放浪剣豪
すみません
まだ嵐狼編続いてました
もうダメだと思った
何もできない
あいつを見ながら笑ってる事しかできることはない
そんなことを考えてると誰かがあいつの尻尾を切った
誰だろ?
気づいたらあいつも立ち上がってる
やっぱりあいつの勝ちだったんだね。少し悔しい。
「bahu」
あいつが何かを言った、よく聞こえないけど。
目の前の影が三個に増えてた
「bau」
なんとなくあいつがぼくのところに来たいんだということが伝わった。
僕は腕を上げようとしたけど指が少し上がっただけだった。
それに気づいてくれたのか前の三体?人かな 少しだけ間隔を開けてくれた。
あいつは前のめりになり鼻で体を支えるように進んでくる。
そのまま僕の足に当たると
「 ・・・・・・」
なにを言ったかは聞こえなかった
けど
「(またいつかね)」
そう心の中で返事をした。
きっとこれで合ってる。
するとさっきまで僕を支えていた何かがなくなり、僕は意識を手放した。
「おいおい放浪のに、ばあさんや。おれぇあいったい何を見てたんだぁ?」
「じいさんや、今は放浪ののんとこの息子手当せんといかんじゃろ。そんなことは後で考えたら良いことじゃ。」
「そうですね。お二人にはまずマーリンの治療をお願いします。私は警戒をしていますので」
「それにしても、よぉ〜生きとったの放浪なんとこの坊は、全身の骨が逝ってもうとりゃあせんかいこりゃあばあさんや」
「わかっとるわい。内臓の方も相当やられとる、破裂しとらんのが不思議でならんわ。
どれだけ莫大な魔力流し続けて身体強化したったのか想像もできん。」
「こりゃぁ〜ちっとおれぁにはできること少ないぜぇ
おれぁが坊に魔力ぁ流して身体強化をよぉさせてるから、ばあさんたのまぁ」
「じいさんやそれはいいがの、備蓄分の魔力も使ってやりなよ、半端な量じゃ意味ないからね。
とは言ってもあたしでも全部は無理だな、シェヘラじゃないと難しいよこれは。」
「んじゃぁここで応急処置をぉして村にすぐに帰るってぇ感じでええかいの。」
「わかりました」
「それがええ」
三人は平常運転の様子のままテキパキとやることをやっていく。
「おぉぉこりゃどうするよ」
「今治療の手は止められないよ」
「お二人はマーリンの治療をそのままお願いします。」
エルヴィンスは少しだけ前に出て突然現れた存在を警戒する。
「(現れる理由は揃ってる。出来れば現れないで欲しかったがこればかりは仕方ない。)」
【深緑の大精霊】この森の絶対支配者
森が傷を負うと現れるもの。
森の管理者
姿はシーハ(地球でいうなら鹿にかなり似ている)に類似しているが、角は鉱石の様に煌めきとても立派だ
それが今ここより少し離れた、森にぽっかりと空いた更地に現れた。
嵐狼とマーリンの戦いの跡なのだろうが、凄まじいものだ。
そして大精霊の存在を目で捉えるまで気づくことができなかった。
大精霊は更地と化した広大な土地を見回しながら歩いていく。
そして何かを見つけたのか倒木が積み重なったところに近寄ると【闇に佇む者】を角で持ち上げ更地の中央に置いた。
【闇に佇む者】はそのまま地面に飲み込まれていく。
気づいたら倒れていた木が全て地面に飲み込まれていっている。
全てを土に還すと大精霊は私達の方へと近づいてきた。ゆっくりとした歩みの速さだが決して逃げられないと確信させるものがその歩みにはあった。
後ろの二人も同意見なのだろうマーリンの治療を黙々と続けている。
大精霊は嵐狼の前で立ち止まると、ゆっくりと私達を観察しはじめる。
そうしていた大精霊はマーリンに顔を近づけてしばらく眺めていた。
ある程度眺めた後に大精霊は嵐狼の尻尾以外を土に還し、そうして満足したのか森の奥へと消えていった。
「お二人とも終わりましたか」
「あ あぁ粗方終わったぜぇ なぁばあさん」
「えぇここでできることは終わったね」
「では急ぎ戻りましょう」
「この嵐狼の尻尾はどうするね」
「私が運びます。大精霊が土に還さず置いていったということはそういうことだと思いますから」
「了解したぜぇ」
そこからは誰一人喋ることなく村へと走った。
村に入る前の空き地に嵐狼の尻尾を置きパームさんに防腐処理を頼んで、シェーラのもとに急いだ。
ことが始まったのは数時間前、
日がもうすぐ沈むという時にトムが傷だらけで私達の家に飛び込んできた。
私はちょうど仕事を終わらせていたので最初にトムの対応することになった。
体はかなり汚れており、傷も走ってきたせいか酷いものになっていた。
私はトムを抱えて自分の仕事部屋に行き、リビングにいるシェーラを呼びにいった。
あくまで自然に周りを慌てさせないように。
シェーラにトムの治療を頼み、私はルートにルーリィをここから出さない様にと目線で伝えた。
