第31話 攻略の行方
自宅に例の荷物が届いた。中身はもちろん俺のドロップアイテム――かれこれ半年ぶりだ。
今朝、鏡の前でダンジョンランキングを確認したのだが、俺はまだ一位のままだった。
「そろそろ抜かされてもおかしくない頃なんだが」
ランキングは一体何が基準で決まっているんだろうか。色々調べているが、これといって確かな情報はなかった。予想できるのはステータスの数値か、レベルあたりだ。
今度はもっと最先端の……それこそ研究者とかの論文も見てみようか。
そんなことを考えながら、注文したアイテムがちゃんと届いているのを鑑定スキルを使いながら確認していく。
「よし、ちゃんとあるな」
しっかり届いたことに安堵し、俺はふと疑問に思った。
そういえば、言うほど冒険者が装備を持ち歩いているの、見たことないな。
「装備ですか? 私は支部に置いてあるのでここには持って帰ってこないですねー」
彼女に聞いてみると、ミリタリーの隊員は各部隊の活動拠点に装備を保管しているのだそうだ。
そして、一般人はなんとカバンの中に入れているらしい。楽器を入れるようなでかいケースに、武器や防具を入れて持ち運んでいるようだ。
「まーたまにいますけどね、自分の装備を見せびらかす人」
「やっぱりあれはそういう部類の奴なのか」
「男性に多いですよね……」
外出するとたまに見かける冒険者装備の人は、そういうことらしい。
「それよりも聞いてください! 明日はいよいよダンジョンボスに挑戦するんですよ!」
ダンジョンボスとは、俺の攻略したダンジョンでいうところのカオスソルジャーのことだ。
テレポート機能が使えることになったおかげで、ダンジョン攻略が一気に加速したのは知っている。
海外、例えばアメリカと中国は、既にいくつかのダンジョンを踏破している。
明日行われるダンジョン攻略も、日本初のダンジョン踏破を掛けた戦いだ。公開されている攻略メンバー表は見ていないが、おそらく優秀な彼女も参加することになったのだろう。
料理教室が行われた後、早めに出なければいけない彼女は少し雑談して帰っていった。かなり緊張しているようで、料理中もどこか集中しきれていない様子だった。
俺は今日作った唐揚げを食べながら、彼女の部屋がある方向を見た。
「……成功するといいな」
♦
俺はドロップアイテムの装備を装着して、問題なく動けるかどうかを確認していた。
そもそも、ダンジョン産装備の必要性についてであるが。まず分かってほしいのは、俺たちの身体能力は異常であるということだ。
そして、敵もまた異常である。
布で作られた装備なんてすぐに破れてしまうし、金属で作られた装備は頑丈だが、動きずらい。
耐久力もあり、なおかつステータスに補正もかかるダンジョン産装備が、一番利便性が高いのだ。
「おっ、これなんか子供心がくすぐられるなぁ」
黒いコートに黒いズボン。黒い指抜きグローブがセットのこの装備。なんと気配が薄くなるだけという効果なのだが、何気に強いのでは? と思ったので残しておいた。
「さて、今日は何を作るかなー」
真奈さんが居ないので簡単な料理に決めて、材料を買うために外出の準備を始めた。
結構遠くまで来てしまった。
どうせなら材料に拘ってみようと思い、新宿にあるスパイス専門店に来てしまった。お察しの通り、今日の献立はカレーだ。
「そういえばこの辺りに今日攻略するダンジョンがあるんじゃなかったか?」
ダンジョン攻略ができるようになった時のために、住んでいる近くのダンジョン情報はある程度調べたことがある。
「どうせなら見に行ってみるか」
きっとお祭り騒ぎなんだろうなぁ、と思いながら、新宿ダンジョンへと向かった。
「お、いるいる」
一層だけが地上に飛び出た新宿ダンジョン。その大きさには似合わない小さな入り口では人だかりができていた。
「このまま見殺しにしろとおっしゃるんですか!!!」
近くに行ってみると、男性の叫び声が響いた。なにやら騒がしい。誰もが中央で起きている言い争いを固唾を呑んで見ていた。
ざわざわとしている冒険者の格好をした集団に近寄り、聞き耳を立てる。
「何があったんだ?」
「あぁ、どうやら誰かがダンジョンに取り残されているらしい」
「さっき誰かが副隊長っていってるのを聞いたぞ」
「なに? となると取り残されてんのはまさか……戦場の女神か!?」
「おいおいまじかよ、てことはこの攻略は失敗なのか?」
「さっきミリタリーの総隊長が見えたが、明らかに成功って雰囲気じゃねえぞ」
どうやらダンジョン攻略に失敗し、隊員が取り残されているようだ。どうりで剣吞な雰囲気をしているはずだ。
それに戦場の女神といえば、たしか冒険者人気ランキング二位の人じゃないか。大変なことが起きているのだろう。
俺が出来事を考察していると、中央の人だかりにいた中年の男性が叫んだ。
「あの子はまだ若いんだぞ! 俺らなんかより……もっと……ずっと……」
崩れ落ちる男性の周りでは、同じような格好――おそらくミリタリーの制服を着た人たちも顔を下げていた。
その時、普通ならこの距離では聞こえないであろう、一人の女性隊員の悲痛な呟きが――俺の耳に届いた。
「真奈ちゃん……」
今……なんと言った?




