学校と幼馴染
――ピピピピピ―――――ッ!!
気持ちよくベッドに潜るオレの耳元に目覚まし時計のアラームが響く。
眠りの中で二度寝をするか覚醒するか考える。こういう少し肌寒い日は、そのまま起きるかどうか悩むのだ。
まだ眠いし、もう一回寝………
その時、ぱたぱたと階段を駆け上り、オレの部屋へと近付く足音が聞こえた。
「良人?良人~!!」
オレを呼ぶ明るい声が聞こえる。この声は聞き違えようがない。幼馴染の皐月だ。
カチャリと、ドアノブを捻る音が聞こえた。どうやら、オレを起こしに来たようだ。
「朝だよ良人っ!!ほら起きてっ!!」
バサリと、布団が剥ぎ取られる。直後にオレの身体は四月の未だ冷たい空気に包まれた。
「ふあーぁ…何で漁師ってハゲ頭に捻りハチマキで船の船首に仁王立ちしてるんだろうな……」
「起きようよっ。寝ぼけてないでさ」
もぞもぞと起きだすオレを見て、彼女は階下へ降りていった。
オレは半分眠ったままの身体を無理やり動かし、ダラダラと制服に着替え始めた。
「おはよう、お兄ちゃん」
階段を下りると、妹の茜は既に起き、本を読みながら優雅な朝を迎えていた。
……といっても時間はあと10分ほどで出発するとして遅刻ギリギリ、彼女はもう家を出る寸前だった。
「それじゃ、行ってきます」
「茜ちゃーんっ!行ってらっしゃーいっ!!」
キッチンから皐月の明るい声が響く。ふと、玄関の前で茜が立ち止まった。
「そうそう、あまり皐月を待たせちゃ駄目だよ、お兄ちゃん」
それだけを伝えると、茜は家を出た。
「はい良人、朝ご飯できたから早く食べるっ!」
朝飯が出来るや否や、オレは皐月に座らせられると無理やりに朝飯を詰め込まれた。
「オイ待て、これじゃ息が…むぐぁ」
「なら早く起きてよ。いつも良人ギリギリまで寝てるんだから」
「バッカお前、あの幸福のひと時を逃せっていうのかよッ?!あのもう一度寝ようか寝まいかっていうのが一番幸せなんだろっ」
「はいはい、早くご飯食べなよ。てゆーか、ご飯が詰め込まれてるのにどーやって喋ってるのさ」
さすがにこんな滅茶苦茶な飯に毎日付き合わされたら慣れるものだった。
「ほら、食べたら学校行こっ。遅刻しちゃうよ」
家を出てから駅まで急いで行き、電車に滑り込めたおかげで皐月は上機嫌だった。
「よっし、なんとか今日もいつもの電車に乗れたよ。セーフだねっ」
「陸上部の猛ダッシュに付き合わされるこっちの身も考えろよ…」
皐月は所謂スポーツ少女で、陸上部に所属している彼女は新人戦や地元の大会まで、あらゆる大会で優勝をしている俊足の持ち主だ。
ソイツの全力ダッシュについていけるんだ、オレも陸上部に所属していればある程度活躍できただろう……と少し後悔していた。
「陸上部で思い出したけど、最近部活の朝練には出てないよな。部活には出なくて―――」
「今日も晴れてるねーーーーっ!!!」
言いかけた途端、皐月は両手を空に突き出して何事かを叫びだす。突然の事に、オレだけでなく他の乗客もこちらを見て唖然としていた。
――何か言いづらい事でもあるのだろうか?
ここのところ、皐月は部活の話になると急に暗くなったり、話を反らそうとする。普段が明るい皐月なので、俯いた顔には殊更大きく影が落ちた。
「あー……、何だ、その。最近は皐月が来てくれるおかげでオレも早く起きれてるワケだし……一応感謝はしてる。一応な」
そんなオレの言葉を聴くと、皐月はにぱっと向日葵のような笑顔を向けた。
「――ああ、うん、そうだねっ!良人はダメな人だから私が面倒見ないとっ」
「失礼なっ。自分で生活くらいできるっつの」
「ふーん…例えば?」
「風呂掃除と深夜アニメの録画とフィギュアの一括購入だ」
「風呂掃除はともかくとして後ろ二つはどうかと思うよ……」
冷めた目つきでオレを嗜めて来る。
「まぁ、別にダラッとしてても毎朝皐月がお越しに来てくれるし」
「良人――そ、それは―――」
言葉を詰まらせる皐月。見ると、彼女の顔は真っ赤に染まっていた。
不思議そうに見ていると、咄嗟に持っていたカバンで顔を隠した。今日の皐月は、どこかおかしい。
妙に暗かったり、赤くなったりと表情をコロコロと変えていた。
「ま、まあ今のは聞かなかったことにしておくよ」
「―――――?」
結局、最後まで彼女が何を考えているのか分からなかった。
「さっちゃんはねーっ、女の子だよっ本当だよーっ」
「おいやめろ、その曲に隠された4番を聞くと呪われるんだぞ」
あの後電車を降りたオレ達はまた学校へ走る事となった。
学校の正門を潜り抜けると、皐月の状態は元通りに戻っていた。
「なんか面倒だよね、学校に来るの」
「それが毎朝オレをたたき起こしに来るヤツの言う台詞かよ」
「だってぇー…授業、面倒なんだもん」
「だからっ、それを先に言われたらこっちは授業受けることを肯定しなきゃいけなくなるんだよッ!!」
通路脇の桜が風に揺られて散っていく。他愛も無い話を続けられる事が、ガラにもなく楽しく感じていた。
―――その時だった。
「あれ――?あれは……」
オレは通路脇の花壇に、ふと違和感を感じた。
いつもはそこに無い、青いビニールシート。
そして、ソレに被されるように横たわる大きな塊。
ソレはまるで人間ほどの大きさで――
――屋上のほぼ真下に位置し―――――
――昨日、オレと先輩が出会った場所の、ほぼ真下だった。
「……どうしたの、良人?」
オレの異変に気がついた皐月は、オレの目線を追って花壇の方へと目を向ける。
いや、何でもない―――そう言うよりも速く、彼女の目にはソレが写っていた。
「………あ」
「――行こうぜ」
「う、うん……」
オレ達は努めてソレから目を反らし、見たものの記憶を頭から追い出そうとした。
「で、何の話だった?良人」
放課後、オレは教師に呼び出しを喰らい、長期にわたる尋問を受けていた。
内容は、昨日オレがあの生徒を屋上から落としたのではないか―――というものだった。
「昨日の屋上の掃除当番、良人だったもんね。で、どうだった?」
「どうって何もしてねーよ。ただ屋上の掃除してただけだ」
オレが教師に事情聴取を受けていた時に、生徒会長を名乗る生徒がオレの無罪を証言してくれていたらしい。
何でも、落し物を探して屋上に来た時に偶然オレと出くわし快くオレが探すのを手伝ってくれてたのだとか……
とにかく、その証言によってオレは無罪放免、釈放となった。
「これで…九人目か」
それが、職員室を出るときに聞いた言葉だった。
「本当だったんだな、噂―――」
オレや皐月が二年に上がり、茜が入学したその日から、不可思議な噂が流れていた。
――ウチの学校の生徒が失踪し、13日後に必ず死亡して発見される――――――
始めは信じてなかった、そんな噂。
しかし、目の前で死体を見た時、その噂は真実に変わった。
――ウチの学校の生徒が失踪し、13日後に必ず死亡して発見される――――――
先輩について触れてないです。すみません。
あと、相変わらずダッシュ(――)←コレ が多いのと文の区切りが拙いです