ルートはそれで理解してくれた様だ。自慢の息子だ。
仕事部屋に入るとシェーラに治療されているトムはかなり落ち着いた様で話すことを纏めていた。
「トム話を聞かせてもらえるか?」
「はい!」
トムの説明は端的なものだった。焦って説明が足りないところも多々あったものの、私とシェーラは急かすことはせずに話を聞く。
トムは話し終わるとすぐに私達を案内しようとしていたがシェーラが魔術で眠らせた。
そしてシェーラはトムをベッドに寝かせ、毛布をかけてから話を再開した。
「わたしかエルどちらかがここに残ることは決定として、マーリンのところに向かうのはわたしでいいかしら?」
シェーラの言っていることは理解できる。
あのマーリンが一緒に逃げずにトムだけを逃したということは、トムを守りながら逃げ切るのは不可能と判断するほどの魔物ということ。
そして中天帝国の魔物討伐、風の刃を纏う大型の狼と言えば嵐狼だろう。
嵐狼のランクB+、個体によってはS+に届く魔物だ(ランクはEーSSSまであり、魔物のランクと同じ冒険者四人ほどで対等という考え方。SSSは大精霊や龍王などで、 SS+までが実質的に最高である)
いくらマーリンでもかなり酷い傷を負っているだろう。
そのことを考えるならシェーラの方が適任だが、
嵐狼の討伐をし、マーリンを助けると考えるなら私だ。だがその場合マーリンが瀕死の時に私では対処が難しい。
「……あぁっと聞こえとるかいのぉ。
こちらパームじゃぁ。なにか大森林で起きてるっぽいんじゃがなぁ、なんか知らんかぁ?」
仕事部屋の窓の外からパームさんがこちらに話しかけてきた。
いつも突然な人ではあるが今回に限ってはいいタイミングだ
「シェーラ、マーリンのところへはわたしとパームさん シーカさんで向かう。いいね?」
「……わかったわ。わたしがここに残り村の防衛をしておくわね。マーリンをお願いね」
「ああわかっている」
「おぉ〜い、なんの話じゃぁ〜」
「パームさん私と一緒に嵐狼の討伐に行ってもらいます。今はマーリンが足止めしている様です。
それではシーカさんにもこのことを伝えて準備してください」
「おっおぉう!わかったぜぇ!」
私は後のことをシェーラに任せ、実戦用の装備を身につけていく。
パームさんも流石に動きが早い様で、すぐに家に戻りあれこれをしているのだろう、隣の家が騒がしくなった。
三分ほどで三人とも準備を整えて私の家の前に集まっていた。
「話はじいさんから聞いたよ。あたしもこのメンバーに反対はないがね、マエルをこの家に置いといておくれ。」
「はい。それはもちろん構いません。
マーリンをお願いします。」
「シェヘラには日頃から世話になっているからね問題ないよ」
手短に情報共有をしてからマーリンの元へ急いだ。
パームさんとシーカさんはもとAランク冒険者で
【攻防の魔導師】とかなりなの通っていた人たちだ。
それに二人でA+ランクに到達しており実力はA+ランクの中でもかなりの上位にいる。
私も一応冒険者資格は有していてランクはA+になっている。
「それにしてもなぁあのソロで有名な【放浪剣豪】とよぉ〜共に戦う機会が来るとはぁ面白いこともあるもんだなぁ、ばあさん」
「そうだねじいさん、交流はあったものの共に戦うことはなかったね」
「私の方こそツーマンセルで有名な【攻防の魔導師】と共に戦うとは思っていませんでしたよ。」
「がぁはっはっは、確かにおれぇらも他のヤツァと共に戦うのはぁ久しぶりだなぁ」
「じいさんや無駄口たたくのはそれくらいにして準備しな、そろそろ着く頃だよ」
「おいおぉい、こりゃぁすげーな。」
「確か嵐狼だったね」
「はいそうです。ランクはA+以上は確定ですね」
そこは本来空が見えないほどに巨木が連なる森であるはずの場所だ。
そのはずの場所が今は更地と化している。
それも家が5件以上入るのではないかというほどの規模でだ。
「ばあさん、放浪のんとこの坊や嵐狼はどこにおる?」
「今やっとるから少し静かにしときな。無駄に魔力が濃いんだからここら辺は………………左斜め前方、
更地の奥に坊と嵐狼がいる。どちらとも瀕死だよ」
私はそれを聞いた瞬間に全力で走り出した。
先程まではお二人を置いていかない様にセーブしていたが、もともと私は速さ特化の戦い方を主にしている。
(疾いの方ではなく速いの方。
別にどちらでも構わないのだが私より疾さで見た場合マーリンの方が疾い。
そういう区別をしっかりしておきたい性格なんだ私は)
シーカさんの行った通り、その方向には二つの気配を感じる。
そして目に入ってきたのはボロボロになり頭から血が流れているマーリンと、倒れている状態のまま尻尾を振り上げている嵐狼の姿であった。
私は《縮地》を使用して瞬時にマーリンの前に移動し嵐狼の尻尾を叩き落とすつもりで剣を振るった。
