第30話 女子力と荷物
いつものようにネットサーフィンをしていると、携帯の上部に真奈さんからメッセージが届いたという通知が出た。
『今日は早く終わったので、一緒に買い出しに行きませんか?』
買い出しというのは、料理を教えてもらう日に使う材料のことだ。
基本的に教えてもらう側である俺が行っていたのだが、今日は彼女も同行するらしい。
『分かりました。一度帰りますよね?』
『はい。準備が出来たらそちらへ呼びに行きますね』
『了解です。待ってます。』
「こういう文でのやり取りをすると、つい堅い文章になってしまうのはなんでなんだろうな」
どうするかが決まったので、適当に絵文字を入れて会話を終わらせた。彼女の方はスタンプだったので、俺も何かスタンプを買おうかなぁ、と少し思う。
外出の準備を一通り終え、彼女を待っているとインターホンが鳴った。
今行きます、とだけ言って玄関へ向かう。
「む、むめいさん!」
「ん? どうした?」
「きょっ、今日の私の服装、どう思いますか!」
季節はもうじき冬になる。
彼女の服装はジーンズに白シャツ、上はノーカラーコートで少し寒そうだなと感じた。
「別に、普通だと思うけど」
「ですよね! 普通ですよね!」
うんうん、と自分を納得させている彼女に、急にどうしたと話を聞くと、同僚の女性隊員に服装のセンスを馬鹿にされたという。
客観的な意見が欲しかったらしく、俺に評価してもらいたかったそうだ。
「私だって普通にオシャレできますし! 女子力もあるしっ!」
恵美さんは料理できないから私のほうが総合女子力は高い! とその同僚の恵美さんとやらに対抗心を燃やすのはいいが、おそらく俺にも服装センスはないぞ。
近場にあるスーパーへとやってきた。
品ぞろえは豊富で、ここでいつも買い出しを行っている。
彼女に何を作るのかと聞くと、今日は角煮を作る予定なんだそうだ。
「ブロック肉は選ばないと脂身ばっかのやつもありますからね」
つまり、俺に選ばせるのは不安だから自分も来たと。別にいいけどね、うん。
材料はほとんどが調味料で、おそらく家にあるもので足りるから買わなくていいそうだ。
レジに向かい会計を済ませる。商品の中には彼女の食料品もあったが、わざわざ会計を分けるのも面倒なので全部払っておいた。
彼女が気づいたようで、何かを言おうとする前に俺が先に口を開く。
「料理を教えてもらうからな、今日の謝礼だとでも思ってくれ」
「はぁ……っていやいや! これはそもそも魔法を教えていただいたお返しで……」
「もう遅い、諦めて奢られたまえ」
勝ち誇ったような笑みを浮かべる俺に呆れたのか、「ほんとにもぉ」といって引き下がる彼女は、少し嬉しそうな顔をしていた。
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「美味い」
教えてくれた作り方を参考に、真奈さんが帰った後も自分で作ってみたのだが、やっぱり彼女の作った角煮の方が美味しいと感じる。
「そういえば、明日荷物が届くっていってたな」
帰り際、彼女がそう言っていたのを思い出す。
荷物の中身は俺がダンジョンに残していったアイテムだ。必要だと判断したものだけ送られきて、それ以外は売却して金になるという話だ。
ミリタリーの中には、俺と同じく鑑定スキルを持つ隊員がいる。その結果が先週送られてきたので、必要な物と売却する物を書いた紙を真奈さんに渡したのだ。
「随分と早かったな、だいたい三日くらいか?」
彼女に紙を渡したのは四日前だったので、あちら側は三日でアイテムを選別し、諸々の手続きを済ませたことになる。
「まぁ、前にドロップアイテム云々の話をしてからだいぶ経っているからな」
新ダンジョンのアイテム回収と鑑定にはかなりの時間が掛かったらしい。それに比べれば、選別くらいすぐに終わらせられたのだろう。
ちなみに、紙を受け取った彼女が内容を見たがっていたので、問題ないと言って見せてあげると、大層喜んでいた。
いわく、俺と出会った日にドロップアイテムの存在を知ってかれこれ半年近く経つので、そのアイテムを今か今かと待ち望んでいたようだ。
彼女がそこまで欲しがっているのは、おそらく個人ではなく軍としてのことを考えた上でだろう。
テレポート機能実装から少し経ち、日本は世界と比べて少しずつ遅れだしていた。
俺のドロップアイテムはそのほとんどがポーションや武器防具である。それがあれば、ダンジョン攻略はさぞ捗ることだろう。
俺が必要だと記したのは、いくつかの装備とポーションだ。
しばらくダンジョンには関わっていない。俺は明日届く久しぶりのドロップアイテムに、心を躍らせるのだった。