効果は薄かった。
やはりレベルが低いからかと今度はレベル上げをしようとしたのだが、実はスキルにはとある性質がある。それは、スキルやステータスはダンジョンの中でしか成長しない事。
これのせいで俺の回復魔法はいまだにレベルが1なのであった。
「自傷行為のレベル上げしても駄目だったんですか?」
「そういえばやっていなかったな」
俺は水魔法の高圧レーザーで皮膚を切り、そこに回復魔法を使った。
ほんのり暖かくなるような感触があり、傷が徐々に治っていく。しかし、何度か試してもレベルアップの通知はこなかった。
「他のスキル同様、やはり実践じゃないと意味がない……か」
「他の非攻撃スキルもそうですし、スキル全般が実践でないと成長しないんでしょうね」
「変な所で不親切だよなぁ」
とりあえず回復魔法のレベル上げは置いておき、先へと進むことにした。
それからだいたい二十分、いくつか宝箱でアイテムをゲットしつつ、俺達はボス部屋へと辿り着いた。
「さくさく進んだな」
「順調に行き過ぎて怖いくらいですね」
最前線ではあるが、その理由は物理耐性がある魔物ばかり出現するため攻略が遅れていたからであり、出現する魔物はそんなに強くない。
魔法が使える俺たちは問題なく進むことができた。
「一応エスケープオーブも持っていることですし……行きます?」
「行くか、たぶん余裕だろ」
ここまでの戦闘でかなりの余裕があった俺には、負ける未来が見えなかった。
この層くらいなら恐らく大丈夫……おっと慢心はよくないな、気を引き締めていこう。