嵐狼は体に嵐属性を纏い、体毛は魔力によって固くなる性質を持っている。そう簡単に切断まではできない性質を持っているはず。
そのはずだった。
嵐狼の尻尾はいとも簡単に切断でき、嵐属性も纏っていない様だ。
そして何よりおかしいのは尻尾がなくなったのに嵐狼は痛みを感じてるそぶりもなく落ち着いていることだった。
よく観察すれば嵐狼のうなじ部分には折れた鉈が刺さっており、その周辺はぐちゃぐちゃになっている。
少しづつ治り続けはしているもののあの鉈の破片のせいで塞がらないのだろう。
お二人もこちらに追いついてきた。
これがどういう状況か理解しかねているのだろう。
私も何がどうなっているのか理解できない。
そうしていると嵐狼はおもむろに立ち上がった。
その立ち姿には一切の生気を感じない。
「bahu」
この巨体から出てくるとは思えない、力のこもっていない鳴き声だった。
嵐狼は私達の事を認識しているものの相手にはしていないのだろう。マーリンの方に視線を固定している。
「bau」
後ろでマーリンが動くのを感じた。
道を開けてという事なのだろうか、わからないまま私達は嵐狼に道を開けた。
嵐狼はゆらりと移動し鼻を地面に擦りながらマーリンの方へと近づき、マーリンの足に鼻が当たると、
「・・・・・・・」と何かを呟きそのまま崩れ落ちる様にして倒れた。
そして場面は村にたどり着いたところに戻る。
村の中に入ると一直線に私の家に向かった。
家の中にはシェーラが待っており、私が抱えているマーリンを見て言葉を失っていた。
今のマーリンは莫大な魔力での身体強化が切れて体が維持できなくなってきているのだ。
そのせいで内部出血が所々で起き、赤黒い斑点が出来ている。
パームさんとシーカさんが応急処置をしてこの状態なのだ、私一人ならどうなっていたかわからない。
シェーラは私からマーリンを受け取ると、シーカさんから説明を受けながら自身でもマーリンを調べていく。
「単純な負傷ならあたしらでも治療できるんだがね、
魔力が傷口から体に染み込んじまってるせいでうまく治癒魔術が効かないのが一つ。
強化魔術で魔力回路限界までの強化を信じられないことに戦っている間ずっとしたたんだろうね、そのせいで今の坊の体は強化されてる状態じゃないとその機能を維持できなくなってる。これが二つ目。
そして数十箇所をかなり強引に治療してるせいで魔力回路が少しずつ歪んでるよ、戦ってる間はバカみたいな量を流してたから気にならなかったんだろうけど、今の内に直しておかないと最悪なことになるね。
だいたいこんな感じさ」
「わかりました。」
「あっちで最低限、脳で内部出血が起きない様にはして、できるだけ身体強化をしておいた。
魔力回路も完全に固定されない様に回復の邪魔もしてある」
「ありがとうございます。
私の部屋に一応の準備をしています。
シーカさんにも手伝って欲しいのですが大丈夫ですか?一人では難しそうです。」
「ああ大丈夫だよ。そのために来たんだからね」
「エルはルートとマエルのところにいてあげて、とても不安がっているもの」
「あ…あぁ」
「そんな顔をしないで、ここからはわたしの役目よ」
そう言い残しシェーラは部屋の中に入っていった。
私はリビングに向かった。
そこではルートとマエルが不安そうに私を見ていた。
「エル父さん、マーリンはどう」
「かなり負傷している。今はシェーラとシーカさんが治療をしている」
「エルヴィンスさん、マーリンは治らますか?」
「ああ治る筈だ。シェーラとシーカさんが治療をするのだからな。」
「マーリンは何と戦ったの?」
「嵐狼という中天帝国の【蒼華火草原】に生息している魔物だ。マーリンが戦った嵐狼はランクとしてはA+以上だろう。私がたどり着いた時にはもうすでに勝負はついていた。
私は何もしていない」
二人はそれきり何も聞いては来なかった。
ここまで自分の無力さを感じたのは久しぶりだ。
朝日が昇り始めるまで私達三人はただリビングに座りシェーラたちを待っていた。
「三人ともずっとここで待っていたのね。
もう大丈夫よ。数週間マーリンには魔力を使わないでもらうことになるけれど、後遺症もなく治ったわ。
エル トール マエル そんな顔をしないで、今回のことは誰もどうしようもなかったわ。
それにそんな顔でいたら、今は寝ているルーリィにまで伝わってしまうわ。」
その言葉を聞いてやっと心に少し余裕ができた。
ルートやマエルもそうなのだろう表情が和らいでいる。
そしてそれを見て今私がどんな表情をしているのかを理解した。
私もまだまだみたいだ。
まったくここ最近は自分の力不足を思い知らされることが多い。
「(それもこれもマーリンが原因だ。)」
私はそのままリビングで眠りについた。
少しでもいいなと思っていただければ幸いです




